第30話 グッドゲームクリエーター
麒麟、遼太郎もログアウトすると迫田は第三開発室のメンバー含め、玲音の前で正座させられていた。
「この落とし前どうつけるでゴザルか?」
「ゲームデータはめちゃくちゃ、お前のハッキングのせいでどこぞの銀行システムがダウン。一体いくら損害賠償を払うことになるんだ?」
「知るかよ」
迫田はあれほどボコボコにされたというのに、未だ態度を変えることはなかった。
「でもやったのは迫田君でふから、責任は全部迫田君に行くでふよね」
「んなわけねーだろうが。会社の業務中に起きた事故だよ事故。業務中の事故は全部個人の責任じゃなくて、会社の責任になるにきまってるだろうが。ざまぁみろ、これでゲームは永久に再開できなくなったぜ!」
いやらしい笑みを浮かべる迫田の前に、カツカツと足音を響かせながら玲音が立つ。
「な、なんだよ、あんたが出て来たって一緒だ! 事故は事故なんだからな」
玲音は一本のUSBを取り出す。
「ここに誰かの今日のPCの操作履歴がある。その誰かは他部署のメンテナンス中にサーバーのポートを開き、ユーザーを中に引き入れた」
「し、しらねーな」
「そして、顧客データーを許可なく複製、及び改竄を行った。弊社はこのことを重くみて、この社員の懲戒解雇を決定した」
「…………」
「解雇した社員は逆恨みし、ゲーム内に運営アカウントでログイン。弊社オンラインゲームサービス、メタルビーストのデータを改竄し、サービスに対し故意に損害を与える目的でハッキング行為を行った。不正アクセス禁止法、仮想デジタルサービス改竄禁止法、個人情報不正複製禁止法、威力業務妨害の四つで既に警察には届けている」
「なっ……そんなことしたって無駄だ! そんな無茶苦茶な理論通るわけがねぇ!」
「それを通すのが私だ」
玲音はドラキュラのように鋭い八重歯をのぞかせ、悪役のような笑みを作る。
「この手の業界には敵も多くてな。弁護士を飼ってる会社は多いが、ウチは検察も裁判官も飼っている。言っておくここでは私が法だ」
絶対強者の視線が、縮こまった男を見下ろす。
あまりの理不尽さに、迫田は口をパクパクとさせるしかなかった。
「それとだな迫田。お前が落とした銀行システムなんだが、確かお前実家はUSJだったか、UFJだったかアミューズメント施設の名前みたいな銀行の出だろ? さっきからネットでUなんとかJの銀行システムが落ちたって大騒ぎになっている」
玲音はクツクツと悪い笑みを浮かべる。
「そんなバカな! 俺が落としたのは地方銀行だ!」
「誰かがアタックの先をかえたんだろうな。悪い奴もいたもんだ」
「う、嘘だろ……」
「自分で実家の銀行システムを落とすなんて、なかなかいいセンスをしている」
玲音はほらっとどこで入手したのか迫田のスマホを本人に投げて返す。
そこには山のように着信履歴が入っていて、今もまさに着信が響いていた。
迫田は恐る恐る電話に出る。
「は、はい……」
「やっと出たなこのバカ息子め! どうしてくれるんだこの騒ぎ、今すぐ戻ってこい!」
「ち、違うんだオヤジ、あれは俺のせいじゃ!」
「お前の醜態は全てネットに上がってるんだ! あれほど真田玲音には手を出すなときつく言っておいたのに。彼女がなぜゲーム業界にいるのか知らんが、国家情報局レベルの人間が喉から手が出るほど欲しがってる存在だぞ! 向こうが情報戦を仕掛けてきて、こっちが太刀打ちできるわけがないんだよ! 彼女がネット上で黒と言えば、なんであろうと黒になるんだ!」
事の重大さに今頃気づき、迫田の顔からみるみる血の気が引いていく。
「それにお前の落としたシステムのせいで、一体どれくらいの損失が出たと思っている! まだ外為も
怒鳴り声と共に電話は切れた。
迫田は完全に灰となった。
「ご愁傷様、まぁお前はクビだ」
玲音は親指を首の前で引く。
ここにいる人間は、世の中絶対になにがなんでも死んでも敵に回してはいけない人種がいると思い知ったのだった。
それから三日後。
迫田がめちゃくちゃにしたゲームデータの修復にまる二日を要し、更にそこから本来の大型アップデートを行い、第三開発室のデスマーチはようやく終わりを告げた。
そこに残っているのは技術者の死体だけである。
「もー無理、もー無理」
「拙者、さすがにこの三日で死という概念を理解したでゴザル」
「これはやばい、さすがにやばい」
「さすがに急ぎの復旧だったが、無茶しすぎたな」
