君の為の15センチ
アキノアカリ
君が望む15センチ
【自己紹介】
ぼくの名前は
見た目は、多分そこら辺にいる標準的な小学6年生と同じで、太ってはないし痩せてもいない。本当に標準的な体格。
ちなみにあだ名はまん太、どうもシャー○ンキングって漫画に出てくるキャラクターが、同じ様な見た目だからだそうだ。実際にネットで調べたら、まん太は身長80センチらしい。
「全然ぼくの方が身長高いじゃん!?」
って自分の部屋で一人ツッコミをしたのは内緒だ。まぁ、本当はガッツポーズをして喜んでたんだけども。
そんなぼくが、身長にコンプレックスを感じてるかと言うと、実はそれ程気にしていない……というか諦めている。
中学生になったら、急激に身長が伸びるって聞いてたから期待してたけども、小学6年生から現在の中学3年生まで1センチ、いや1ミリも伸びてない。これは何かの呪いなのだろうかと思う時期もあったけど、灯台元暗しというか、自分の名前にずっと違和感を感じてなかった事に今では恐怖さえ覚える。
ぼくの名前は
苗字の方はどうやら、明治維新後に出来た「平民苗字必称義務令」により、自分で苗字を作ったりする事ができたらしい。その中でぼくのご先祖様は何をトチ狂ったかこんな苗字を考えてしまった。
ご先祖様の名前は
「ただの願望じゃねぇか!!」
それを家で調べ上げたぼくはまた、部屋で一人ツッコミをしてしまっていた。
そして、名前の方はご先祖様の名前からも分かる様に、何故か数字を起用する。どうもご先祖様だけではなく、ウチの元々の家系自体がトチ狂ってたようだったので、ぼくは絶対子供が出来たら普通の名前にしてあげたい。
話が逸れたけども、だからぼくは身長が伸びるのは諦めていた。でも、彼女の話を聞いてから……ぼくは身長をあと15センチ、150センチに伸ばそうと決意した。
【身長を伸ばす決意】
どの学校にもアイドルってのはいるもので、もちろんぼくの学校にも存在する。
でも、そんな丈長さんも意外と男子ウケは言いようで、よく告白されてるのを見かける。それなのに、彼女は一向に誰とも付き合おうとしない。
なぜ、誰とも付き合おうとしないのか気になったぼくは、丈長さん本人に直接聞く勇気はないので、近くで女子友達と話す内容を盗み聞きすることにした。
「理想ってさ、なんであんなに男子から人気あるのに誰とも付き合わないの?」
いい質問だモブ1! ぼくの知りたい情報を、いち早く聞き出そうしてくれたモブ1を敬意を表して、ぼくは
「いや、つかさぁ~、男子のやつらぁ~、マジで理想の事軽く見てる的な?」
おいぃぃぃ!! どうでもいい事を話すなモブ2! 急にどうでもいい事を聞いてきたモブ2は、悪意を込めてぼくは
「えっと、私は嬉しいんだけどね」
本命きたぁ!! ぼくは、思わずテンションが高ぶりすぎて声に出して叫びそうになってしまった。
「ただ、私ね……身長が150センチの人じゃないと駄目なの」
150センチ以上じゃなくて、150センチ限定なのだろうか? ぼくが考えこんでいるとすかさず、流石は茂部子1号、気が利いた質問をしてくれた。
「え? 150センチ限定?」
「うん、150センチ限定」
流石アイドル様、本当になにを考えているのかが分からない。でも、ぼくにはまだチャンスがあるって事は分かった。身長を伸ばせば付き合えるかもしれないというチャンスが。ぼくが、身長を伸ばす方法を考えていると、丈長さんは続けてこう言った。
「それとね、優しくて、かっこよくて、頼りがいがあって、頭よくて、スポーツもできて、面白くて、私の事をずっと見ていてくれる人!」
ぼくは、丈長さんの理想像を聞いて衝撃が走った。優しくて(野良猫に餌をあげる)、かっこよくて(母さんに毎日かっこいいって言われる)、頼りがいがあって(よくクラスの行事関連を任される)、頭よくて(通知簿はオール3)、スポーツもできて(ドッジボールは狙われにくいから得意)、面白くて(見た目がもう面白いって言われる)、私の事をずっと見ていてくれる人(逆にずっと見ていたい)。
