終:深夜
要人を目的地まで送り届けると、車の外に待機していた関係者たちが彼を引き取る。簡単なねぎらいの言葉をもらい、車を発進させる。組織への報告を終わらせてから、ようやく額の汗を拭う。道中にトラブルは何一つなかったが、いつ襲撃を受けてもおかしくない仕事だった。緊張の糸が切れて、どっと疲労が体を襲う。
車を路肩に止めて、深呼吸する。そろそろ身の振り方を考えたほうが良いかもしれない、などと弱気な考えが頭をよぎる。
その時、助手席の窓を誰かがノックする。僕はそれに答えない。いつものように助手席のドアが開き、勝手に乗り込んでくる。乗客は黒い服装で、車内灯を点けていないので顔も分からない。でも、いつもの乗客だと僕には分かる。
まだ仕事を一つ抱えている、そう伝えて僕は車を発進させる。運び屋として、ある品物を目的地に届けなくてはならない。途中、乗客の指示で、コンビニに止まる。24時間営業のファミレスに止める指示もあるが、仕事が終わってからだと伝える。
車を運転中、僕は横目で乗客の様子を窺う。乗客はいつも、手元で銀色に光る物を弄んでいる。よくよく見ると、それはステンレス製のものさしだ。恐らく15cmのサイズだろう。学生ならば珍しい持ち物ではない。振り回して遊ぶものではないが、器用そうだから大丈夫だろう。
運転を続けていると、やがて乗客が口を開く。
――もう、それ、届けるの、やめちゃおうよ。
良い提案だと思う。でも賛成はせず、結局、品物を目的地に届ける。
車に乗り込みながら、これで今日の仕事は全て終わりだ、そう伝えると、暗闇で表情は窺えないが、乗客は笑ったような気がした。そして僕は、もう一つ伝える。もう二度と品物や人間を届ける仕事をする必要はないのだ、と。
遅れて意味を理解して、乗客は手を叩いて喜ぶ。
どこに向かうでもなく、僕は車を発進させる。
深夜でも、ヘッドライトに照らされた道は、眩しい。
夜、この夢を見る度、僕は深夜に目を覚ましていた。
今ではもう、この夢は見ない。
最後の一日 @nekobatake
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