第2話 折れた白薔薇
時化た飲み屋で知り合って半年、口説き落とした女をホテルに連れ込む。
好みでも何でもないが、そうするのが一番手っ取り早かったと言うだけの話。
キツイ香水の匂いに鼻が捥げそうだ。
とにかくシャワーを浴びてくれまいかと、紳士よろしく先に譲ってやった。
女の名前は北村綾香。推定二十代後半で俺より少し年上だろう。
まぁ、見れない事は無い程度の女だ。
俺はふわっとした丸顔が好みだが、北村綾香はどちらかと言うと面長でカワイイ系と言うよりはキレイ系と言う雰囲気がある。
個人的な因縁の為にとある組織を追っている俺は、その組織に関わりがあると睨んだ北村綾香を仄めかし、宥めて賺して今に至っていた。
ベッドサイドに腰掛けて、これからあの女を抱くのだと思うとゲッソリする程度には嫌気が差していた。
何でかって、そりゃ俺が淡泊だとかそう言う話じゃ無い。
こう言う仕事の一環として何の感慨もないセックスに嫌気が差しているだけだ。
いや、だからこそ端的に卒なく熟してさっさと帰ろう。うん、そうしよう。
そこに愛が無かろうと、情が無かろうと、俺には関係ない。
「あの……」
「あぁ、上がった? こっち来てよ」
躊躇いがちに淑女ぶって近づいてくる様がもう、苛立たせる。
これから何をするのか子供じゃないから分かっている癖に、あくまで自分は淑女だと演じていたいのだろう。
処女みたいな反応は、気持ちが伴ってこそ萌えるものだ。
「君とこうなれることをずっと望んでた」
そう、ある意味この日を待ち侘びたさ。
大人になるって、こういう事だと子供の頃は知らなかったんだよ。
腹の底から欲しい女が出来て、そいつの恥ずかしそうで泣きそうな顔に嗜虐心を煽られて雄のアドレナリンは増幅され、征服欲とか独占欲が満たされる。
そうやって、あぁ俺って今幸せ過ぎる! と感涙するモノだとばかり思っていた。
なのに、現実は違った。
それを得る為に愛の無いセックスと言うものを何度も繰り返して、いつか一番嫌われたくないヤツに最低と罵られるかも知れない事に怯えながら続けるしかない。
抱き寄せて香水の匂いが消えている事、安っぽい水石鹸の様な匂いがする事に少し安心した。まぁ、やっすいホテルだからアメニティもやっすいに決まっているのだ。
これで、鼻が致命傷を負う事はない。
「綾香……」
俺の目の前に立った北村の腰を抱いて引き寄せた。
教訓その一、女をその気にさせたきゃ名前を呼べ。
幼馴染兼腐れ縁からの助言だ。
名前を呼ばれた北村は、バスタオルを巻いた細い肢体を俺に預ける様にしな垂れる。高揚しているのか、風呂上がりだからか、北村の身体は火照って熱い。
もうすぐ夏日になろうかと言う五月の終り、夜の気温も上がって来ている。
汗だくセックスなんて、好みじゃ無い。
あれは畳に煎餅布団とか、そう言う雰囲気あってのものだろ?
