第34話 リミッター解除
「チャンスは一度しかありませんよ」
「わかっていますわ、あまりプレッシャーをかけないでくださる」
「大丈夫です、あなたならやれます」
これが本物の鼓舞という奴なのか。遼太郎の言った策はシンプルながらも、めちゃくちゃなものだった。
遼太郎はブリュンヒルデのコクピットを開けて外へと出る。マイクの機能が死んでいたから外に出ざるを得なかったのだ。
「おいかかってこいよバンデッド! 武器なんか捨てて!」
「なんだテメーは! ヒーハーーーされてぇのか!」
「わけわかんないこと言ってないでかかってこい! ボコボコにしてやる!」
「その死んだ機体で何ができるってんだよ!」
「怖いのか? 怖いんだろ? 何から何まで卑怯な奴め。そんなんだからモテないんだ、言っておくけどこの女は俺のだ! いい女だろう!」
遼太郎はコクピットからヴェルティナを引っ張り出して抱き寄せた。
「俺の女をボコボコにしてくれた礼をしてやる! かかって来いこの非モテめ!」
その言葉にバンデッドリーダーはプツンとくる。
「上等だぶっ殺してバズーカスパイダーにつないで引きずり回してやる!」
「かかって来いへなちょこめ!」
挑発されたバズーカスパイダーは勢いよくこちらに走って来る。
ヴェルティナをコクピットに戻し遼太郎はタイミングをはかる。
「まだです、まだです」
バズーカスパイダーとの距離が間近に迫り、あと数メートルというところで遼太郎は声を上げる。
「今です!」
叫びと共にブリュンヒルデは横っ跳びすると、破壊されて転がったクレーンのワイヤーを拾い上げバズーカスパイダーをワイヤーで絡めとる。
「なんだと!?」
「ぶん投げてください!」
ヴェルティナは思いっきり操縦桿を引く。だが、バズーカスパイダーのパワーが強く、出力が下がっているブリュンヒルデでは無理やり放り投げることができない。
「操縦桿がもっていかれますわ……」
脚部に踏ん張りがきかず、ヴェルティナの握っている操縦桿が前へ前へと引っ張られていく。
もうダメだ、離してしまうと思った瞬間。
「頑張ってください!」
コクピットに戻って来た遼太郎がヴェルティナの手を握り二人で操縦桿をめいいっぱいの力で引っ張る。
「動け動け動け動け動け動け!」
「動け動け動け動け動け動け!」
二人の声がシンクロすると、ブリュンヒルデのフェイスカバーが外れ、額に真紅のアイカメラが姿を現す。
[LIMITER-RELEASE INNER-BEAST起動]
機械音声が流れたその瞬間、ナイトオブラビットの特徴的なラビットイヤーから黄金の風が噴出され、ブリュンヒルデのパワーエネルギーは最大値を超え、ワイヤーをぶん投げる。
バズーカスパイダーは機体ごと宙を舞い、砂地へと背中から叩きつけられる。だが砂がクッションとなり大したダメージにはなっていない。
それに対してブリュンヒルデはたった一回の出力全開で、機体は動かなくなっていた。
「ヒーーハーーーーー俺様の勝ちだ! 死ねぇぇぇぇ!!」
「それはどうですかね」
「な……に……」
バズーカスパイダーの脚部はみるみるうちに沈んでいく。
「まさかテメーら俺様を蟻地獄に! ハメやがったな!」
「あなたがはまったんですよ」
「だが、こんなものブースターを使えば……」
バンデッドリーダーがアクセルペダルを踏みこむと、先ほどのブリュンヒルデと同じように背面から爆発が巻き起こる。
「なっ!?」
「さっき機体を背面から叩きつけて、バズーカスパイダーのブースターに大量の砂を入れました」
「まさか、これを計算して!?」
「そういう風にしたのは僕ではなくて彼女の腕ですので。少し甘くみすぎただけですよ。それでは」
遼太郎は沈みゆくバズーカスパイダーに手を振る。
「ひ、ヒーーーーハーーーーーーーー!!」
そのままバズーカスパイダーは砂に埋まり見えなくなった。
恐らくリスポーンポイントであるどこかの街に戻されていることだろう。
どうやら他のバンデッドも片付いたようで、ホワイトナイツたちが続々とブリュンヒルデの元に集まってくる。
どうやら防塵装置の耐久度ギリギリでなんとかなったらしい。
遼太郎は小さく息をつく。
ヴェルティナと遼太郎は機体を降りると100人を超えるバニーガールたちに囲まれる。
「ムッシューー来てくれると思ってましたよ!」
バニーガールたちにもみくちゃにされる遼太郎。別に苦しくはないがモデリングデータがぐちゃぐちゃになって、もう何が何やら。
「ほら、お嬢様もお礼を」
ヴェルティナはずいっと前に出される。
「その、ムッシュ助かりましたわ……」
「いえ、なんとか勝たせたかったので。間に合って良かったです」
遼太郎はブリュンヒルデを見上げる。
「大分ボロボロにしてしまいましたね」
「ええ、わたくしが不甲斐ないばかりに……あの最後の力は何だったのでしょうか」
「多分あれですよ」
