6
ある日、一日の授業が終わると、ナニコはいつものようにゆったりとした動きで帰り支度を始めた。
緩慢だが、迷いがなく効率のいい動きであるため、支度はすぐに終わる。
そしていつものように立ち上がり、椅子を押して机に寄せる。椅子の背もたれと机の天板の間にちょうど十五センチの隙間を開けて、ナニコはいつものように教室のドアの方へ——
行かずに、なぜかこちらに向けて歩いてくる。
一歩、一歩、俺に近づいてきて——そして。
帰り支度中の俺の前にずいっと立った。
そして静かに、
「十五センチ」
と、言った。
「——えっ?」
「それがあなたの『ギフト』ね?」
そう問うてきた。落ち着いた口調だった。かつて『ミメティスム』と読み上げたあの声音で、しっとりとした響きだった。
なぜ俺の能力がわかったのだろう? と気にはなったが、それ以上にこの問いの重大な欠陥を指摘しておきたかった。
「確かに俺の『能力』は〈十五センチがわかる〉というものだが、今の問い方ではノーと答えるしかない」
「なぜ?」
鼓膜に舐めつくような声。自然と胸が高鳴る。
「なぜなら、俺が持っているのは『スクラップ』であって『ギフト』じゃない」
「いいえ、あなたが持っているのは『ギフト』よ」
彼女は髪を耳に掛けるような仕草でちょうど十五センチ、手を動かした。
「俺の能力が『ギフト』? どうしてそう言える?」
ありえない。俺の能力がいかに役立たずであるかは、俺が一番知っている。
「んーとね……」
後ろ手を組み、眠そうな目を俺に向けて、ナニコは首を傾げた。ちょうど十五センチ、頭が動く。
「私は明日死ぬの」
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