それって、ぼくめちゃくちゃ当てはまってる!? ぼくは興奮した。あとは身長さえ、あと15センチさえ伸びれば……そう考えたぼくは、いてもたってもいられずに、丈長さん達が話をしている教室を後にした。
「えぇー!? うそぉ!!」
その後、ぼくが出て言った教室で、盛大に驚く茂部子1号と茂部子2号の声が響くも、ぼくの耳には届くことはなく、ぼくは身長を伸ばす旅に出た。
【身長を伸ばす方法1:牛乳をたくさん飲む】
身長を伸ばすと言ったらやっぱりこれに限る。CMでも「牛乳に相談だ!」って言ってるくらいだし信憑性は高いだろう。
1日にどのくらい飲めばいいか分からないので、1本まるまる飲み干してみる。
お腹が痛くなってきた。そうか「牛乳に相談だ!」って身長じゃなくて便秘を治す意味で言ってたのか!?
結果→失敗
【身長を伸ばす方法2:手足を引っ張ってもらう】
思いっきり手足を引っ張ってもらったら、少しは伸びるかもしれないので綱引き部に行ってみる。
「おや? まん太じゃねぇか」
綱引き部のキャプテンである
「やぁ、網野君! ちょっとお願いがあって来たんだけども」
ぼくがそう言うと、網野君は目を輝かせながらぼくの両手を、網野君のゴツゴツした両手がガシッと握り締めてきた。
「そうか、とうとう入るんだな? 綱引き部に!」
「ごめんけど、入部じゃないんだ」
ぼくがそう言うと、「たった二人なんだよぉ! このままじゃ綱引き部潰れちゃうよぉ!」と入部を泣きながらせがんできた。
逆に、どうやっていままで存続出来たのかが不思議で仕方ないけども。
「わ、わかったよ! もしぼくの願いが叶ったら入部するよ」
そう言うと、「本当か?」と聞いてきたので、漢に二言は無いことを伝える。
「で、まん太の手足を同時に反対方向に引っ張ればいいんだな?」
「うん、15センチ伸ばしてほしいんだ」
「任せろ! 綱引き部の意地で、引きちぎる勢いで殺ってやるよ!」
「ねぇ、ぼくの聞き間違いならいいんだけども、さっき殺るって言わな、いだだだだだ!!!」
ぼくが話してる途中で、綱引き部二人はぼくの体をこれでもかと引っ張り出した。
「どうだ田中! 何? 全く伸びていない?」
どうやら失敗だったらしい、こんな痛い思いをして全く変わらないとか、これじゃただの拷問だ。ぼくは、この方法は中止するように二人に話しかけた。
「網野君、中止! 伸びないなら意味ないから、これやめよ!」
「引いて駄目なら」
「え?」
どうも網野君の様子がおかしい。
「更に引くのみ!!」
「いだだだだ!! 千切れる! 千切れるからぁ!!」
どうやらこの綱引き部の二人は、脳みその代わりに綱引きの綱が入ってるようだ。この日、ぼくは拷問の恐ろしさと、馬鹿につける薬は本当に無いことを知った。
結果→馬鹿には二度と頼まない
【身長を伸ばす方法その3:逆さ吊りになってみる】
人間が引っ張るから、前回は失敗したんだとぼくは自分を納得させ、それならば足にロープを巻きつけて逆さ吊りになり、重力で少しづつ伸ばしてみようと考えた。やっぱり自然に身を任せて、成長する方が良いに決まってる。
ぼくは、まずどのくらいの強度があれば、人間一人を吊るせるかをネットで調べた。
「なになに? 逆さ吊りで長時間いると〔自主規制〕になり、次第に〔自主規制〕となり、最後には〔自主規制〕になる。逆さ吊りこわっ!」
結果→重力ってこわい
【身長を伸ばす方法その4:取り敢えずご先祖様を罵倒してみる】
「五尺のちーび! 本当は135センチのくせに!! 見栄っ張りぃー!! お供え物の団子もぉーらい!!」
謎の高熱で1週間寝込んだ。
結果→ご先祖様は大切に
【身長を伸ばす方法その5:マシュマロをたらふく食べる】
仕方ない、秘密兵器を使う時が来た。ぼくの好物であるマシュマロをたらふく食べよう。
ネットで知ったんだけども、マシュマロには実は身長を伸ばす作用があるらしい。好きな物を沢山食べて身長が伸びるって、なんてwin-winな関係なんだ!
