第2話 情報収集と作戦立案
「ま、負けた……」
日が暮れて駐車場にたむろしていた小学生たちが解散したのち、大悟は自室に引きこもりベッドに突っ伏して悔しがっていた。その原因は、今日の昼間に出会った莉亜にあった。
大悟はチューバトにおいて、莉亜に敗北したのだ。しかも莉亜のチューンナップロボットにダメージを与えることすらできなかった。所謂パーフェクトゲーム。ここのところ快勝を続けていて天狗になっていた大悟にとって、屈辱的な大敗だった。
大悟は負けた瞬間、あまりの悔しさで感情的になりそうになった。しかしギリギリのところで理性を保ち、「あ、明日また勝負だ! リベンジしてやる!」と啖呵を切ってしまった。それを聞いた莉亜は、「うん。わかった。じゃあ、また明日ここに来るね」と余裕に満ちた表情で承諾したのち、そのまま立ち去ってしまった。
そのあとも残ったメンバーでチューバトを続けたが、大悟はバトルに身が入らず、最終的には友人二人のバトルを眺めるだけになってしまった。そしてそのまま解散、今に至るのである。
どのくらいの時間いじけていたのかは大悟自身わからなかったが、しかしいつまでもベッドに突っ伏しているわけにはいかなかった。いじけていて勝てるようになるとは、さすがの大悟も思っていない。ある程度気持ちを整理したのち、大悟は携帯端末を操作してチューバトアプリを起動させ、勇気を振り絞って自分が大敗したバトルのログを再生させた。
チューンナップロボットに装着するカスタマイズ用パーツは、主に四つに分類することができる。
右手に装備するメインウェポンの「ガン」。左手に装備するサブウェポンの「グレネード」。脚部に装備する「レッグ」。背中の「スラスター」。
レッグは主に地上移動速度やジャンプ力に影響するパーツで、スラスターは主に空中での移動に関するパーツである。スラスターは、ARメガネでは派手に噴射するエフェクトが演出されるが、実際はスラスターパーツ内に圧縮した気体が入っており、それを噴出させているだけだ。気体を噴出して無理やり移動しているため、空中移動中は制御ができず扱いが難しいのが難点だ。
カスタマイズのベースとなる大悟の新型チューンナップロボットは、オールラウンド型ではあるが基本スペックが高いロボットで、巷では次世代機として注目されている。
大悟は右手に「ショットガン」という近距離高威力のガンを装備している。
対して左手には、「バックグレネード」という特殊なグレネードを装備している。
通常、右手のガンの射程は近距離から遠距離まで多彩なラインナップがあるが、左手グレネードに関してはどれも近中距離しか届かない。その中でも大悟が装備させているバックグレネードは独特で、グレネード弾を発射したのち、正面から相手に命中させるのではなく、相手の脇を通り抜けて背後で爆発、後ろから爆風を浴びせるという能力を持っている。
大悟は右手のガンと左手のグレネードを組み合わせている。右手のショットガンで一発大ダメージを与え相手を吹っ飛ばしたのち、すぐさまバックグレネードを発射させ飛んでいく相手の背後で爆発させ、爆風によって真逆の方向、大悟のロボットの方に
しかしレッグとスラスターは、とくにこれといってこだわりはなかった。そこまでするほどお小遣いに余裕があるわけではないし、なにより大悟としては攻撃の威力さえあればそれでいいと考えているからだ。
そんな脳みそまで筋肉でできているかのような近接戦法をとる大悟だが、携帯端末に再生されているバトルログ動画では、その実力が発揮されることなく一方的な攻撃を受けていた。なにせ莉亜のロボットは、バトルの大半を遥か上空にいたからだ。当然大悟の必殺武器ショットガンの届く距離ではない。
基本スペックでもともとジャンプ力が高いチューンナップロボットに、ジャンプ力を向上させるレッグを装備したところで、十五センチメートルの全長を超える跳躍はできない。そしてジャンプ後の空中ではそのまま落下するか、もしくはスラスターによる前後左右の二次元的な移動しかできず、地上でジャンプする以外に高度を上げる術はない。空中戦を得意とするパーツを装着したところで、地上から手が届かなくなるということはまずあり得ない。
しかし莉亜とのバトルでは、そのあり得ない事象が起こった。しかも莉亜自身はそのあり得ない事象を完璧に使いこなしていた。
莉亜のロボットの特徴は、なんといっても左手に装備したグレネードだった。「アクロバットグレネード」と呼ばれるそれは、ダメージが1ポイントしか与えられない最低威力のグレネードで、主に爆風で相手を吹き飛ばして仕切り直しとして距離を稼ぐグレネードだった。
