第6話 魂の計量

 仙田が帰った後、俺は台所でカップを洗いゴミを捨てようとダストボックスの蓋を開けて首を傾げた。

 

「中身、入ってんじゃん……」


 それはももの名前の書かれた薬袋だった。まだ中身も入っている。

 ふと、天井を見上げて見えもしない二階の百の部屋へと視線を投げた。


「まさか……自分で捨てるわけ……ねぇよなぁ……」


 でも、本人じゃ無けりゃ誰が捨てるって言うんだ。

 百に処方された薬を捨てると言う事は、少なくとも具合を悪化させる、もしくは停滞させる、いずれにせよ快方に向かわせたくないと言う事だ。

 この家に、そんな事を考える人間がいるはずないし、いてはいけない。


 容疑者その一、永遠子とわこ

 あり得ない。自宅で百の面倒の八割を担っている上、百が泣こうものなら相手が誰であれ鬼の形相で飛んでくる養母だ。

 容疑者その二、黒羽くろう

 断じてない。妹の為なら自分の身を粉にするタイプだ。過去、百に嫌い! と言われてガチで泣いたくらいシスコンだ。

 容疑者その三、藍羽あおば

 黒羽より重症。海外出張に百の写真を持ち歩く程度に、妹中心に世界が回っている。百に会えなくて淋し過ぎて出張先で鬱っぽくなって帰って来る事も稀にある。

 容疑者その四、俺。

 藍羽より酷い、末期。俺の存在は百の為にあると言っても過言じゃ無い。百が回復するのを世界一願っているのは、この俺だ。


 何かの手違いで捨てられたのかも知れない。

 悪意で捨てるつもりがあったなら、こんな目に着く様な所に捨て置く奴もいない。

 そう思った俺は、汚れた薬袋から中に入っている薬だけを取り出してポケットに入れた。


 今日はもう、俺はあの部屋に入れない。


 目が覚めたらまた「こうちゃん」と呼んでくれるかもしれないけれど、「あなた、だれ?」と忘れられているかも知れない。

 そうやって毎度、百に会えるかどうかは賭けの様な物だ。


紅葉こうよう? 来てたの?」


 背後からの声に驚いて振り返ると、キッチンの入口に仕事から帰った黒羽が立っていた。


「あ、あぁ……おかえり、黒羽」

「紅葉が来てるって事は、永遠子さんは? どっか出掛けるって?」

「あ、うん。メガネの監察医と一緒に昼頃出て行った」

「じゃあ、百の事見ててくれたんだ?」

「お、う……ちょっと、パニック起こしちまったけど、丁度仙田先生が来たから鎮静剤で今眠ってる」

「そっか……。その右腕、百がやったの?」


 洗いものをするのにシャツの袖を捲っていた為に、百に噛まれた痕が見えてしまっていた。


「あ、や、違う。これは……大丈夫だ」

「そんなわけないでしょ? それ相当噛まれたんじゃないの?」


 黒羽はそう言ってリビングに来いと顎をしゃくった。


「あ、はい……」


 キッチンの隣にあるリビングには大きなアンティークレザーのソファが置いてあり、鳶色に良い具合に年を取ったそのレザーは、高そうな幾何柄のラグの海松色に良く映えて、黒檀の艶のあるテーブルの上には、藍羽が買い付けて来た琥珀で出来た灰皿が置かれている。