「美味しい♪ なんて幸せなんだ!」
ぼくはマシュマロを一袋平らげた後にようやく気がつく。毎日、マシュマロは食べてる筈なのに身長が全く伸びてないって事は、もしかして……。
そういえば、あのネットの文章には続きがあったような気がしたので、恐る恐るその文章の先をスクロールしてみる。
[マシュマロを食べると身長が伸びる……実は迷信です]
やっぱりかチクショウ! win-winな関係なんて全くなかった。そこにあるのはマシュマロ会社に無駄に貢献した敗者のぼくと、それにより私腹を肥やした勝者のマシュマロ会社。もう、マシュマロなんて信用しない!
でも、美味しいから買いはするけども。
結果→マシュマロはただ美味しい
【身長を伸ばす方法その6:改名してみる】
身長が伸びない理由……最初の方でも言ったように、名前が悪いんだと思う。ぼくは改名をしようと考えて、良い名前がないかを最近巷で有名な、改名専門の占い師に聞いてみた。
「改名はせんでいい、そのままでいなさい。そうすれば、あんたに素敵な名前を付けてくれる人が必ず現れるよ。願いも叶うさ」
占い師のお婆さんはそう言うと、すっと手を差し伸べてきた。握手をしたいのだろうか?
「千円だよ」
なんと、なんの解決法もなく、有耶無耶な占いで千円もとるらしい。
「はぁ!? ふざけるなよ! 誰が払うもんか!!」
ぼくが怒ってそう言うと、お婆さんはドスの効いた声で「あぁっ!?」と脅してきた。このお婆さん、本当は山姥かなんかじゃないのだろうか?
「せ、千円なんてないよ!」
ぼくは咄嗟に嘘を付いた。本当は胸ポケットの中に千円札を入れてるけども、こんな適当な占いで千円札を差し出すなんて馬鹿げてるからだ。
「ジャンプせぇ」
「へ?」
「思いっきりジャンプせぇ!!」
「はい!」
ぼくはめっちゃ怖かったんで、思いっきりジャンプを数回した。すると、胸ポケットから野口さんが「コンニチハ!」と言わんばかりに顔をヒョッコリと出してしまっていた。
「ほれ、野口持っとるやんけ、渡せ!」
なんと、ぼくの野口さんが占い師のお婆さんにドナドナされてしまった。ドナドナされる野口さんは「アバヨ、アイボウ……」と言ってる様で、少し寂しそうな顔をしている様に見えた。
結果→野口さんを失った
【身長を伸ばす方法その7:願望を声に出して言ってみる】
願いってのは、声に出して明確にすれば叶いやすいと言うから、ぼくは自分の部屋で願望を声に出して言ってみる。
「身長は150センチになりたい、理想ちゃんと付き合いたい、身長は150センチ、理想ちゃんと付き合いたい、身長150センチ、理想ちゃんと付き合いたい、身長150センチ! 理想ちゃんぼくと付き合って!」
これでぼくの願望は叶うはずだ。ふと、ぼくの背後に気配を感じたので、後ろをゆっくり振り向いて見ると、母さんが心配そうにぼくの事をドア越しに見ていた。
「か、母さん! ドアくらいノックしてよ!」
