第6話 のけ者

「あれ、平山ちゃんどこっすか?」

「あっちでゲームやってるでふ」


 高畑が尋ねると、椎茸はヘッドギアを被りながらリアクション芸人みたいな動きをしている遼太郎を指さす。


「あいつ好きっすね。昼飯も食わずにゲームばっかりして」

「彼バランス調整もそうだけど、休憩時間中はずっと自分のマシンのレベル上げしてるでふよ」

「えっ、あれあいつただ遊んでるだけじゃないっすか」

「しかし大切なことでゴザル。迫田氏亡き今、頼りないとはいえ平山氏が後を継ぎメインプランナーの役割を果たしているでゴザル。そのプランナーが自分のゲームを知らないのは話にならないでゴザル」

「平山君はリリース当時に携わってた人じゃないからね、ゲーム内部の仕様に関してはめちゃくちゃ弱いからすごく苦労してたでふ」

「ディレクターの矢島殿めっちゃ怒ってたでゴザル。平山はゲーム開発がなんもわかっとらんずぶのド素人のクソ野郎だって、あんな奴がプランナーをしてるゲームはクソゲーだと」

「ボロカスでふね、矢島さんボクも怖いでふ」


 その時ログアウトしたのか遼太郎がヘッドギアを外す。


「矢島さん、やっぱディフェンダーもろすぎだよ! こんなんじゃクソゲーだよ!」


 遼太郎の叫びに岩城と椎茸は戦々恐々とする。


「や、矢島殿にクソゲーと言うなんて、なんと豪胆な!」

「姫でもできないでふ!」


 予想通り強面の矢島は遼太郎に怒鳴り返した。


「バカ言うんじゃねぇ! それ以上硬くしたらSJは逆立ちしても勝てねぇだろうが!」

「わかったSJ強くしよう!」

「バカかオメーは! インフレの始まりだろうが!」

「いや、でもディフェンダーの弱さはネットでも散々叩かれてますし」

「ネットのいうことなんか信じてる時点でプランナー失格だぞ! あんなもん100%自分の主観でしか物事を見てない便所の落書きと同レベルだ!」

「いや、でもディフェンダーのくせにHPが他の機体と同じってやっぱおかしいですって! オプションパーツつけたらアタッカーの方が高くなりますよ」

「そりゃそういう配分だからな」

「じゃあリペアキット最初から一本持たせてくださいよ」

「そんなことしたらHP倍になるのと一緒じゃねーか!」

「いや、でもそれはどこで使うか駆け引きになるじゃないですか! ディフェンダーがどこでリペアキット使ってくるかわからない、それにリペアキット中は攻撃できないし、使われる前に倒せみたいな。それにアタッカーは最初からスピードローダーが一本ついてるし、サポーターは自動回復させるリペアビットがついてるのにディフェンダーだけなんもないんですよ。不公平だ僕にもなんかください!」

