第29話 FINAL ATTACK

「迫田さんなんですか!? なぜこんなことをするんです!」

「あぁ、イラつくんだよお前が! 実績も技術も、コネも金も何にもねぇくせに、俺から全てを奪っていきやがって! テメーのいるその場所は俺の居場所だったんだよ!」

「僕は居場所にこだわったつもりはない! あなたとも一緒に仕事をすることができたはずだ! 勝手に自身の居場所をとられたと思って逃げたのはあなただ!」

「うるせーうるせーうるせー!! 黙れってんだよ、このクソド素人が! テメーさえいなければテメーさえいなければ!」


 迫田は操縦桿をがむしゃらに動かしメタルウイングを攻撃する。


「俺はな、この会社の重要な取引先である銀行頭取のエリートなんだよ! お前みたいなクソザコに俺の人生狂わされてたまるかよ! 死ね! 死ね! 死ね!」


 メタルウイングを何度も鎌で斬りつけるが、レイヴンと融合したメタルウイングにはかすりもしない。


「畜生、畜生! 麒麟の奴もテメーを入れてから人がかわったみたいに明るくなりやがって! 俺とお前何が違うって言うんだよ!」


「知りたいですか?」


 突如ゲーム内に音声が響くと、麒麟専用機であるレッドホーンがフィールドに転送される。


「なっ、麒麟……」


 動揺する迫田に麒麟のレッドホーンは向き直る。


「私を呼ぶときは真田と呼んでください」

「麒麟、お前ならわかってくれるだろ? 俺の気持ち? わかんなくてもわかるだろ。俺をないがしろに扱ったことは許してやるからさ。それに知ってるんだぜ、お前が俺の事好きだってこと。初代のプランナーに抜けられた後、俺が後釜で入った時、随分尻尾振りながら甘えてきただろ?」

「…………ええ、あの時の私は本当に何もできない、救いようのない愚図でしたから。あなたに頼ったことは認めます。ですがそれを好意と勘違いされるのは不愉快です」

「お前も困るだろ? 親父の銀行から取引停止されたら」


 迫田は親の七光り効果を全開にして、麒麟に迫る。

 遼太郎は無言でメタルウイングのテンキーにコード9999フォーナインを入力する。


[FINAL ATTACK STAND BY]


 メタルウイングがコードを受付必殺技を放とうとするが、麒麟はそれを止める。


「いいんです”遼太郎さん”ほんと優しいですよね、あなたは。これ以上喋らせる前に自分が仕留めてしまおうって、バレバレですよ」

「でも、真田さん……」

「遼太郎さん、私のことは麒麟って呼んでください」

「えっ?」

「私が手を下すとトラブルになる。グッドゲームズカンパニー対迫田さんの銀行という図ができあがってしまうので、何も関係ない自分なら仕留めることができるって思ったんでしょ?」

「…………」

「遼太郎さんの空気読みエアリード機能優秀すぎますよ。肝心なところぶっ壊れてるくせに」

「す、すみません」

「いいです。許してあげます」


 麒麟はデスバット、もとい迫田をターゲットとしてロックする。

 そしてレッドホーンのテンキーにコード9999を入力すると、腕部に装備されたユニコーンホーンが高速で回転する。


「迫田さん、教えてあげます。あなたと遼太郎さんの違いを」

「な、なに?」

「毎日呪詛のように人に当たり、できないことの理由を見つけ前を向かないあなたと、できないことを出来るようになろうと懸命に努力する遼太郎さん、どちらが魅力的かわかりますよね?」

「ぐ、ぐぐぐぐ、その男を名前で呼ぶな麒麟!」


 迫田はキレてレッドホーンへと突進する。


「どこにキレてるんですかあなたは。私あなたに嫉妬されても全然嬉しくないです。まぁ……あなたの顔は比較的好みでしたよ。でも、顔だけじゃダメってよくわかりました。私……あなたじゃ濡れません」


 麒麟は完全に冷めた目で、熱くなる迫田を見据える。


「クソガああああああああ!」


[FINAL ATTACK STAND BY]

「レッドホーンファイナルアタック!」


 ドリルのように回転したユニコーンホーンがデスバットを刺し貫く。

 デスバットの体に巨大な風穴を空けると、レッドホーンはドリルを縦に振る。

 直後爆発が起こり、デスバットは木端微塵に吹っ飛んだ。


「ふぅ……ごめんなさい姉さん、取引先一つ潰しました」

「ん、多分潰れてはないと思うが……なんだこれ?」


 玲音はフロストタイガーのレーダーに映る表示を見て目を見開く。

 爆発したはずのデスバットの反応がどんどん大きくなっていくのだ。


「全部めちゃくちゃにしてやる。全部だ!」

 