「ノックしたわよ! でも一三五が全く返事してくれないから、ちょっとドア開けて覗いたら『理想ちゃんぼくと付き合って!』って急に机に向かって言い出して……一三五、言いたくないけども、机は机よ?」
母さんはぼくの頭がおかしくなったと思っているらしい。いや、もうあのシーンを見られたのなら、逆に頭おかしくなった方がマシかもしれない。
「違うから! この机は理想ちゃんであって、ぼくはその、理想ちゃんって子が、す、好きなんだよ」
「やっぱり、あなた机に恋してるのね!?」
「え?」
母さんに言われて、自分が言い間違いをした事に気付いたので、もう一度弁解しようとしたけども、もう母さんは居なくなってた。
次の日、学校から帰ってくると、ぼくの机の上にメモが一枚。
『理想さんの事を馬鹿にしてごめんね、あなたの性癖を母さんは馬鹿にしたけども、間違ってたわ。なので罪滅ぼしに母さんも一個だけ暴露します。実は裁縫道具が好き過ぎて名前を付けてます』
母さんが、罪滅ぼしに心底どうでもいいカミングアウトをしてきた。ちなみに、身長は全く伸びない。
結果→母さんは裁縫道具マニア
【身長を伸ばす方法その8:健康的に過ごす】
これまで、色々と試してみたけども全く効果はなかった。なので、保健室の
「身長を伸ばすには健康が一番だよ? 三食ちゃんと食べて、適度に運動して、早寝早起き! これが一番、健康にも良いし身長も伸びるはずだよ」
保本先生はニコッと笑いながらそうアドバイスしてくれた。最初からこうしていれば早かったなと思いつつ、ぼくはその日から健康的に過ごすように心掛けた。
結果→そして念願の……
【彼女への告白】
ぼくは、あれから毎日健康的に過ごして、ぼくの中の止まっていた歯車が約4年ぶりに動き出したようで、驚く事に身長はぐんぐんと伸び、半年後には150センチぴったりになっていた。
「やっと、やっと君が望む15センチを手に入れたよ。これで、ぼくは君に告白できる」
ぼくは告白の当日、放課後に学校の屋上にきて欲しいと丈長さんに伝えた。丈長さんは最初こそビックリした様子だったけども、快くそれを了承してくれた。
そして放課後、ぼくはドキドキしながら丈長さんがくるのを待つ。来てくれるだろうか?
「はぁ、なんて言おう。単刀直入に理想ちゃん好きです! かなぁ? でも、それだと味気ないっていうか……」
ぼくが、一人であれこれ考えていると、屋上の扉がガチャリと開いた。
「お待たせ!」
ドアを開けながら、丈長さんがそう言って、ぼくの方にゆっくりと近づいて来た。
「えっと、ご、ごめんね丈長さん、急に呼び出しちゃって」
ぼくは、本当に来てくれたっていう嬉しさと、何て言おうかと緊張してましって、まず謝罪をしてしまった。
「ううん、全然いいよ? で、屋上に私を呼んでどうしたの?」
彼女は、首を少し傾げてぼくにそう聞いてくる。その動作がいちいち可愛い!
