第17話 衝突
「これで……いいのかな?」
「ええ、それでこの子はあなたの相棒になりました。ゲームへの実装はまだまだ先なんですけどね」
遼太郎が小さく頬をかく。
「あのさ、今のイベントキャラってさ」
「あっ、気づきました?」
「うん、麒麟ちゃんに似てたよね?」
「ええ、真田さんにはまだ見せてないんですけどね」
「後で知ったら怒るんじゃない?」
「だと思います。なんとなくあの真田さんのキャラクターってマンガやゲームに出てきそうだなって思ってたんですよ。それでモデラーさんに仮データとして作ってもらったんです。写真データからマッピングしたものなんでモデル自体は凄く荒いんですけどね」
「……ふーん、てことは平山君の今気になってる人は麒麟ちゃんってことかな?」
「いえ、そういうわけではないですよ」
困ったなと小さく笑みを返す遼太郎を雪奈はなんとなく突っついてしまう。これが弟属性というやつなのだろうかとも思う。
突然ズドンと島が振動し、近くに集まっていた動物たちが一斉に鳴き声をあげながら逃げだす。
「なに!?」
「こんなイベントは入れてないはず……なにが」
二人が空を見上げると、そこには巨大なコウモリをモチーフにしたメタルビースト、デスバットの姿があった。
毒々しいパープルのカラーリングに、モノクルのような丸いアイカメラが特徴的で人型形態は吸血鬼をイメージしてデザインされたと聞いている。
機体異常を引き起こす攻撃を得意とする機体としても有名なジャマー機だ。
「デスバット……なんでこんなところに」
デスバットはどうやら誰かを探しているようで、島を手当たり次第に破壊していく。
漆黒の翼を広げると翼から真っ黒なレーザーが何本も降り注ぎ、島が破壊されていく。
逃げ惑う鳥や動物が次々に焼き払われ、光の粒子となって消えていく。
所詮はデータ、しかし見ていて気持ちの良いものではないのは確かだった。
「天城さん、マップデータが破壊されると危険です!」
「でも、島が!」
「僕が時間を稼ぎます。その間にスプレンダーキャットを連れて離脱してください! メタルウイング!!」
遼太郎が空に向かって叫ぶと、巨大な鋼の大鷲が突風を伴いながら姿を現す。
すぐさまコクピットへ乗り込むと鋼の大鷲は宙を旋回しながらデスバットへ攻撃を開始する。
「コード009ビーストモードアクション!」
[BEAST MODE ACTION]
遼太郎がテンキーにコードを入力すると大鷲は雄々しい鳴き声を上げ、鋼の爪でデスバットを頭上から強襲する。
機体同士が直接触れ合うことで、お互いの通信回線が開く。
「何してるんですか! ここはテスト区域で、フィールドのログアウトスポットが設定されていないんですよ! テスト中の人がいるんです、ここでアバター情報を失えば最悪データ破損を起こしますよ!」
「はぁ!? 遊んでるだけだろうが! 何えらそうなこと言ってんだよ!」
通信ウインドウに映った怒りに満ちた迫田に遼太郎は驚く。
「平山、めちゃくちゃにすんなら自分の開発陣だけにしろ! 俺に被害を被せてくんじゃねーよ!」
「別にあなたに迷惑はかけていないでしょう!」
「かかってんだよ! 天城の仕事邪魔してんじゃねーか! そいつの仕事ずっと止まって、こっちは遅延が出てんだよ、遊ばせてる場合じゃねーんだよ!」
デスバットは人型へと変形すると頭上のメタルウイングを装備した大鎌で叩き落す。
「天城さんは悩んでいたんだ、それを頭ごなしに仕事しろと責め続けるのは良くないです!」
「知った風な口利くんじゃねーよ、このド素人が!」
デスバットは頭部カメラ部分からレーザーを照射する。メタルウイングはすぐさま人型へと変形し翼でビームをはじき返す。