 迫田は自身の機体を社内LANから自身のPCに繋ぎ、チートツールを起動したのだ。

 デスバットの機体が復元され、ステータスがぐんぐんと上がり、機体が巨大になっていく。


「アヒャヒャヒャヒャヒャ、お前はクソだ、クソみたいな男に引っかかるクソ女だ! こんなクソゲー俺が全部ぶっ壊してやる!」


 デスバットが巨大化したことにより、マップデータを含めたゲームデータに狂いが生じる。

 直後岩城の声が鳴り響く。


「姫! 迫田の奴、ゲームクライアントの中枢にハックを仕掛けてるでゴザル! 早くどうにかしないと、ゲームのマスター権限を奪われてしまうでゴザル!」

「なっ!?」

「ここの権限を全て奪えば、こっから各主要システムをハックしてサーバーをダウンさせてやる。手始めに国内メガバンクのシステムでも落としてやろうか? メガバンクが被った損害はどこが払うんだろうな? ヒャッハー!」


 そんなことをすれば、当然攻撃IPが割り出され、グッドゲームズカンパニーからの攻撃だとバレてしまう。

 メガバンクがシステムダウンすれば、銀行の取引、顧客手数料、手形の不渡りが発生し倒産する企業も出てくる。

 その被害金額は計り知れないものになるだろう。


「なっ!? ほんと往生際が悪いですね」

「アヒャヒャヒャヒャ! まだマスター権限はとれねぇが、この状態でもシティバンクの一つや二つ落とせるぜ!」

「姫、迫田の奴ウチのネットワークを使って外部銀行に攻撃をしかけてるでゴザル!」

「さすが麒麟の作ったゲームクライアントだ。もう銀行システムの一つを落としたぜ!」

「なっ!? ゲームクライアントを仲介して無関係な外部ネットワークを攻撃するなんて」


 麒麟は忌々し気に声を荒立てる。

 

「謝れ麒麟! 俺に土下座して詫びろ! すみませんでした、もう二度と生意気な口をききませんってな!」

「くっ……」


 麒麟の手がコクピットハッチに伸びる。

 しかし前に出たのは遼太郎のメタルウイングだ。


「お前は呼んでねーんだよ! いや……テメーにも恨みは山ほどある。テメーも一緒にそこで土下座しやが……」


 遼太郎は武装を選択し、ウイングブレードを装備させる。

 翼の装飾がついた美しい剣は、醜く巨大化したデスバットを映し出す。


「なんだよ……なんなんだよお前は! 死ねよ!」


 デスバットから無数の暗黒色のレーザーが照射される。しかしメタルウイングには全て当たらない。

 メタルウイングは侍のようにウイングブレードを鞘に入れたまま腰を低くして構える。


[FINAL ATTACK STAND BY]