「えっとね、あ、まずはぼくの自己紹介からしておくね! ぼくの名前は身長 まん太です」
最悪だった。クラスメイトの大半がぼくの事を、まん太って呼ぶから、それに慣れてしまっていて普通に自分の名前を間違えた。よし飛び降りよう。
「まん太君? あれ、でも君は身長 一三五君だよね?」
「へ?」
ぼくが、屋上の柵に足を掛けて飛び降りる準備をしていた時に、彼女はぼくの本名を言い当てた。
「なんで知ってるの?」
「当たり前だよ! だって一三五君って、名前がまずインパクトあるもん」
彼女は、ニコッと笑いながらぼくの飛び降りを阻止した。
「そ、そうなんだ、知っててくれたのは嬉しいなぁ」
丈長さんが、ぼくの名前を覚えててくれたのが、ぼくは普通に嬉しかった。ぼくは、一三五という名前を付けてくれた両親に初めて心の底から感謝して、本題に入る。
「実はね、半年前に丈長さんが150センチの人としか付き合わないって話を聞いたんだよ。だから、ぼくは努力して君の望む15センチ、150センチに身長を伸ばしたんだ」
その話を聞いた彼女は一瞬何かを思い出すように、腕を組み、こめかみに人差し指を当てて「うーん?」と唸ったあとに「あぁ、あれかぁ!」と何かを思い出したらしい。
「あれ聞いてたんだ? 恥ずかしいなぁ……でも、その為に150センチに身長を伸ばしてくれたんだ? 確かに、一三五君伸びたよね身長」
彼女は、少し頬を赤らめて恥ずかしがった後に、また首を少し傾げてぼくを見つめ、ニコッと笑いながら言った。
「うん、だからね、ぼくにもチャンスがあるかと思って……だから、その、丈長さん! ぼくと付きあ」
そこまで言った時だった。彼女は「あーっ!」と大声を出してぼくの告白を制する。
「よく考えたら、身長135センチじゃなくて150センチだから、一三五君じゃなくて、一五◯でイゴマル君だね!」
あ、なるほど確かに! と納得したと同時に「なにその、どっかのマスコット的な名前!?」とツッコンでしまった。
「わ! ナイスツッコミ! イゴマル君すごいね!」
彼女の中で、イゴマルというあだ名が定着してしまったけど、彼女だけのあだ名だと思うと、なんだか得した気分でもあった。
「あ、話しが逸れちゃったね。そっか、私の為にね……じゃあ、今度デートしよ!」
「で、デート!?」
「うん、今度の日曜日午後3時に遊園地で!」
急展開、まさかの彼女とデートを今度の日曜日にすることになった。
そういえば、彼女が付けてくれたぼくの新しいあだ名、イゴマルをぼくは、少しだけ気に入っていて、以前に占い師のお婆さんが「あんたに素敵な名前を付けてくれる人が必ず現れるよ」って言ってくれてたのを思い出す。ぼくは、心の中で占い師のお婆さんに感謝をした。そして、ありがとう野口さん。
【君の為の15センチ】
ここは、ぼく達の町から少し離れた唯一の遊園地「六井のホワイトランド」という遊園地。丈長さんと約束した、日曜日の午後3時の1時間前から、ぼくは遊園地の入り口前で待っていた。
「うーん、服装変じゃないかな?」
約束の時間にまだ余裕があったので、一旦ぼくは服装が変じゃないか、トイレの鏡を見ながらチェックする事にした。下は紺色のジーンズに茶色のシューズ、上は白地に黒い字で「I not a small!!」と書かれたTシャツを着ていて、肩には簡単な黒のショルダーバッグをからっていた。地味だな……ぼくはちょっとテンションが下がった。
自分の服装チェックを済ませてトイレから出ると、先程までぼくが待っていた場所に丈長さんが居た。
下は淡い水色のロングスカートに、真っ白なサンダル、上は白のブラウスを着ていて、黄色のハンドバッグを持っていた。ワンポイントに、綺麗な黒髮に水色の花柄ヘアピンを付けているのも素晴らしい。
ぼくのテンションが限界突破しかけたのは言うまでもない。
「あ、イゴマル君! こっちこっち!」
丈長さんはぼくを見つけると、ニコッと笑いながら手を振ってぼくを呼んだ。
「ごめんね、 待った?」
丈長さんが申し訳なさそうにぼくを見つめるから、ぼくも今来たアピールをしながら話す。
「ぼくも、今来たところだから大丈夫だよ?」
「よかった、じゃあ、入ろうか」
丈長さんはそう言うと、遊園地の中に入って行ったのでぼくも後に続く。実際、デートをした事がないぼくは、遊園地に来て何をしていいかもわからず、どんどん遊園地の奥に進んで行く丈長さんに付いて行く事しか出来なかった。何処に向かってるのだろう?