遼太郎はブリュンヒルデの頭頂部を指す。するとそこに純白の兎が顔を覗かせていた。
「あれは……」
「カーバンクルです」
「えっ、カーバンクルって確かイベントクエストを進めないととれないのでは?」
「実は機体に裏パラメーターで好感度がありまして、それをマックスにしても出てくるんですよ」
「そうなのです?」
「ええ、好感度テーブルを高く設定しているので普通は出てこないんですけど、ヴェルティナさんが大事に機体に乗っていた証拠です」
「でも、なぜそんなことを?」
そう疑問を口にすると、空から突如大きな機械のワシが飛来し、遼太郎の肩に停まった。
「ごめんね、君にも待機してもらってたんだけど使わなかったよ」
遼太郎はワシの頭を撫でると、ワシは目を細めて頭を下げていた。
そこでヴェルティナはようやく彼の正体に気づく。
「あなた……もしかしてあの時メタルウイングに乗っていた……」
運営の方では? と口にしかけてヴェルティナは止まる。
彼女もゲームに関係している人間だからこそわかる。恐らく彼はプライベートで今ここにいる。自分がもし運営じゃないのかと気づけば、彼はここから姿を消すしかないだろう。
自分で出て行けと言っておきながらだが、それは嫌だと思った。
「ムッシュ、聞きたいことがあるのですが」
バニーガールの一人が意地の悪い笑みを浮かべながら近づく。
「なんですか?」
「あのときの俺の女だと言ったのは嘘偽りはないのですか?」
「いや、あれは相手を挑発する為のわざとでして、すみません」
遼太郎はヴェルティナに頭を下げるが、本人はクロワッサンみたいな見事な縦ロールをいじり頬を赤く染めている。
「ムッシュ遼太郎、あなた言ったことへの責任が発生することはご存知でしょう?」
「いや、まぁはい……」
「あなたをホワイトナイツのナンバー2にしてさしあげますわ。お喜びになって」
「あ、ありがとうございます」
冷や汗だくだくな遼太郎と違い、バニーガールたちはおぉっと驚いている。
「それではムッシュは我々のラバーですわね」
「ラバー……?」
部分的にヘッドギアが翻訳してくれなくて意味に困る。
本来ヘッドギアはどの言語も即座に翻訳してくれる優れた機能を持っているのだが、スラングなどには対応できていない。
「ホワイトナイツは全員のことをファミリーだと思っていますわ。しかしそのファミリーに順番をつけるときは男性なら一番上のファザー、二番目はラバーとなります。ファザーもラバーもファミリーのものですので、結果ナンバー2のムッシュは皆のラバーとなります」
遼太郎は肝心のラバーの意味がいまいちよく分かっておらず混乱していた。
「家族で一番上の階級が父で二番目がラバーで、父もラバーも家族のものだから結果あなたは皆のラバーとなる」
だからラバーとはなんなのだ。英語で考えれば恋人だが、それでは皆の恋人になると意味がおかしくなる。
遼太郎の直訳は間違っていないのだが、う~むわけがわからないと首を傾げる。
だが、ホワイトナイツの面々はあらあらまぁまぁと乙女のように色めき立っているので、別に悪いことではないのだろう。
「ではムッシュ、破損したわたくしの機体修理と共にチューンナップをしてくださるかしら」
「それは勿論、喜んで」
その数週間後、遼太郎はホワイトナイツから姿を消した。
バニーガールたちはおおいに悲しみ、遼太郎の捜索を行った。
「ダメですね、恐らくもうこのデルタサーバーにはいないのではないでしょうか」
「そう……」
ヴェルティナは恐らく自分が彼が運営と気づいてしまった時点でこうなるのではないかと思っていた。
このまま仲良くやっていければ……。それを言うなら最初の時点で仲良くしていればよかったと後悔する。
彼女の肩の上には白兎が大人しく座っており、時折目を細めながら耳をかいていたりする。
「もう一度会いたいですわ……」
ヴェルティナの胸は乙女のように高鳴っていた。
「どこのどなただったのか……もう少しくらい素性を聞いておくべきでしたね」
「そうね。でもきっとまた会え……」
綺麗に終わらせようと思って言葉を発したが、よくよく考えたら彼はグッドゲームズカンパニーにいるのでは? ということにヴェルティナは気づいてしまった。
会える。しかもゲームではなく本物に。
いなくなったことに対して落ちこんでいたヴェルティナの心臓が早鐘を打つ。
「学外旅行の行き先が決まりましたわ」
「その行先はどこへ?」
「勿論、日本ですわ!」
ヴェルティナは遼太郎の手によって大幅に改修され、性能が飛躍的に上がったピカピカのブリュンヒルデを見上げてニヤリと笑みを浮かべた。
ギルドホワイトナイツ編 了
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次回は麒麟の姉、桃火編
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