「クレクレク中か! そんなに欲しけりゃ仕様切って真田女史に持っていけ!」

「よしわかりました!」


 遼太郎はダッシュでデスクに走ると仕様書をバリバリ書き始めた。

 その様子を矢島が苦い顔で見据える。


「くそ、行動力のあるバカはこれだから怖いぜ」

「す、すごい矢島殿と対等に渡り合ってるでござる」

「何者でふか……」


 そして数時間後


「矢島さん真田さんからOK出た! 手の空いてる人全員集めてテストしろって!」

「なんだと、今手の空いてる奴なんて」

「ぐ、偶然拙者手があいたでゴザル」

「ぼ、ぼくも偶然ブランクでふ」

「あー、ゲームやるなら俺もやりたいっす」


 どこから聞き出したのか、様々な部署から人が現れ、しまいには巨大なモニターを設置してゲーム大会が開催されたのだった。


「おい、お前ら自分の作業は終わってるんだろうな!」

「それとこれとは話が別っす」

「固いこと言わないでふよ」

「そうそう、拙者らゲーム開発者であると同時にゲーマーでゴザル」

「それでは皆さんお忙しい中サボってきてくれてありがとうございます! おかげで僕もサボる大義名分ができました」


 遼太郎が仕切ると集まった開発者に笑いがこぼれる。


「それでは調整という名分でのゲーム大会始めまーす」

「はいはい、くじ引くでふよ」

「対戦表作ったっすよ」

「おい、なんで俺の名前があるんだ」


 対戦表の一番上にシード選手矢島と書かれていた。


「そりゃ現場の監督であるディレクターが一番うまいのは当たり前っすから」

「おいやめろ、ハードルを上げるな」


 矢島は汗だくだった。


「そんじゃ一回せーん」




 ゲーム大会が終わり、ラストの決勝戦は遼太郎と矢島の熱い一騎打ちとなったが、なんとか矢島が勝利をおさめディレクターの面目を保った。

 調整の方は満場一致で次回のディフェンダーへのシールドアップデートにリペアキットが一本追加されることになった。


「矢島さんヘッドギアつけてるのに超うるせーっすね」

「うぉぉぉぉぉドガガガガガとか口で言う人初めて見たでゴザル」

「俺の魂が言わせてるんだ。ロボは男の魂だぜ」

「わけわかんないでふ」

「あれ、皆さん何を」


 丁度終わったころ合いで麒麟が開発室に入ってくる。


「ちょ調整でゴザル」

「そうそう、ぼくたち決して遊んでたわけではないでふよ」

「すみません景品のデッドブルと眠眠爆破10本の社蓄セット買ってきました」

「あっ……」


 丁度タイミング悪く遼太郎がゲームの景品を買ってきたのだった。

 それを見てむっとする麒麟。


「やばいでふ、姫が仕事もせずに遊んでたからぷっつんきてるでふ」

「せ、拙者これにてドロンするでゴザル」

「なんで……」

「ひぃっ」

「呼んでくれないんですか」

「「そっち!?」」


 岩城と椎茸の声がハモる。


「いや、調整のはずが皆集まってきてゲーム大会になってしまいまして」

「呼んでくれたっていいじゃないですか。私だってプレイヤーですよ」


 麒麟はのけものにされたことに若干凹んでいた。


「てっきり仕事しろって怒るかと」

「あーーーっ!! 矢島さんも参加してるずるい!」


 麒麟は対戦表を見て声を荒げる。矢島はコソリコソリと撤退をはかっていたが、麒麟は鬼の形相で睨む。


「いや、それはですね」

「ずるいーーー!! しかも優勝してるし!」

「よし、じゃあ再戦しましょう」

「し、しかし仕事がつまってて」

「もう一戦くらい、いいですよねぇ?」


 麒麟はすこぶる笑顔で低い声をだす。


「はい。おい帰った奴ら呼び戻せ!」


 矢島の指示で逃げた連中が集まり、今度は麒麟を交えてもう一戦となった。




「やっぱりディフェンダー弱いですね」


 二度目の対戦終了後、麒麟は対戦表を見て、使用していた機体と勝率を照らし合わせる。


「一応矢島さんや他の開発の方々と話し合ってリペアキット乗せることにしました」

「HP半分回復させるハーフリペアと全快させるリペアキットがありますけど、なぜハーフじゃないんですか?」

「プレイ時間をとってみたんですけど、デスキャノン抜きにしてもディフェンダーが他のアタッカー、SJに比べて落ちる時間が1.5倍くらい早いんです。これはデスキャノンの調整ではなく単純に他より劣っているとわかっているので、そこのテコ入れは必要だと思います」

「でも1.5倍なら半回復のハーフリペアでいいんじゃないですか?」

「いえ、それは今のHPなら1.5倍ということで仮にディフェンダーのHPが1.5倍に伸びたとして計算したら落ちる速度はそれでも他よりも早くなるんですよ。一応そっちのテストもしました。機動力の低いディフェンダーで弾を集めやすっていうのはあるのですが、これではただの障害物で、ユーザーの倒す選択肢にならないです。さっさと落として次行こうってなっちゃうんで。ディフェンダーは硬すぎるから相手にするのが嫌って思わせるのが本来の姿だと思います」

「確かに……、平山さんリペアキットをディフェンダーにもたせた状態で調整を続けて下さい。後デスキャノン用のシールドとジャマーももうじきアップに入るので、できればそれに間に合わせてください」

「はい。まだ付け焼刃ですが、幾分かはマシになるはずです」

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