「はい到着!」
丈長さんは、とあるアトラクションの前でピタリと止まると、そう言いながら後ろから付いてきていたぼくの方に振り向いた。
「こ、これって?」
「ジェットコースターだよ」
「うん、分かるけども……え?」
「えーっとね、私は大のジェットコースターマニアなんだけども、皆乗りたがらないのよね……それに、ほらジェットコースターって身長制限あるじゃない?」
「うん、これは150センチ以上だね」
ぼくは自分で、ジェットコースターの案内看板を見て声に出して身長制限の説明をして……身長、制限?
「も、もしかして、前に学校で言っていた150センチって、これの、これの事?」
ぼくは天国から地獄に、一気に落ちて行く様な感覚に陥った。
「うん、だって一人で遊園地行く勇気ないしさ。だからイゴマル君が付き合ってくれるって言った時、スゴく嬉しかったんだよ?」
馬鹿だ、ぼくは大馬鹿だ。身長が150センチになれば、丈長さんと本気で付き合えると思っていた。ぼくは、ぼくは……。
「う、うぐっ、うゔっ……ゔわあぁぁぁぁーーー!!!」
逃げるように、この突き付けられた現実から逃げるように走り出した。
「い、一三五君!?」
後ろで丈長さんが、ぼくを呼ぶ声が聞こえた。でも、振り向かなかった。ぼくは遊園地の入り口に向かって泣きじゃくりながら走り続けた。
「馬鹿だ! ぼぐは馬鹿だ! 大馬鹿者だ! 努力なんて意味ながっだ! ぼぐを見でぐれでると思っだのに!」
胸が張り裂けそうで、苦しくて、泣いても泣いても泣いても泣いても泣いても! 涙が止まらない。
この前の屋上での会話が夢のようだった。もしかしたら、夢だったのかもしれない。そうだ、これだって夢なのかも。本当は、まだぼくは自分のベッドの中で寝ていて、呑気にイビキでもかいて寝てるのかもしれない。起きろよ、早く起きて丈長さんとデートして楽しまないと!
「起きろよ、起きろよぼく! これは夢なんでしょ!? 起きてよ!!」
ぼくは走るのに疲れ果てて、近くのベンチにゆっくりと近付き、腰を下ろして頬を思いっきりつねった。
「イタイ、頬がイタイ。心も、イタイよ」
夢じゃなくて、現実だった。信じたくない現実だった。それが分かると、また涙が溢れてきた。
「おかしいな……、もう涙止まったと思ったのに……止まらない、どまらないっ」
ねぇ、君の為の15センチをぼくは手に入れたよ?
後は何が足りないの?
優しさかな、かっこよさかな、頼りがいかな、頭のよさかな、スポーツかな、面白さかな、それとも……
「全部だよ。 君は全部持ってるんだよもう?」
「え?」
ぼくはビックリして顔を上げると、そこには丈長さんがいた。ぼくの独り言はどうやら聞こえてたらしい。
「一三五君、君は全部持ってるんだよ?」
「そんな、ぼくは何もないよ……取り柄なんて身長が135センチってだけのネタしかないくらいだよ。もう150センチだけども」
「ううん、まず優しさがあるでしょ?」
丈長さんはそう言いながら、ぼくの隣にゆっくりと腰を掛けて座った。
「え?」
「私が教科書忘れて困ってた時、貸してくれたよね? 一三五君は先生に教科書忘れたって嘘ついて怒られたけども、私は嬉しかったよ?」
「あれは、丈長さんが困ってたから……」
「うん、ありがとう。そして、かっこよさ」
「ないよ、そんなの」
「あるよ、私が他のクラスの男子に告白されて困ってた時に、間に入って助けてくれたよね?」
「いや、あれは……ただ単に男子生徒に嫌がらせしてやろうと思って。それに、その後、ぼくめちゃくちゃボコられたからね?」
「ふふっ、知ってるよ? 次の頼りがいはね」
「う、うん」
「皆、一三五君によく仕事押し付けるでしょ? あれは、まぁ、楽したいからってのもあるんだけども、一三五君に頼むと段取りよくしてくれるって皆褒めてるんだよ? 頼られてるよちゃんと」
「そうなんだ、照れちゃうな」
「照れないでいいのに? そんで頭の良さは」