 永遠子が一体今、何の仕事をして稼いでいるのかは知らないが、ここの家にあるものはイチイチ高そうなものばかりだ。


 ソファの傍まで来ると、腕を組んだまま座れとガン付けられ、俺は大人しくそこに腰掛けた。


 普段懇切丁寧で物腰の柔らかい黒羽だが、たまに無言の圧力と言う技を発揮して来る。

 黒羽はテーラーと言う仕事柄、イギリス紳士の様な高貴な色気があるが、女っぽいとは思った事無い。

 片割れの藍羽がいつも黒羽が仕立てたオーダースーツを着て、モデルの様な雰囲気を持っている為に、同じ顔、同じ体型でこのナチュラルな威圧感を発揮した黒羽は怖い。


「血、出てたんじゃないの?」

「いって、いってぇよ! もうちょい、優しく……」

「隠そうとしたバツだね」


 消毒液のスプレーをワザと乱暴に患部に吹きかけた黒羽は、軽く痣になって腫れている俺の腕に大き目の絆創膏を貼って、その上からペシッと一発平手で叩いた。


「いって……何すんだっ」

「妹が、ごめん……いつも……」

「別に、気にすんなよ」

「もう本当は、犯人捜しなんて止めたって良いんだ」

「は? お前、何言ってんの?」

「父さんを殺した犯人を捕まえたいって言う想いはあるけど、もう十三年も経ってる。望みは薄い。百だって、いつまであんな状態か分からないし、この上、紅葉まで辛い想いさせるなんて、俺達の家族の事に巻き込むわけには……」

「関係ないね、そんな事。俺は自分の意志でやってんだ。お前が止めるって言っても、藍羽が止めるって言っても、俺は絶対サラトガを引き摺りだしてやる!!」

「紅……」


 コンコン、と柱を叩く音が黒羽の科白を遮った。

 仕事帰りの藍羽と、その隣にはノーパソを抱えた店番の聖夜のえるが立っている。


「大きな声出して、どうした?」


 藍羽は珍しいものを見た、と言う顔でこちらを見ていた。

 俺と藍羽が口喧嘩するのは日常茶飯事だが、黒羽相手に俺が突っかかる事は殆ど無い。と言うより俺が突っかからなければならない様な事を、黒羽は言わない。

 それでも、さっきの黒羽の発言は容認し難い科白だった。


「何でもねぇよ……」

「ふぅん?」

「何だよ? 藍羽、うぜぇな。こっち見んな」

「何、カリカリしてんだよ、紅葉。生理前か?」

「喧しい。別にカリカリなんかしてねぇよ」

「まぁ、良いけど。北村綾香について分かった事があるんだ。飯を食いながらでも良いから、ちょっと話せるか?」

「あ、あぁ……」


 藍羽の後ろに立っていた聖夜は「ひっろ……」とリビングを見渡している。


「聖夜、お前も飯食うだろ? 黒羽、今日の晩飯何?」

「藍羽、人数増える時は連絡しろっていっつも言ってるだろ?」

「あぁ、ごめん。急だったからさ……どうにかなるだろ?」

「ったく、どうにかしてやるから、お前も手伝う事!」

「はいはい……すいませんねぇ……」


 黒羽に頭が上がらないのは藍羽も一緒で、後頭部を掻きながら黒羽の後をついて行く藍羽は、俺にとっては見慣れた光景だった。


「ぷ、藍さんが叱られてる。しっかし、初めて本物見たけど双子のお兄さん、超似てるね」

「そういや、お前は何しに来たんだ? 聖夜だっけ?」

「何しにって、酷い言い方だね。寝不足で昼から店畳んで寝てた所を叩き起こされて、また仕事させられてたって言うのに……」

「仕事? 店開けろって?」

「ちっがうよ、あんた、ホント何にも知らないんだね」

「あぁ? 何の事だ?」

「俺の仕事は、コレ」


 聖夜はそう言って持って来たノーパソを指している。


「そういや、今日メガネに黒いファイル渡してたな……あれは何だったんだ?」

「リリスの泉の会員名簿。最初はオフィシャルサイトのコメント欄から個人をハッキングしてたんだけど、面倒になって来たから本体をハッキングしてやったのさ」

「ハッキング……?」

「モミジくん、今の世の中は情報戦な訳ですよ」

「喧しい、クソガキ。モミジ言うな」

「でも、お蔭でいろいろ分かったよ? モミジくんが態々下手なナンパを続ける必要も無くなった」

「てめぇ、調子にのんなよ……」

「だって、嫌だったんでしょ? 女引っ掛けるの。藍さんがそんな事言ってたよ?」

「藍羽が? 何を?」

「あいつは豆腐メンタルだからああ言うのは向かないって。それでオレ、雇われた様なもんだからね」

「豆腐メンタル……って、喧しいわ!」

「まぁまぁ、そう怒らないで? 態々、体当たりで女の服脱がして探し回らなくても、確実な情報さえあれば効率は格段に上がる。双子のお兄さんは清廉潔白なお堅い主義、ナンパなんて朝飯前の藍さんは仕事でナンパする時間が無い。白羽の矢が立ったモミジくんはナンパは出来るけど、メンタルが弱い。いつまでも続けられる方法じゃ無かったって事だね」


