第11話 楽しかったわよ

「こしゃくな真似をこわっぱめがぁぁぁ!」

「我らの地獄をそんなに見たいかぁぁ!」


 怒り心頭した地獄兄弟の攻撃をブースターでバックしながらかわしていく。


「どうするの!?」

「真田さんがなんとかしてくれます!」

「でも、この機体がやられたら逃げられちゃうんじゃ」

「それはなんとかします!」


 遼太郎は操縦桿の脇にあるテンキーにコードを入力すると、オプション兵装が転送されてくる。


「すみません、これは見なかったことにしてください!」


 先ほどまで装備されていなかったはずのミサイルランチャーがミストバンシーの肩部に装備され、一斉に発射される。


「サイドワインダーだと!? 先ほどまで装備していなかったはず! 貴様まさかチーターか!」

「チーターはあなたたちでしょう!」

「ええい不届きな奴め、この地獄兄弟が正義の名のもとに成敗してくれる!」

「どの口が!」


 ブレードに持ち替え接近してくるバズーカスパイダーと唾ぜりあいをする。

 ミストバンシーがブレードを振り下ろし、バズーカスパイダーがそれを受ける有利な体勢のはずなのに、ぐんぐんと押し返されていく。完全にパワー負けしているのだった。


「なんで負けてるの!?」

「ジェネレーターの出力が段違いなんです!」

「無駄無駄ぁ! このバズーカスパイダーはレベルが40もある。パワーでは絶対に負けん!」

「それだけこのゲームを遊んでてチートに手を出すなんて!」

「ふははは、このつまらないゲームを我々地獄兄弟が面白くしてやっているのだ。感謝されることはあっても恨まれるいわれはないぞ」

「このゲームはな、このゲームは真田さんや第三の皆が心血そそいで作り上げたゲームなんだ! あなた達みたいな自分勝手な人間にめちゃくちゃにされてたまるかぁぁぁ!」


 ミストバンシーのアイカメラがグリーンに光り輝くと、一瞬レベル差を超え、バズーカスパイダーの右腕を斬り飛ばしたのだった。

 吹き飛んだ腕が宙を舞い、地面に突き刺さる。


「バカな! ええい小癪な奴め、またチートとは汚い、汚い奴よ!」

「長兄、一気に決める。我らの疾風怒濤風林火山にて!!」

「あいわかった弟よ! 行くぞ、薄汚いチーターよ!」


 グレネードアリゲーターがバズーカスパイダーの上に乗る。


「地獄兄弟合体!!」

「フハハハハ死ねぇぇぇい!!」


 凄まじいスピードで回転しながら二機が迫る。ミストバンシーが後退しようとした瞬間、左脚から火花が上がり態勢が崩れる。


「しまった!」

「「フハハハハハハハ!」」


 二機のサーベルが迫った瞬間、唐突に巨体が割って入る。

 それは他の機体の二倍以上もある機体で、他に見られる獣のようなモチーフをしていなかった。

 胸部にはGとMの金に輝くエンブレムが。背中には運営と縦に書かれたマントをなびかせ、その双眸はバズーカスパイダーとグレネードアリゲーターを見下ろす。


「そ、その機体は、じ、GMカイザー!!?」

「あの規約違反をしたときに現れるというあれか!?」

「あんなもの掲示板のネタだと思っていたが、実在するとは!」

「こちらメタルビースト運営です。そちらの機体に不正ツールの使用が判明しています。即時アカウントの凍結を実施します」


 聞こえてくるのは麒麟の声だった。

 ログアウトした麒麟はGMアカウントでログインし、GM専用機GMカイザーにスクランブルをかけたのだ。


「ふ、ふざけるな! 我々地獄兄弟がぁぁGMなんぞにぃぃ!!」


 バズーカスパイダーがデスキャノンを連射するが、当然GMカイザーにはINVALIDと表示されダメージが通っていない。


「往生際が悪いです。強制的に接続を切断します」


 麒麟はテンキーにコード|9999(フォーナイン)を入力すると、突如地面が割れ、巨大な剣が浮き上がる。


[GM KAISER FINAL ATTACK]

「ゴッドGMソード!!」


 引きあおりの物凄くカッコイイパースで映し出されるGMカイザー。


「う、うわあああああああ、だから我はやめておけと!」

「ずるいである長兄!!」


 二機は背を向けて逃げ出すだが、GMカイザーはゴッドGMソードに炎を纏わせ、背面ブースターを吹かせながら飛び上がる。


「G・M・斬!!」


 GとMがそれぞの機体に刻まれ、GMカイザーが剣を下げると二機は爆発し、オフライン状態となった。


「やったぞGMカイザー! 凄いぞGMカイザー! ありがとうGMカイザー!」


 遼太郎はGMカイザーの勇士に大はしゃぎである。

 完全に90年代のロボアニメ的ノリである。


「ふぅ、ありがとうございました平山さん。あなたのおかげでチーターを捕まえることができました」

「いえ、捕まえられて良かったです」

「その、それはそうとそろそろ体勢が苦しいかなぁ」

「デブにするんじゃなかった」


 コクピット内はギューギューづめで、三人の体勢は戦闘で更に苦しいものになっていた。


「すみません真田さん、ハッチあけにきてもらっていいですか?」

「はい、すぐ行きます!」


 GMカイザーを降りて麒麟がミストバンシーのハッチを外からあけ、中を覗き込む。


「大丈夫ですかみなさ……ん?」


 コクピットの中で初心者の細くて巨乳の方、多分ヘルメットの中美人のおっぱいに埋もれている遼太郎を見つけ、顔を引きつらせる麒麟。


「平山さん、セクハラですよ」

「そ、そんな~」

「ボクは別に構わないんだけどね。熱血だねぇ平山君は」

「いや、すみませんお恥ずかしい」

「ちょっと平山さんもう外出て下さい。こっちが運営ってことはもうバレてるんですから、ハリーハリーハリー」


 麒麟にせかされなんとか外へと出る初心者二人と遼太郎。


「すみません、この度はご迷惑おかけしまして」

「申し訳ありません」


 遼太郎と麒麟は二人で謝罪する。


「あーいいよいいよ、そんなに謝らなくても」

「あと、我々のことはどうか内密にしていただけると助かるのですが。我々開発も個人アカウントで遊びにきておりますので」

「あはは、そろそろいんじゃないの?」


 雪奈はスーパーボールみたいな桃火に視線を向ける。


「えっ?」

「しょうがないわね、変なのに巻き込まれちゃったし」


 桃火はアバターの機能をデフォルトに戻すとピザ体型から元のスリムな姿に戻り、雪奈はネコミミ型ヘルムを取り外した。


「ええ!? えええええええ!?」

「あんたね、これでも姉なんだから少しくらい気づきなさいよ」

「姉さんに、天城さんも」

「いや、少し見て帰るつもりだったんだけどね。丁度平山君に遭遇したからゲームのこと教えてもらおうかなと」

「まぁね」

「別に堂々と入ればいいのに、変に変装なんかするから」

「それは悪かったわよ。リョウタロー、あんたユーザーの前で転送コマンドなんか使っちゃダメよ」

「申し訳ないです」

「しょうがないでしょチーター捕まえるためなんだから」

「まぁ私もそれがわかってるからこれ以上言わないけど」

「いやぁでも平山君予想以上だったよ。冷静だし紳士だし、いざって時に熱いし」


 雪奈は熱のこもった視線を遼太郎に向けるが本人は全く気付いている様子がなかった。


「もう、雪奈帰るわよ」

「あの、姉さん」

「何?」

「このゲーム、どうだった?」

「そんなの決まってるじゃない」

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