せめて気持ち良く無けりゃ割に合わん。
「ごめん、俺もちょっとシャワー浴びて来るわ。自分が汗臭い気がして来た」
「あ、うん……」
「待ってて、すぐだから」
「うん」
脱衣所でスマホを取り出しラインを一件送った。
>ハズレだ。
待ち構えていた様に既読が付いて、了解と短く返事が返ってきた。
ザッとシャワーを浴びて、肝心な事は分かった事だし腹でも壊して適当に喋って帰ろうか等と考えていると、ガチャンと言う音が響いて俺はシャワーの蛇口を捻って止めた。
下肢にバスタオルだけを捲いて部屋へと出てみると、一人の男が北村綾香を殴ろうとしている。
ここ、ラブホだよな? どうやって入って来た? っつか、殴ったらだめっしょ。
俺は確かに女の敵と言われても反論の余地もない様などうしようもない男だけど、女子供に暴力振るう様な野蛮さは装備してねぇんだわ。
「ちょっと、あんた! 何やって!?」
男が振り
「お前が綾香を
剛腕と言うに相応しいその男は、体格も良い上に悪人面で雰囲気満載だ。
まぁ、服を着てない俺に弁解の余地なんてものはあるわけもなく、ついでに胸倉なんてものも無いから、首を掴まれるわけだが。不幸中の不幸と言うヤツだ。
「ちょ、何……苦しいんだけどっ……」
「人の女に手出してんじゃねぇぞ!!」
「これは合意だ」なんて言った所で場が「なーんだ、そっかー」と和むわけもなかろうな。ないない。あったら、この男も相当なバカだ。
アダムの林檎が潰れそうな勢いで首を締められ、俺は長い足で男の股間を蹴り付けた。有難い事に、身長には恵まれている。
解放された咽喉にまずは酸素、それから両目を見開いて突然の地獄に言葉を失っている男の首を右腕で締めて――落とす。
場の状況に着いて行けなくなった北村綾香はへたり込んで泣いていた。
「あぁ、おっかねぇな。こんな巨体で羽交い絞めにでもされたら死んじまうわ……。あんたも、早く帰った方が良いよ」
「……え?」
「彼氏、起きたら何するか分からないでしょうが」
北村が目を丸くした理由は分かっている。
一緒に逃げてはくれないのか、この先守ってはくれないのか、そう言う目だ。
「俺はあんたの恋人になりたいと言った覚えはないよ」
まるで北村のせいの様な言い草を残してさっさと服を着て部屋を出る。
我ながら血も涙もないと思う。だが、俺にとって大事な女は一人だけだ。
美学なんて言葉で飾るつもりはない。だけど、今の俺が汚れている事の根底にあるのは、全てが一人の女を救う為である事だけは曲げられない。
ラブホの正面玄関を警戒しつつも外へ出て、温く纏わり付く湿度に眉を歪めた。
側溝の隙間から漂う生臭い泥の匂いもオマケで付いて来る。
北村綾香に男がいる事など調べは付いていたが、俺の存在が彼女の口から男に知れると言う事はあり得ない事だ。
北村は過去、性犯罪の被害を受けている。
彼氏がいるのに知らない男とホテルにいる。そう言う自分を誰かに知られたくはないはずだし、何故そうしようとしているかを本人は良く分かっているはずだ。
男と寝れるかどうか、確認したい。彼氏とのベッドインに失敗したくない。
俺は北村にそう言う相談を受け、その欲求を利用した。
なら、俺で練習してみる? そう言って今日ここに辿り着いたわけだ。
相談に乗れる優しい男を演じて、彼女のプライベートを探りながらこの日を待ち侘びた。半年掛かったのに、彼女はハズレだった。
責任なんてとるつもりは一切ないし、ぶっちゃけ俺が確認したかったのは、この女が例の組織に関与しているかどうか、それだけだ。
例の組織に関与しているヤツは、身体の、しかも左の乳房の上に小さな黒星の刺青があると言う。俺は北村綾香のその星の刺青を確認する為に、服を脱がす必要があった。だからこうして、時間を掛けて口説き落としてホテルに連れ込んだのだが……。
何故か分からないが、金を払わないと開かないハズの扉は、傷一つ付いておらず開錠されていた。
俺達が嗅ぎまわっている事にようやく気付いたと言う事だろう。
男はきっと、組織の誰かからここに北村がいる事を知らされて突っ込んで来た。
ホテルの関係者にその組織の手が回っていると考えて間違いない。
これで、下手は打てなくなった。だが、やっと敵さんのお出ましな訳だ。
ホテルを出ると、見慣れた四輪駆動車がハザードランプを点滅させて停まっている。
「お迎えなんて珍しいじゃない?
