第4話 リベンジマッチ(後編)


 至近距離で撃ち込まれたショットガンは見事莉亜のロボットに命中し、HPを大きく削りながら衝撃で後方へ吹き飛んでいった。そこに大悟はすかさず左手のバックグレネードを発射、飛ばされていく莉亜のロボットの脇を通り過ぎ背後で爆発する。その爆風でダメージを与えつつも大悟のロボットがいる方向へ吹き飛ばし、目の前まで戻ってきたところで再びショットガンを放った。


「なッ! なんなのこの威力!?」


 ショットガンとバックグレネードによるコンボ。それにより莉亜のHPは合計で400ポイント以上を失い、莉亜は驚愕した。もともと近距離高威力ガンのショットガンによる連続攻撃に加え、空中戦をするために莉亜のロボットは軽量化されており、その軽量化がシステムに耐久性が低いと判断された結果だった。大悟としても、ここまで大きなダメージを与えたのは初めてだった。


 二発目のショットガンで吹き飛ばされた莉亜のロボットは、三冊ほど積み重ねられた教科書の上に倒れこんだ。


「行けッ!!」


 大悟は叫んで接近を命じた。莉亜のロボットが倒れこんだことにより、大悟はグレネードの爆風効果が得られないと判断した。現実でも、立っている人間と地面に伏せている人間とでは爆発物の爆風の受け方が違うからだ。大悟のロボットも内蔵している超小型AIが命令の意図をくみ取り、ジャンプして積み重ねられた教科書を飛び越え、スラスターで空中移動して肉薄した。


 そして大悟のロボットがショットガンを構えたそのときには、莉亜のロボットはまさに起き上がる動作の最中だった。大悟はその無防備なタイミングを逃さずショットガンを発射。バックグレネードと二発目のショットガンも撃ち込み、二度目のコンボに成功した。


 それにより莉亜のロボットは再び大きくHPを減らされ、最終的には100ちょっとのHPを残すだけとなった。一方大悟は、数発分のディレイガンのダメージで残りHPが900を下回っただけだった。


 昨日とは打って変わって形勢逆転し、大悟の優勢となった。


 ――イケる! あと一発で勝てるぞ!


 大悟は内心興奮した。しかしここで大胆な行動をして逆に打ち負かされたら元も子もないので、大悟は握り拳をつくって自制した。意識して冷静になり、莉亜の動向を伺う。


 当の莉亜は眉間にしわを寄せ、苦々しい表情を浮かべていた。昨日、そして今日のバトル前までは余裕の表情をしていたのだが、状況が一変してからはその余裕が跡形もなく消え去っていた。


 その後は、二度目のコンボから強引に離脱した莉亜のロボットはアクロバットグレネードを使って再び上昇、ディレイガンによる全方位攻撃を仕掛けてきた。大悟はこれを回避しようとするが、先程の回避行動が奇跡であったのが如く多くの弾丸を受けることとなった。HPもいくらか削られたが、しかしまだ600は切っていなかった。


 そうして莉亜のロボットは再び床に迫ることとなり、大悟はその好機を逃さず急接近した。


 しかし今回は、莉亜の反応の仕方が違った。


 先程は逃げるようにすれすれの空中移動をしたが、今回はスラスターで大悟のロボットに向かっていったのだ。


「なにッ!?」


 大悟は莉亜のその行動に不意をつかれた。逃げると思っていたのにまさか突っ込んでくるとは、とても予想できる行動ではなかった。


 そして莉亜のロボットは大悟のロボットを押し倒すかのように突進し、そのまま二機ともカーペットに倒れ伏せた。それと同時にバトル終了のお知らせがARメガネに表示された。


 


「なんで!? まだHP残ってるのに!」


 大悟の疑問はもっともだった。なにせ大悟のHPは600近く残っていたからだ。いくら莉亜のロボットの突進がダメージとして認定されたとしても、いきなり600もHPが減るのは不自然だ。


