第11話 エピローグ

今回の件を書面で国王に報告したリザーズは、魔王城でのんびりと過ごしていた。

天気がいいからとネアスに言われ、中庭で紅茶を片手に読書をしていた。

ライラは今回の一件で、シリウスとルシールの監視役として国王から仰せつかった。そして、魔法学校の教師としても抜擢され、しばらくは忙しそうでリザーズにいたずらを仕掛ける暇はなさそうだ。

リザーズは、本を一冊読み終えて、一息ついた。

するとそこに、ガスートが駆け込んできた。

「リザーズ様!!大変です!森の中で人間が暴れております!!」

相変わらず大きな声で、ガスートは報告した。

「どういうことだ。人間が森にどうやって入った?」

膝をついて、肩で少し息をしながらガスートは話を続けた。

「申し訳ございません。国王からの書簡を持って帰る際に、森の結界を解いた隙をつかれました。」

頭を垂れて、ガスートはリザーズに告げた。

「そして、その人間なのですが、森のあちこちで火の魔法や氷の魔法を使って、森中大混乱なのです。」

森の魔物は、魔王の命令がないと人間を襲うことはない。リザーズは顎さすりながら、どうしようかと思案していた。

「なぜ、そいつは魔王の森でそのような事をしているのです?」

横で話を聞いていたネアスがガスートに尋ねた。

「よく分からぬのだが、”魔王出てこい”と時々大きな声で叫ぶのです。我々の話を聞く気がない様で、我らでは手に負えず、リザーズ様の元へ報告に参りました。」

ガスートは今度は顔を上げ、リザーズの目を見て言った。リザーズは、ネアス達に任せようと思っていたのに、名前を出されては仕方ない。

乗り気はしないが、その人間の元に行くことにした。

魔法で、城にも結界を張っていて外の様子を遮断していて気が付かなかったが、外へ出るとかなり森が荒らされていた。

これ以上被害を広げたくなくて、リザーズはその人間の元に急いだ。



「出てこい、魔王!!!俺のことが怖いのか!早く出てきやがれ!!!!!」

長い黒髪を後ろにまとめた男が叫びながら、杖の先から何度も火や氷を放っている。小さな魔物たちは、慌てて逃げ回っている。

そんなことは視界に入っていないのか、同じ言葉を何度も言いながら男は魔法を止めることはなかった。

「お前の要望通り、来てやったぞ。魔王の俺に何のようだ。森をこんなにしてまで。」

男が暴れている上空からリザーズは声をかけた。

男は、キョロキョロと辺りを見渡した。それでもどこから声がするのか分からないらしく、杖を右に左にと振っている。

「上だ。・・・どんだけ頭に血が上っているんだ。」

リザーズは、頭を左右に振ってため息をついた。

男は、リザーズを鋭く睨みつけた。

「うるさいっ!!お前がおとなしく魔王をしてないから、俺の出番がなくなっただろうがっ!!」

「何のことだ?そもそもお前はだれなんだ?」

「俺は、お前が助けた魔法学校を救うために魔法を覚えてきたんだ!それなのに、お前が解決してどうするんだ!!魔王リザーズ覚悟しろ!!」

そう言うと、男は、杖をリザーズに向け火の玉を飛ばしてきた。

リザーズは、手のひらを前に出し、火の玉を払った。とんだとばっちりだ。

ライラに言われてしたことが、この男の仕事を取ってしまったようだ。

「それは悪かった。ただ、俺はゆっくりのんびり過ごしていたいだけなんだ。それに、いま俺を倒したところで君は英雄になれない。今回は、このまま帰ってくれないか。」

リザーズは男を説得しようと試みたが、男は攻撃を止めることはなかった。

「せっかく・・魔法を覚えて・・・やっと入学できたのに・・・いつも、いつも、俺は一足遅いんだ・・・・お前も俺を馬鹿にしているんだろう!?」

半分涙目になりながら、男は訴えてくる。

これ、やっぱり何かのゲームの中だったんじゃないのかと、リザーズは男の攻撃を払いながら考えていた。

「君の名前は?今回の件は、国王と一部の人間しか知らないのにどうして君が知っている?」

リザーズの問いかけに、男は攻撃を止めた。少し、気まずそうな顔をしている。しかし、男は口を開いて話し出した。

「俺の名は、アーサー・シーリング。言っても信じてもらえないかもしれないが、俺は前世の記憶がある。前世で俺はこの国を見たことがあった。それはゲームで見たんだ。ここがゲームの世界で、俺は主人公で、この国を良くするための勇者だとそこまで知っていて、魔法学校のイベントをクリアすると、この国一の魔法使いを仲間にできるはずだったんだ。それを、なぜか敵であるお前が、解決していた。」

なるほど、この国にも勇者がいたのか。それは、悪いことをしたな。それに、アーサー・シーリングは聞いた事がある。確か、RPGで国を狙う魔王と協力して、最終的に悪政を行う国王を倒すんじゃなかったか。

こいつは途中までしかしてないのかもしれないな。俺も前世の記憶があると言って信じてくれるだろうか?そもそも、今の国政はそこまで悪くはないから、信用してもらえないかもしれないが、一度落ち着いて話をしたい。

リザーズは、ゆっくりと降りてアーサーの前に立った。アーサーが驚いて戸惑っている内に、手をおでこに当てて、アーサーを眠らせた。

一度城に連れ帰り、頭を冷やしたところで話をしようと決めた。


目を覚ましたアーサーに、リザーズは自分の知っている情報を伝えた。意外とアーサーは、それを信じてくれた。どうやらこのイベントは序盤らしく、仲間を今から増やしていく予定だったとアーサーが言うので、このまま魔王城で一緒に過ごすことにした。

アーサーがめちゃくちゃにした森は、ネアスやガスートに手伝ってもらい元通りに直した。

しかし、脚本と違うストーリーにしてこの先、大丈夫だろうか?

少し、不安を残しながらリザーズは、アーサーという勇者と過ごしていた。


――― 数日後

「リザーズ、久しぶり。新しい下僕ができたって聞いたから見に来ちゃった。」

中庭で、アーサーと魔法の訓練をしている時にライラはやってきた。アーサーは、ライラを見ると、頬を赤くして、リザーズの後ろに隠れた。

「なぁに、恥ずかしがり屋さんなの?」

ライラは、リザーズのそばにどんどん寄ってくる。アーサーは、リザーズの後ろへとさらに回ってしまった。

「あの美しい人は誰ですか?」

小声でリザーズにアーサーは尋ねた。

「姉のライラだ。この国一の魔法使いと言われている。君の仲間になっていたかもな。」

「お姉さん。きれいすぎて僕には無理だ。」

そう言うと、アーサーは駆けだして、城の中に入っていった。

「あら、どうしたの?」

ライラは、きょとんとしてリザーズに声をかけた。

「姉上がきれいすぎて、近づけないそうだ。」

「ふぅ~ん。」

にんまり笑うライラを見て、リザーズは嫌な予感しかしなかった。

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魔王リザーズと入れ替わりの魔法 一正雪 @houzuki

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