「念の為、北村の男を張らせていたからな。無事だったか?」
運転席に座るのはまぁ、腐れ縁と言った方が良いだろうか。
巷では幼馴染と言うらしいが、俺とこの
ちなみに、つまらん教訓を俺に教えてくれるのが弟の方だ。
「
ついでに言うと、この双子は小学校からの連れ合いで、下に五つ離れた妹もいる。
「あ、そう……。どうせなら
「それは知らん。だが、向こうも動き出したみたいだからな」
「まぁ、俺がここにいた事がばれたって事は、つけられてたって事だろうからな」
「いや、それもあるが……」
言葉を濁した藍羽は、
「ちょ、安全運転しろよ! 俺はお前と心中なんて絶対ゴメンだぞっ!!」
「バカ言うな、紅葉! 俺だってお前となんて、死んでも死に切れんわっ!!」
ガキの頃から知ってる奴って言うのは、大人になってからも付き合い方というのはそう変わらないもんだ。
「そういや、一週間前に自殺した女の事、何か分かったのか?」
「あぁ、あれか。やっぱり組織の会員だった。メガネ監察医から連絡があったと、永遠子が言っていた」
「自殺の理由は、やっぱり男絡みなのか?」
「不倫をネットで暴露されたらしい」
「えげつねぇなぁ……」
市街地から遠く離れたの森の奥、このご時世にこんなファンタジックな世界が現存するのかと目を疑いたくなる様な屋敷がある。白い壁が苔と蔦に覆われて、気を抜いたらここはかの有名な天空の城じゃないのかと夢でも見そうな違和感がある。
そこに超現代的な黒い四輪駆動車がある事で、この屋敷が現実に人が住んでいると言う生活感を持つのだ。
外門の黒い鉄柵の合間から白薔薇が見え、中世のお貴族様でも出迎えてくれそうな雰囲気だが、玄関から外門を見ているのはパーカーに短パンで惜しげもなく生足を曝している年齢不詳の女だ。
小柄で見た目も童顔、見ているだけならさほど問題は無い。
だが、相変わらず好物のスルメが口から食み出している。
「ふん、何だ
ふてぶてしくも腕を組んでそう訝しげに俺の顔を見た女は
「青瓢箪って……誰かさんのお蔭様で、そう簡単にやられはしないもんでねぇ?」
「ほぉ? 少しは上達したと言う事か?」
「今ならあんたに……おわっ!?」
言い終わる前に体がふぅわりと浮いた。
右手首を掴まれ引き寄せられた後、押し戻されてバランスを崩した所に足払いを掛けられ俺の体は簡単に浮いて叩き付けられる。
視界が反転して、気付いた時には玄関先の芝生の上に背中から落ちていた。
「ったぁあ……」
「今なら、何だって?」
「いきなり何すんだ、このクソ女!!」
「期待したのに大した事無いな、つまらん。もういっちょ、やるか?」
「もう、良いです。すみません……」
宜しい、と手首を捻り上げていた右手を離した永遠子は、さっさと家の中に入って行く。
箱田兄妹が彼女に引き取られたのは十三年前、十二歳の時だった。
彼らが住んでいた街を引き払う事になったのは、刑事だった親父さんが何者かによって殺害された事件が原因だ。
その殺人現場は自宅であり、その遺体は見るも無残な遺体となって発見された。
猟奇的殺人として当時の新聞には大きく報道されたが、一番問題だったのは発見された親父さんの遺体が全裸で、何の抵抗の後もないまま寝室のベッドに横たわっていたと言う報道だった。
それを、証言出来たのは他でも無い箱田兄妹なのだ。
箱田兄妹の母親は妹の百を産んですぐに他界している。なので、第一発見者は事件当時自宅にいた七歳の妹で、妹の泣き叫ぶ声を聴いて双子の兄が駆け付けた。
自宅で争った形跡もなく全裸で殺されていた箱田の親父さんには、痴情の縺れにより交際していた相手に殺されたのだろうと、警察は決めて掛かったと言う。
小さな街では現役の刑事が女性との情事の後、猟奇的に殺された――――と言う報道は直ぐに広まり、その子供には最大の憐みが向けられたのだ。