「ちゃんとARの表示見て。とくにフィールドの」


 大悟がバトルの結果に困惑していると、不意に向かい合っていた莉亜が言葉を発した。それにより大悟は莉亜の方を見やる。すると莉亜はバトル前までの余裕を取り戻しており、つけているARメガネを小さく突いた。大悟はそれに従い、ARを通して倒れこんだロボット二体を注視した。


「あッ!!」


 そこでようやく大悟は敗因に気がついた。


 二機ともフィールドの外に出ていたのだ。


 チューバトの勝敗は、設定した円形バトルフィールドから相手を追い出すか、もしくは相手のHPをゼロにすれば勝利である。結果として、大悟のロボットの方が先にフィールドを出てしまったため、大悟の負けとなった。


 大悟はそこから最後の局面を推測する。お互いが急接近したあのとき、両者フィールドのラインギリギリを沿って移動していたようだ。そして両者スラスターによる空中移動を行っていたが、莉亜のロボットが装着しているスラスターは移動距離が長いロングスラスターである。


 大悟のスラスターは小回りがきく分、莉亜のものよりも早く停止してしまう。そのスラスターが停止したタイミングで莉亜のロボットがぶつかってきたのだ。それにより大悟のロボットは莉亜のロボットに押し出され、円形のフィールドラインに対して斜めからはみ出したのだった。当然、大悟のロボットが押されたのだから、先に場外へ出たのは大悟のロボットの方だった。


 その勝敗のつき方は、まるで力士が相手を土俵から押し出したかのようだった。こんな勝ち方、大悟は今まで見たことなかった。


「すげぇ……。やっぱ全国大会に出てるやつは違うな」


「やっぱり。ワタシの過去のバトルログをネットで見たでしょ。昨日と全然戦い方が違ってたもん。なんか知的だった」


「まあな。こっちも勝つために必死だったんだよ」


「何? ワタシに負けたことがそんなに悔しかったんだ」


「当たり前だ!」


 大悟は莉亜の煽るような言い草に憤慨したが、莉亜が言っていることはもっともだったので、大悟としては強めな語気で言い返すしかできなかった。


 ふと大悟は思った。昨日は負けていじけるほど悔しい思いをしたが、今日は負けてもそこまで悔しくはなかった。むしろよくわからない爽快感さえあった。


 ただそれも勝敗のつき方によるものなのかもしれない。昨日は手も足も出ないほど完敗したが、今日はあと一歩のところで負けたのだ。最後以外は優勢だったので、悔しいという思いより惜しいという思いの方が勝っていた。


「大悟はセンスあると思うよ。チューロボのカスタマイズも悪くない。でも経験が足りてないだけかも」


「そ、そうなのか?」


「そうよ。だって昨日はぼろ負けだったのに、一晩で研究して有効な作戦を見つけてワタシを追い詰めた。もっと強い人といっぱい戦って戦い方を学べば今よりも強くなれるよ」


 強くなれる。大悟はその言葉に引き寄せられた。大悟はチューンナップロボットが好きた。初めて自分ひとりで組み立てたロボット、リアル系ロボットアニメの主人公機タイプのロボットに、まるで我が子のように愛情を注いでいる。息子として大事にしている。そんな夢中になれるチューンナップロボットにて、もっと強くなれると言われれば、それに食いつかないわけがなかった。


「どう? ワタシお盆中は暇でやることないの。ワタシが東京に帰る日まで、ワタシの相手してくれない?」


「望むところだ! 全国レベルのやつと戦えるなんて、そんな機会滅多にないしな。今日は負けたが、お盆中に僕が勝ってやるよ!」


「じゃあ二回戦目、やろう!」


 大悟は莉亜の提案をのんだ。そうして二人はこの日、日が暮れるまでチューバトに明け暮れたのだった。


 こうして、男の子と女の子のひと夏の熱い戦いの日々が始まったのだった。




〈了〉



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