13

「私は死んだ。あなたは生きている」

ナニコはひとつひとつの言葉の意味を確かめるようにゆっくりと言った。

「ああ、そうみたいだ」

声が震えてしまわぬよう注意を払う。

ナニコは続ける。

「ただ、死んだものが生きている人の中でみずみずしく生きるということはありうる」

目を閉じて、うっすらと笑うナニコ。その笑顔が、今はどこか痛々しい。

「——それが、私のギフト。物語として、あなたの心の中に住み続ける」

穏やかな顔。

俺が恋した声。

「あなたのギフトは、私が死んだことで完成したの。あなたは〈十五センチ〉の価値を誰よりも知っている」

俺が信じた、存在すべて。

「私という物語と、あなたという人——あるべき姿なの」

ナニコは言った。しかし俺は首を振る。

「俺は、君を抱きしめたいんだ」

今度はナニコが首を振った。十五センチの髪がひらりと揺れる。

「わがままね」

そして俺の胸元を指差す。

「もう、抱きしめてるじゃないの」

「……?」

目を落とす。

俺が抱きかかえてるのは、文庫本だ。

……ナニコじゃない。

「俺が抱きしめたいのはナニコであって、文庫本じゃ——」

——いや、違う。この文庫本はナニコなのだ。

俺は途中で口をつぐんだ。

「そう。あなたはその台詞が言えない。……その台詞だけは絶対に言えないのよ」

にっこりと笑うナニコ。

天女のような笑顔だった。その完璧さが、ナニコの本心を隠蔽している——と思いたくなってくる。願望だ。

しかし、それを嘘だと看破するほどの確証もなければ、勇気もない。

「その優しさ、その感受性、その大らかさ、その感性が、あなたの『ギフト』なのだから」

「…………」

これ以上、俺がナニコに掛ける言葉はなかった。

そもそも、物語と人の間に会話など必要ないのだ。

「あなたと私の間に、言葉は要らないんだよね。でも……最後にひとつだけ言わせて」

「……なんだ?」

「あなたを選んで良かったと、心から思ってるよ」

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