箱田兄妹の居場所はあの街に無かった。
誰もが可哀相な子と言う目で彼らを見て、隠しきれない興味と、他人を蔑む事で味わえる優越感が彼らを容赦なく刺した。
初七日を迎えて、八日目。
箱田兄妹は俺に何も言わずに三人揃って姿を消した。
中学に上がってすぐ、ひょんな事から耳に入った彼らの所在を確かめに隣町の学校へ行った。
父親の友達だったと言う兼城永遠子と言う女性の養子となって、今はそこに暮らしていると連れて来られたのが、このファンタジックな兼城家だった。
「紅葉、お帰り。お腹空いてないかい?」
双子の兄である黒羽は家の近所に小さな店を持って、仕立て屋、所謂テーラーとして働いている。
「黒羽、それより湿布くれ……絶対、背中腫れる……」
「また永遠子さんに投げられたの?」
クスクスと笑う黒羽は引き出しから常備してある湿布薬を取り出して俺に放り投げた。
「あの女、マジで容赦ねぇ……」
「お前が余計な事言うからだろ」
そう言いながらも、藍羽はシャツを捲った俺の背中に湿布を張ってくれる。
「藍羽、お前にだけはそんな事言われたくねぇわ」
「俺はTPOってもんを弁えてる。お前と一緒にすんな。機嫌の悪い永遠子に絡むお前の自業自得だろ」
「機嫌が悪い? って、そんなん知るか! あの女の機嫌が良い事なんて、滅多にないだろうが!」
「はいはい、二人共静かにしてね。また永遠子さんに怒られたら面倒でしょ?」
終始穏やかな黒羽はいつもこうやって俺と藍羽の仲裁に入るのが板についていた。
「あ、黒羽、百は?」
「今日はちょっと階段から落っこちちゃって……」
「え!? 階段から落ちたって大丈夫なのかよ?」
「あ、うん。数段踏み外した程度で、怪我とかはしてないんだけど……その後、カウンセラーの先生が来て疲れたみたいだったし、もう寝たよ……」
少し申し訳なさそうに黒羽は床へと視線を逃がした。
今日は会わないでくれ、黒羽がそう言っているのだと分かる。
俺だってこいつらのとの付き合いは長い。空気を読むくらいの事は出来る。
「そっか、いや、怪我してないなら良いんだ。じゃあ、起こすと機嫌が悪そうだな」
「百の機嫌がどうかは知らんが、永遠子の機嫌が悪いのはコレのせいだ」
藍羽がそう言って持ち出して来たのは異様な雰囲気を醸し出した茶封筒だ。
宛名は兼城永遠子様、消印は一番近い郵便局のものだった。
「何だよ、ソレ?」
「今日届いたらしい」
宛名は古典的にも新聞や広告を切りぬいた文字を貼って綴られている。
俺は手渡された茶封筒の裏を返して、差出人の記載が無い事を確認した。
「な、中身は何だったんだ?」
「小説だ」
小説……? と言葉にならずに藍羽へと視線を向けた俺は、藍羽が俺の手から奪い取った茶封筒の中から小説を取り出すのを黙って見ていた。
その古い文庫本には、ベッタリと血痕が付いている。
一見した程度ではタイトルが何なのか分からない程に、表紙、背表紙まで海老茶色に酸化した血痕は、物々しさを遠慮なく発揮していた。
「な、何だよ……コレ? 何で、こんなものが永遠子宛てに送られてくるんだ?」
「まぁ、落ち着いてよ、紅葉。ここ見て」
藍羽から小説を受け取った黒羽は表紙を開いて、カバーの裏を開いて見せた。
そこにはたどたどしい平仮名で「はこたつくも」と書いてある。
覚えたての小学生が書いた様なその文字の意味が分からずに、無言で黒羽の顔を見返した。
「これは父さんが持っていたモノだ。その証拠に、百が書いた父さんの名前がある」
「って事は、これはあの時現場から犯人が持ち去った物だって言いたいのか?」
誰も、そうだ、とは言わなかった。
でも、そうだ、と言う事が二人の顔を見るだけで一目瞭然だった。