強面を崩さない矢島もぐったりとしており、まともに動いているものは一人しかいなかった。
「すんごい人ですよ!」
サーバーの稼働状況モニターが全てオレンジ色の[混雑中]と表記されているのを見て、遼太郎はやりましたねと喜んでいる。
「アホかド素人。サーバーのキャパ超えると鯖落ちして、俺たちのデスマーチが継続するから落ちないように祈っとけ」
なんであいつあんな元気なんだと矢島は白い目で見ている。
そこに麒麟がコーヒー片手に開発室に戻ってくる。
「皆さんまだ若いんですから、頑張ってください」
「勘弁してください真田女史、三十超えには辛いです」
「拙者もまだ二十八だけど限界」
「十代が羨ましいでふ」
「そんなかわんないですよ」
「真田さん!」
遼太郎が嬉しそうにヘッドギアを持って麒麟に近づくが、対照的に彼女は不機嫌そうだ。
「真田さん、さな……麒麟さん」
「はい、なんですか?」
パッと花が咲いたような笑顔になる麒麟。
「最近姫と平山君の仲が一線超えようとしてる気がするでふ」
「超えた方が多分拙者らにとっては楽でゴザル」
「あの、麒麟さん、その、ゲームの中見てきたいんですけど……ダメですか?」
「いいですよ。メンテ直後ですもんね、見にいきたくなりますよね」
「ありがとうございます!」
遼太郎はヘッドギアを被って、急いでVR装置を起動させる。
「姫の甘やかし度が三割増しになった気がするでふ」
「三割? 十割増しでゴザろう。最近姫、平山殿がいないと何にもできない子になったでゴザル」
「まず遼太郎さんとお話してからにしましょうかっすもんね」
「あれ、多分濡れてるでふよ。迫田に濡れないっていうことは平山君には濡れ濡れってことでふよ」
三人がボソボソと話していると、後ろに阿修羅のような麒麟が立つ。
「皆さん、まだまだ元気そうですね。じゃあ今晩から週明けまでの監視を岩城さんと椎茸さん、高畑さんの三人にお願いしましょうか」
「週明けって、今から三日もあるでゴザル!」
「嫌なんですか?」
「い、嫌ではないで……ゴザル……よ」
「ダメでふね岩城君は、姫もなんやかんやでカテゴリーは雌でふ、ここは雄であるボクがびしっと」
「椎茸さん、お風呂入りました? くっさいので会社のシャワー入って下さい」
「ありがとうございます!」
椎茸はきつく罵られて恍惚としていた。
「ふぅ、とりあえずなんとかなりましたね」
順調にゲームは動いていることを確認し、麒麟が一息つくと、今さっきゲームに入ったばかりの遼太郎がヘッドギアを外して近づく。
「あれ、ゲームの方どうしました?」
「あ、あの……回線切断って出て……これ、もしかして……」
麒麟は嫌な予感がしてサーバー稼働状況モニターを見る。そこには一部のゲームサーバーが過重負荷に耐え切れずダウンしていた。
「……緊急メンテです!! 皆さん起きて下さい! 死んでる場合じゃありませんよ、緊急メンテ入れますよ!」
ぐったりしていた開発者全員が飛び起きる。
「高畑さんすぐ公式で告知出してください! 遼太郎さん負荷分散プログラム、一番耐久の高いやつ適用させます!」
「姫様フォーラムいきなり落ちたって炎上してますよ!」
「大盛況ですみませんって言っておいてください!」
「そりゃ皮肉がきいてるでゴザルな」
「100%怒られますよ」
第三開発室は今日も慌ただしく走り回るのであった。
グッドゲームクリエーターズ編 了
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
文庫本約一冊分くらいの文量で第一部グッドゲームクリエーターズ編は完結いたしました。
麒麟、桃火、玲音の三姉妹は書いていてとても楽しかったです。
別作のガチャ姫と違い、キャラをしぼってその分個人のエピソードを書いていくようにしました。
ゲームの開発を題材にしたギャルゲを書くつもりで書いたものがこのお話です。
最後はメタルビーストが復活してめでたしめでたしと、共通ルートが綺麗に終わったかな? と思っています。
カクヨムの恋愛ランキングの方で約四十~五十位くらいをウロウロしているようです。評価、感想、非常にありがたく思っております。
第二部の方始めるかどうか少し迷っていますので、もしかしたら第一部で完結になるかもしれません。
続けられるなら続けたいので、少し更新期間があくかもしれませんが気長にお待ちいただければと思います。
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