「メタルウイング、ファイナルアタック!」


 デスバットのレーザーが目の前の地を抉った瞬間だった。メタルウイングは一瞬で天高く舞い上がり、大上段に構えたウイングブレードを振り下ろす。

 袈裟切りに入った剣はデスバットの体を真っ二つに切り裂いた。

 しかしデスバットは即時再生する。


「くっ、出力が足りませんね」


 逆にデスバットのコクピットにいた迫田は心臓をバクバクさせていた。

 一瞬消えたと思った瞬間、機体が真っ二つにされていたのだ。

 なんだあいつ、抜身の刀みたいに煌めいたと思ったら死んでいる。

 チートの再生能力がなければ、この巨大化したデスバットですら一撃で屠られていた。

 その焦燥は苛立ちとなる。

 なんでだ、なんでこんなちっぽけな鳥野郎が、俺より天高く空を飛びやがるんだと。


「真田さん」

「…………」


 遼太郎は思いついたことがあり、麒麟に連絡をとる。しかし麒麟は応えない。


「真田さ……」

「麒麟です。もう忘れたんですか? 私のことは麒麟と呼んでください」

「あの、上司を下の名前で呼ぶのってめちゃくちゃ失礼ですし、社会常識的に」

「あなたに社会常識がどうとか言われたくありません! 毎度めちゃくちゃしてくれるし、あげくのはてにあんなデビル〇ンダムみたいなもの呼び起こすし」

「それは僕のせいじゃありませんよ」

「それでもです!」


 遼太郎は困ったなと頬を書きながら意を決する。


「……あ、あのきり、麒麟さん」

「なんですか」


 明らかに麒麟の声のトーンが上がった。


「お前ら目の前でイチャこいてんじゃねぇ!」


 デスバットが嫉妬の、ではなく怒りのビーム砲を放つ。

 麒麟と玲音、遼太郎の三人はビームが当たらない位置まで退避する。


「今の奴はゲームクライアントのデータと同期して、メタルビーストそのものと化しています。僕らの機体では攻撃しても一瞬で復元してしまいます」

「そうですね」

「僕に考えがあります。三位一体攻撃です」

「三位一体」

「ええ、地獄兄弟の真似をさせてもらいますよ」


 そう言って麒麟のレッドホーンをユニコーン形態へと変形させ、自身もイーグル形態へと変形する。

 そして


 もう一度出てきた三人の機体を見て、迫田は唖然とする。

 メタルウイングとレッドホーンがドッキングし、その上に人型形態となったフロストタイガーが乗っているのだ。


「相変わらず無茶苦茶言いますよね」

「ドッキングってやってみたかたんですよ。今度の企画会議で出してもいいですか?」

「構いませんけど、今から岩城さん達の嫌がる顔が目に浮かびます」

「どうでもいいが、私が仕留めて構わないのか?」


 二人の会話に玲音が割り込む。


「ええ、社内LANで繋がっているフロストタイガーなら本社メインサーバーと直結してあのデビルデスバットを倒す出力を得られます!」

「だが、あそこに行くのは至難の業だぞ」


 迫田は全力で迎撃してやると、ビームのエネルギーを充填している。


「今度から僕の腕をアテにしているって言わせますよ」

「それエンドレスワルツですよね! 私そのシーン好きなんですよね」

「うるさいアニオタ、少し黙ってろ。平山とか言ったな、私を使うからにはやり遂げてみせろ」

「了解です!」


 遼太郎はメタルウイングのアクセルペダルを一気に踏み込み、スロットルレバーを全開にする。

 その様子を外のモニターで見守っている岩城たちも度肝を抜かれていた。


「なんすかこれ」

「さしずめペガサスライダーと言ったところでゴザろうか」

「なんか平山君次の企画会議であげてきそうでふね」

「拙者メガバンクが落とされるより、そっちの方が恐ろしいでゴザル」


 氷のエフェクトを纏ったペガサスライダーは、三機の出力を直結し、すさまじいスピードで急旋回を繰り返しながらレーザーを避ける。


「遼太郎さん上手い!」

「ありがとうございます。でも、ちょっと余裕ないです!」


 遼太郎はスティックとペダルを小刻みに動かしながら、デビルデスバットの上空を舞う。


「この位置ならいける!」


 玲音は氷の剣を構える。


「お願いします!」

「じゃあな迫田、面白くない男だったが、最後のあがきはアトラクションとしては悪くなかったぞ」


 氷結の剣は、デスバットのコクピットを正確に捉える。

 フロストタイガーが剣を投げようとした瞬間だった。

 突如後ろからレーザーが降り注ぐ。


「なっ、そんな位置にレーザーは……」


 玲音が振り返った先には、本体に繋がった上半身だけのデスバットが翼を広げてレーザー砲を照射していたのだった。

 フロストタイガーはそれに当たり、態勢を崩し落下する。


「玲音さん!」

「麒麟、お前のとこの問題だ、お前たちで解決しろ!」


 玲音は氷結の剣をペガサスに向かって放り投げる。

 

「遼太郎さん、受け取ります!」

「了解!」


 レッドホーンと一旦分離し、空中でユニコーン形態から人型へと変形した瞬間、遼太郎はレッドホーンの背中を掴み上げる。

 天高く飛ぶ剣を、メタルウイングとレッドホーンの合体機がキャッチすると、眼下には増殖を続けるデビルデスバットの姿がある。


「麒麟さん!」

「遼太郎さん!」


 二人は機体のテンキーにコード9999を同時に入力する。


「「レッドウイング!! ファイナルアタック!!」」


 メタルウイングとレッドホーンの合体機は、フロストタイガーのエネルギーを帯びた氷結の剣をデビルデスバットに落雷の如く投げつける。

 空気を切り裂き、剣はデビルデスバットの頭部に突き刺さり、そのまま機体全てを貫通していく。


「バカな……この、俺が、俺があああああああああっ!!」


 デスバットは大爆発を起こし、光の粒子となって消えていった。

 残ったのは氷の残滓である虹色のダイアモンドダストだけだった。


「や、りました?」

「やりましたね」


 遼太郎と麒麟は通信ウインドウ越しに顔を見合わせる。


「「「うぉーーーっ!!」」」


 きょとんとする彼らより、開発室の方が大きく盛り上がっていた。


「やったでゴザル。迫田のデスバットは完全に消滅、ハッキングをかけられていたシステムも全て戻ったでゴザル!!」

「やったでふ! ざまみろでふ!」

「平山ちゃん、こっちは大丈夫になったぞ!」

「ド素人、よくやった!」


 大喝采がゲーム内に響き渡り、正直うるさいぐらいであった。

 玲音はニヤリと笑みを浮かべると、ゲームからログアウトし、ヘッドギアを外す。

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