「あの頃、百はまだ七歳で、ようやく平仮名を覚えた頃だった。学校へ持って行くものに俺達が名前を書いてやると、自分もお父さんに書いてあげるんだって、父さんの部屋のものに父さんの名前を書いてたんだ」
双子は苦々しい顔でその小説を見ていた。
「つまり、ヤツは、サラトガは私に死ねと言っているんだよ」
その言葉に扉の方を振り返ると、永遠子が気だるげに柱に寄り掛かっている。
サラトガとは、箱田の親父さんを殺した犯人に付けられた異名だ。
シリアルキラー・サラトガ。
当時、煽る様にその名前が繰り返し報道された。
アメリカのレキシントン級空母の名前がその殺人犯に宛てられたのかは謎だが、犯人がアメリカ人であるとか、暫定的に女であるとされた事からシスター・サラと呼ばれていた空母の名前が宛てられたと言う都市伝説にまでなっている。
ただ、シリアルキラー・サラトガの犯行は箱田九十九ただ一人。
それ以降ヤツは殺人を犯して無い為、動機は個人的な怨恨であったとされた。
当時まだ三十四歳と言う若さの現役刑事が、何の抵抗もなく横たわっていたのだ。
顔見知りで、警戒されない相手でなければそんな殺し方は不可能だ。
肉体の一部を切除してあったその手際の良さから、医療関係の人間に焦点が絞られた時期もあったが、結局有力な容疑者は出て来なかった。
「え、何でヤツが永遠子に死ねとか言うんだよ?」
「紅葉、お前はこの小説読んだ事あるか? 若きウェルテルの悩みと言う小説だ」
「ない……」
「だろうな」
「分かってんなら聞くんじゃねぇよ」
永遠子は陰鬱なヲタクの癖に、と俺を詰った後ウェルテルと言う主人公が婚約者のいる女を好きになって自殺するのだ、と全く
「まぁ良い。兎に角だ、警察いわくサラトガは九十九さんと恋人関係にあった。その恋人の子供達を引き取った私に、ウェルテルの様に叶わぬ恋なのだから死ねと言っているんだろうよ」
そう言って、永遠子は俺に右手に持っていた折れた白薔薇を投げてよこした。
「何だよ、コレ……」
「その小説と一緒に封筒の中に入っていた」
「折ったのかよ? ガサツだな」
「紅葉、お前は相変わらず単純でバカだな」
「あぁ?」
「花の事など知るわけないな、お前が」
永遠子は額に片手を当てて項垂れると、部屋の中へと入って来てソファに腰を下した。
「良いか、紅葉。折れた白薔薇と言うのは、捨てられた恋人を意味している。
つまりだ、ヤツは私に九十九さんに捨てられた恋人だと言いたいのだ。十三年経って、己の手に掛けてまで殺した男の恋人は、自分だけで十分だと言いたいのだろう」
「……何で、今になってそんな事言ってきやがるんだ?」
「そんなことどうでも良い。今、重要なのは狙われているのが私で、私がここにいれば危険が伴うと言う事だ」
「いや、待って、永遠子さん」
黒羽の言葉に永遠子は「何だ?」と白々しく応える。
「また、俺達の為に自分を犠牲にしようとしてない? 俺達もう二十五だよ。永遠子さんの庇護下で甘んじるだけの子供じゃないよ」
「そんな事は私が一番良く分かっているよ、黒羽」
「じゃあ、これまで通りここにいろよ」
「藍羽、親心と言う物がお前達には分かるまい」
「何処に行くつもりだよ? どっか行く宛てがあんのか?」
そう聞いた俺に、永遠子は薄らと笑って「重要なのは行先じゃ無い」と答えた。
その意味が、俺には全く理解出来ずに答えあぐね、双子は釈然としない眼差しを永遠子に向ける。
「シナリオを塗り替えてやれば良い」
そう言いながら俺の手から折れた白薔薇を抜き取った永遠子は、機嫌も直ったと言わんばかりにその白薔薇に鼻を近づけすん、と鳴らした。
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