「絶対ない自信あるよぼく」
「一三五君、私ね、ゲシュタルト崩壊ってゲシュタートルと間違えるんだよね、たまに」
「間違わないよ!? 何そのタート○ズに出てきそうなキャラ!?」
「ほら、頭の回転が早い!」
「こ、これは頭が良いとは言わないよ?」
「頭の回転が早いって事は、容量が良くって、理解力がある事だし、勉強出来るだけが頭良いんじゃないと私は思ってるよ?」
「あ、ありがとう」
「次にスポーツだけど」
「得意なのが思い当たらないよ」
「一三五君、サポートがスゴく上手いんだよ?」
「サポート?」
「そう、バレーの時なんか一三五君、ボールがインギリギリの場所でも取っちゃうし、バスケの時なんかボールを綺麗に仲間にパスするし。本当スゴイよ」
「それは、得意とは言わないよ?」
「ううん、一三五君がチームに入ると、プレーがしやすいって言ってるよ?」
「ぼくに直接言えば良いのに」
「確かにね。後は面白さ!」
「ぼくの取り柄なんて、さっきも言ったけどこの身長しかないよ」
「一三五君がいるとね、皆笑顔なんだよ? 気づいてた?」
「え? 確かに皆よく笑うなとは思ってたけども」
「一三五君が休みの日なんて皆、あんまし笑わないんだから!」
「へぇ、そうなんだ!」
「ね? 一三五君って人気者なんだよ?」
「初めて知ったよ」
ぼくは、皆からそんな風に思われているのを知らなくて、ビックリの連続だった。でも、なんで急にこんな話を丈長さんはしてきたんだろう?
「でね、一三五君……一三五君は勘違いしてるようだけども、私が前に友達と話したのは、150センチ限定の人だよ?」
「あ、そう言えば」
ぼくは、半年前の丈長さん達の会話を思い出すと、確かに150センチ限定って言っていた。別にジェットコースターに乗るなら、150センチ以上でも大丈夫なはずだけども。
「私達の学校さ、150センチ超えてる人しかいないじゃない? だから……ね? 150センチ限定って条件出せば皆諦めてくれるでしょ?」
確かに、ぼくの学校は150センチ超えてる人しかいない。唯一150センチ超えてないのはぼくだけなのだ。あれ?
「私ね、好きな人と初めてデートするなら、絶対一緒にジェットコースター乗るって決めてたの」
「も、もしかして……わざと、ぼくに聞こえるようにあの話をしたの?」
ぼくは、そんなまさかと思い丈長さんに聞いてみる。
「うん、そしたらね、一三五君……君は努力して身長を150センチに伸ばして、私と今ここにこうしているよね?」
心臓がドキドキと脈を早く打つのが分かる。まさか、まさか。
「150センチ限定ってのいうのは、一三五君……君の為の15センチなんだよ?」
「え、丈長さん……僕の事を?」
「て、照れちゃうね」
丈長さんはそう言うと、顔を赤らめて自分の髪の先っちょを弄りながら最後にこう言った。
「それとね、最後の条件……私の事をずっと見ていてくれる人。ずっと、私の事を気にしてくれてありがとう一三五くん。私は、君の事が、だ」
丈長さんが何か、物凄く大事な事を言おうとした瞬間、真上をジェットコースターが走り去りよく聞こえなかった。でも、ぼくにはその言葉の意味はハッキリと分かった。
「丈長さん……ううん、理想ちゃん、ジェットコースター乗ろうか?」
理想ちゃんは顔を真っ赤にして、俯いたままコクリと頷いた。
これで、彼女が望んだ15センチは距離を詰めてやっと0センチになった。ここから、ぼくと彼女の思い出と身長を、1センチ1センチ積み上げて伸ばしていこう。
それにしても、15センチに翻弄される半年だったなと、ぼくは思いながらも、今日は取り敢えず遊園地を満喫しよう。
あ、そういえばぼく……ジェットコースター苦手なんだった。
[完]
君の為の15センチ アキノアカリ @akinoakari
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