 未成年の癖に、分かった様な事を言う。

 口の減らない若造だが、言っている事は的を射ていた。

 聖夜がどういういきさつで藍羽と知り合ったか知らないが、動かずして情報が手に入るならそれに越したことはない。


「ご飯出来たよ、紅葉」

「あ、あぁ、ありがと……運ぶの、手伝うよ」

「聖夜くん、だったよね? 嫌いな物とかあったら残して良いからね」

「あ、はいっ! すみません、突然お伺いして……」


 聖夜は礼儀正しく頭を下げて、照れ臭そうに笑った。

 ピアスじゃらじゃらつけてる癖にちゃんと人に挨拶出来るんだな、なんて感心してしまった。つか、俺にも同じ対応しろ。


「いーのいーの、弟がいつも無理言ってるみたいだし、今日はそのお礼も兼ねていっぱい食べて帰って」

「はいっ!」


 何だか、聖夜のその変わり様は、黒羽には緊張している様にさえ見えてくる。


「お前、黒羽にだけ態度違い過ぎねぇ?」


 黒羽に聞こえない様に聖夜の耳元でそう聞いてみると、バツが悪そうに聖夜はもっと小さな声で「兄ちゃんを怒らせるなって、藍さんが……」と呟いた。


 まぁ、確かに賢明な判断だ。

 黒羽を怒らせると誰も手を付けられなくなる。唯一対等なのは永遠子だが、あいつは自分に関係が無いと助けてはくれないのだ。


「おい、そこの二人! こっち来て手伝え!」

「あぁ、すまん」


 藍羽に呼ばれてキッチンからリビングへと夕食を運ぶ。

 今日は人数が増えた事もあって、お手軽なカレーが主食だった。

 料理は大抵手先の器用な黒羽が担当で、黒羽が家にいない時は他の誰かが仕方なく作ると言う感じだ。

 俺も一人暮らしが長いのである程度は作れるが、黒羽程上手くは無い。

 黒羽は百に食事をさせて来る、と二階へ上がって行き、俺達はリビングで揃ってカレーを食べ始めた。


「それで藍羽、何が分かったって? 北村綾香には黒星の刺青は入って無かったんだぞ?」

「あぁ、だが紅葉、お前も今朝のニュース見ただろ?」

「あぁ、まぁ」

「北村綾香に黒星の刺青は無かった。だが、お約束の様に、自殺した」

「つまり、藍羽、何が言いたい?」

「つまり、モミジくん、黒星の刺青が無い会員が存在するって事さ」


 聖夜は淡々と、カレーを食いながら喋り出した。


「あの組織には、会員にランクがある。そのランクを決めるのが【魂の計量】と呼ばれる試練だ」

「魂の計量? 何だそりゃ……」

「あの組織は、おかしいよ……」

「まぁ、会員があれだけ死んでりゃ、真面じゃないのは確かだろうな」

「違う、そうじゃないよ、モミジくん」

「あぁ? 何がだよ? つか、モミジ言うな、店番」

「紅葉、組織ってのは営利だとか、貢献とか、何か大きな成果を目的として成立している。だが、あのリリスの泉と言う組織は、何と言うか……違うんだ」