しかし莉亜はバトル中、そのグレネードの弾を自分のロボットの足元に放ち爆発させた。それにより爆風によって上方向に吹き飛ばされ、結果として通常のジャンプを遥かに凌ぐ跳躍力を得ることとなった。莉亜のロボット自体が極度な軽量化がされているのか、その跳躍は小学生の腰の高さまで上昇することを可能とした。たとえ相手が空中戦仕様の装備をしたとしても、莉亜の超空中戦には対応できるわけがなかった。
そして装着されているレッグには、パラシュートとまではいかないが空気抵抗を生み出す小さな羽がつけられ、漂うように降下する「フェアリーレッグ」がつけられている。スラスターは、内蔵されている気体を多く噴出させることで一回の移動距離を長くした「ロングスラスター」を装備。完全に空中戦仕様のカスタマイズが施されていた。
そして制空権を得た莉亜のロボットは、唯一の武装であるガンで攻撃してくる。そのガンも特殊なもので、発砲後に弾丸が一時停止し、三秒ほど経過してから放たれる遠距離中威力ガン「ディレイガン」を使用。
莉亜のロボットは、上空で相手のロボットの頭上を旋回するように空中移動をし、その都度ディレイガンの弾丸をばらまいている。時間差を利用して様々な方角からの集中砲火を浴びせ、相手の自由を奪う戦法を用いてくるのであった。この
莉亜とのバトルログも、地上を右往左往する大悟のロボットに対して莉亜は安全圏から全方位攻撃を仕掛け、一方的に嬲っていた。その結果、莉亜は大悟からのダメージを受けることなく、大悟のロボットのHPをゼロにすることに成功したのであった。
ふと、大悟は思った。これだけの実力があるなら、これまでのイベントや大会でいい戦績を残しているのではないかと。
大悟は早速莉亜の名前やロボットのカスタマイズ内容で検索をしてみると、案の定莉亜が出場した大会の結果がいくつもヒットした。
一番いい成績は、一般の部のほかに小学生の部がある公式大会で、関東大会を優勝して全国大会まで出ている。大悟は知らなかっただけだが、莉亜はチューンナップロボット界では有名人のようだった。
そして検索された大会結果の一部には、その試合のバトルログも公開されていた。大悟は目についたバトルのログを再生してみると、やはり大悟と戦ったときと同様、超空中戦にて一方的な全方位攻撃を仕掛けて勝利していた。
次に大悟は、莉亜が負けた公式試合のログをいくつか再生した。莉亜が負けた要因は大きく二つあった。
一つは遠距離ガンで地上から撃ち落とす戦法。「スナイパーガン」や「レーザーガン」などといった弾速が速く回避が困難な遠距離ガンで狙撃され、それに対応しきれず撃墜されるパターンだ。
「これなら空飛んでいる相手に攻撃できるのか……」
大悟は端末の画面に表示された大会の激闘記録を感心しながら眺めた。さすが予選を勝ち抜けて名のある大会に出場しているだけのことはある。莉亜に負けた出場者も、莉亜に勝った出場者も、そして莉亜自身も、ロボットの一つひとつの動きが洗練されており、ログを見ているだけでも得るものが大きかった。
「僕も遠距離ガンを装備させるべきかな?」
莉亜とのリベンジマッチを明日に控えた大悟としては、莉亜に勝てる確率が上がるのであれば、それをやるよりほかはない。
「でもなー……」
しかし大悟としては素直に受け入れにくいものがあった。警戒して遠くから攻撃するのは性に合わない。突っ込んで撃つ。大悟はそのシンプルな発想が大好きなのである。それに今までの接近戦法の方が断然カッコイイのだ。
相手に合わせてスタイルを変えるのも大事だが、スタイルを貫いたうえでどう対応するのか、ということも同じく大事なのだ。
莉亜が負けたもう一つの要因は、大悟としては意外なものだった。
そのバトルの相手は、大悟と同じく近接戦闘に特化した装備をつけていた。そしてその相手は莉亜と接戦の末、勝利を収めたのだ。
「そうか! それなら勝てるのか!!」
大悟はログを注視しながら興奮して叫んだ。誰も手が届かない遥か上空にいる相手に、近接戦で挑む方法。なんてことはない。チューンナップロボットの仕様を加味して考えれば誰でも思いつく方法だった。
「これは……これは勝てるぞ!」
大悟は対莉亜戦の活路を見出した。あとは明日のバトルでその戦法を使えるように特訓するだけだ。
こうして大悟は、夜遅くまで作戦シミュレートとARによる疑似バトルトレーニングに没頭したのであった。
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