「ちぃ、シールドウイングか。だけどな、その機体は防御力を上げたことによってスピードが完全に死んでるんだよ!」
デスバットの攻撃に防戦一方になるメタルウイングは一度空へと逃げる。
追いかけようと飛び上がろうとした時、迫田はモニターの端に白い猫を抱きかかえる雪奈の姿を発見する。
その姿に迫田の怒りは限界を超える。
「こっちが仕事進まなくてイライラしてるってのに、そっちは楽しそうにゲームですか、いい御身分だなぁオイ!!」
デスバットは翼を展開しレーザー砲を生身の雪奈に放つ。
「まずい、天城さん!!」
メタルウイングは一気に急降下すると、鋼の翼で雪奈のアバターを包みこむ。
レーザー砲の爆撃が雨嵐のように降り注ぎ、メタルウイングのシールドが次々に限界を告げ、コクピット内には無数のアラート音が響いていた。
「平山君!!」
「早く、この島から離脱してください!」
「サボってないで仕事しろ天城!」
デスバットが凶悪な牙のついた口を大きく開くと、中から一際巨大なミサイルが打ち出されメタルウイングのシールドに直撃する。
轟音と爆風が轟き外にいる雪奈は吹き飛ばされた。
「天城さん!」
「よそ見してんじゃねー! お前が原因なんだよ!」
「なんでそうあなたは人の気持ちを考えないんだ! 会社で働いてるのは人だ、人を大事にできない会社に未来なんてないんだ!」
「うるせー納期を守らねー社員がガタガタ言うんじゃねぇ!」
「納期を守ることは社会人として当然ですが、それで面白くない物を作ってたら本末転倒でしょうが!」
「ド素人が文句だけは一人前な口を叩くんじゃねーよ! どんな物だろうが納期守らせんのがこっちの仕事なんだよ!」
「やっつけ仕事でも終わらせればいいというあなたの根性が気に入らない! 納期を守るのがプロの役目だとしても、遅れやトラブルを解消するのがチームやプランナーの役目でしょう! 個人でのゲーム作り強いるならゲーム会社なんか必要ない!」
「黙れ、黙れ、黙れ! この疫病神が!」
デスバットの激しい攻撃が続くが、足元に雪奈がいる遼太郎は戦うことができなかった。
激しい攻撃で装甲が破損そ、至る所がショートした火花が上がる。
限界かと思われたメタルウイングがゆっくりと立ち上がる。
「あなたにはクリエーターに一番大事なものが欠如している……」
「はぁ!? ド新人のお前が俺に説教すんの? マジかよ」
「ええ、言わせてもらいますよ。あなたに足りていないものはゲームが好きだという情熱が足りていない」
「青臭い感情論で金儲けができりゃ世話ないんだよ!!」
デスバットは動けないメタルウイングに上空から急降下し、とどめの鎌を振りかざす。
「最初は誰だってただの好きから始まるユーザーなんだ。でも、その好きが昇華されてプロになるんだ!」
遼太郎は自身の子供時代、ゲームばかりしていた頃の自分を思い出す。
中学に上がっても、高校に上がっても、ゲームばかりして、その好きという気持ちは衰えることなく、いつしかプロへの道へ進むことを目指して進路をとった。
夢のあるゲーム製作が、こんな自分勝手な人によって汚されていいわけがない。
迫田は鎌を振り下ろす、だがその急降下に合わせメタルウイングの拳がデスバットの顔面にめり込み、超スピードの反動でデスバットの顔面は砕け散った。
「僕はゲームが好きです。クリエーターさんも好きなんです。…………だってそうでしょう、彼らがいなければ神ゲーはこの世界に産まれてこなかったんだから」
カウンターの反動で、限界をきたしていたメタルウイングの脚部が爆発をあげる。
「ふざけんじゃねーぞ、ド素人。綺麗ごとだけで進めるほど甘くなんかねーんだよ」
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