「藍羽、分かる様に端的に説明してくれ。俺は回りくどいのは好かん」

「あのリリスの泉と言う組織は、一人の女の欲求を満たす為の玩具箱の様な物だ」


 そう言った藍羽は、持っていたスプーンを置いて聖夜のハッキングで分かった情報を喋り出した。

 俺達が教祖と呼んでいる女が、会員達の間で「御姉様」と呼ばれている事。

 北村の様に黒星の刺青が無い会員は、その【魂の計量】と呼ばれる試練を超えてない、新人や最下層にいる会員である事。

 そして、驚くべきは【魂の計量】とは、性犯罪の被害者である彼女達に試練を与える儀式の様な物である事。

 ある者は浮気の誘惑、ある者はセカンドレイプ、ある者はネット上でのリベンジポルノ。それらを耐え抜き、彼女達に与えられるのが黒星の刺青なのだと言う。


「北村は昔、ハメ撮り動画をネット上にばら撒かれた事がある。それをネタに恐喝されていた様だが、それがこの前ホテルに怒鳴り込んで来た男だ」

「あれ、恋人じゃなかったのか……」

「まぁ、そう見せかけられた関係だったって事だ。端的に言えばお前は美人局つつもたせのカモだったわけだ」

「あ? 美人局って……古風だな、おい」

「美人局って何? モミジくん」

「ジェネレーションギャップ来た……。ぐーぐるせんせーにでも聞け」


 ケチ、とパソコンで検索し始めた聖夜をスルーして藍羽が話を戻す。


「あのホテルの事も調べたが、あのホテルは大門組がバックに控えている。男は大門組の下っ端で、あそこで動画撮られて被害に遭ってる女も多い」

「それで、ホテルの部屋の鍵が開いていたってか。……やべぇ、人生に汚点残すところだった」


 藍羽が言うに北村は、リリスの泉の会員であり、試練として俺を落とす事を強要されていた。それを超えれば、黒星の刺青が貰えるはずだった。だが、大門組の男に俺と接触している事を知られてその試練は一転、美人局へと変貌を遂げてしまった。


「って事は、あいつが殴り込んで来なけりゃその試練ってやつは成功し、あの女は死ななくて済んだかもしれないと? でも、自殺なんてしなけりゃまた試練にチャレンジ出来たりはしねぇのか?」

「モミジくん、一度性犯罪の被害に遭った女が、そんな風に強く健全でいられると思う? 次なんて、無いと思うよ」


 パソコンを弄りながらこっちを見てない聖夜が、まるで自分の身に起こった事の様に喋るので、「そうだな」と返すしかなかった。


「そこが重要だ。犯罪の被害者が同じ様な目に遭えば、普通じゃいられない。ちょっと考えれば分かる事だろ? なのに、リリスの泉ではそれを強要している。つまり、失敗すれば高確率で死ぬ事が分かってるのに、やらせてるって事だ」

「何の為にそんな事すんだよ?」

「俺が思うに……御姉様のだ」


 ゾッとする様な科白だった。藍羽も、苦虫を噛み砕いた様な顔をしていた。

 もし、それが本当なら、その御姉様とやらは狂っているとしか言い様がない。


「それで藍羽、その狂った御姉様と親父さんの事件、どう繋がるって言うんだ……?」

「分からない……が、永遠子が言うにはその御姉様とやらが、親父を殺したサラトガである可能性が高い、と言う話だ」

「はぁ? 何で、そうなる? リリスの泉の会員で死んでいるのは全て女なんだぞ?」

「俺に分かるかよ……」


 不意に、聖夜が「出た」と呟いた。


「お、聖夜、分かったか?」


 藍羽はそう言って聖夜のパソコンを覗き見る。


「うん、ここから一番近いのは大学の近くにある個人経営のメンタルクリニックだ。名前はマグノリアクリニック」


 聖夜の口から出て来たのは病院の名前だった。


「美人局調べてたんじゃねぇのかよ?」


 俺は訳が分からずに、藍羽に視線をやった。


「あぁ、今日永遠子から連絡があってリリスの泉が関与している病院を調べろって言われたんだ。だから、聖夜に頼んで調べて貰っていた」

「何で病院なんか……」

「北村は睡眠薬自殺だったんだが、その睡眠薬とやらが今は何処の病院でも扱ってないらしくてな」

「そんな情報、どっから持って来た? テレビでそんな事まで言ってなかっただろ?」

「そりゃお前……今日、紀乃屋監察医が来たんだろ?」


 藍羽は何を今更、と言う顔で俺を見る。

 あぁ、そう言えば永遠子が紀乃屋の手から奪い取っていたな、と思い出した。

 聖夜はふと藍羽の方へと顔を上げて、確認する。


「北村の体内から検出されたのはラボナとイソミタールだって言ってたよね。それからアルコールも多量に検出されている。明らかに、自殺しようと思っていたと想定して良い。ラボナもイソミタールも入手出来ない事は無いけど、普通の病院で処方してもらう事は困難だろうし、ネットで入手する事も法律で禁じられている。これを入手出来るのは、個人経営の医療関係者が一番有力候補だ」


 驚いた。あんな流行らない店でバイトしたがる変わり者だとばかり思っていたのに、ハッキングするわ、薬の事まで饒舌に喋りやがる。


「聖夜……お前、詳しいんだな」

「まぁ、オレ一応薬学部なんで」

「は? お前、薬学部なの!?」

「何、その、バカそうに見えるのにって言うありきたりな反応……」

「いや、別に……そこまでは言ってないだろ……」


 ただ、ちょっと雰囲気と学科が一致しなかっただけで。


「オレだって、女にパズルばっか買ってる冴えない男が、まさかのパズル作家五葉だとは思ってなかったけどね!!」

「な、何だよ……知ってたのかよ、俺の仕事……」

「今日、藍さんに聞いた。オレ、あんたの作品好きで結構持ってる……」

「マジか……そりゃ、どうも……」

「でも、お姫様にパズルばっかり買うのはどうかと思うよ? 藍さんの妹さんってオレの一つ上でしょ? アクセとかもっと色気のあるもん買ってやんなよ」

「あぁ、まぁ、そう……だな……」


 二十歳の女になら、普通はそうなんだろうな。

 藍羽は俺の方を見て、気にすんなと肩を竦めて見せた。

 気にはしてない、聖夜は百に会った事が無いのだ。普通に、そう考えて然りだ。


「ラボナやイソミタールはバルビツール酸系と言って脳の活動を強制的に止める薬なんだ。作用量と致死量が近いとか、副作用が強いとか、色々問題が多くて今じゃ使ってる病院は少ない。モグリとかならあり得るかもだけど……」

「なるほどな……じゃあ、そのマグノリアクリニックと言う所を調べたら、薬の出所が分かるかも知れない、と?」

「そう言う事だね、モミジくん」

「なら、それは俺が調べておこう。仕事関係でちょっとした伝手もあるし……」

「オレもやる! 藍さん、オレも!」

「だーめだ、危ねぇからお前は別の仕事して貰う」

「ちぇー、ケチ!」


 あらかた話し終えた頃、二階から黒羽が戻って来た。

 百の機嫌が良いので、顔を見に行かないかと言われて俺は躊躇したが、聖夜は会ってみたいと乗り気で藍羽が二階へと連れて行った。

 黒羽は自分の分のカレーをよそって俺の隣に腰を下す。


「大丈夫かよ? 百に会わせて」

「藍羽がいるから、大丈夫でしょ」

「それもそうだな」

「こうちゃん、やくそくおぼえてたって……百、嬉しそうだったよ」

「あー……ははっ、そっか」

「お前が幼女趣味で良かったよ」

「ナチュラルにディスるな」

「じゃあ、ロリコン」

「大差ねぇだろ、それ」

「シッテルヨ」

「カタコトカヨ」


 黒羽はカレーを食いながら「兄貴は結婚出来ないからな」とやんわり笑う。

 もうすぐ百の誕生日。

 今度、婚約指輪でも買ってみっかな……。

 なんて、ふわついた事を一瞬考えてしまう自分がいた。

 それは満腹の鼻腔に漂い続けるカレーの匂いの様に、少し胸焼けしそうな妄想だ。

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