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『リュートっ! ほら、できたじゃん!』

「え……! う、そ……」


 目を閉じてしまったから、プリシスの声がするまで今の状況をまったく把握できなかった。覚悟していたよりも、衝撃がなくて驚く。

 それもそのはず。身体ががっちりとした感覚がするというか、スーツの様子がなんだかおかしい。

 だけど、視界がほぼほぼコンクリートの塊で、何もわからない。

 とりあえずコンクリートの塊を置こう。僕は慎重に、足を挟めないようにと、かっこ悪いけどへっぴりごしになりつつ降ろし、状況を把握しようと自分の腕や手足を見た。


「わっ!?」


 その瞬間、僕は思わず声を上げた。

 さっきまでは全身タイツのような柔らかな素材であったのに、今はスマートなロボットのようにスーツ自体がいつのまにか全体的に強化されていたからだった。


『わぁああ! リュートやったぁ!』

「凄いよこれ……プリシス、これって一体どうなって……!?」

『リュートの気持ちが、強くなってるんだよ!』

「え……!? そう、なのか!?」


 赤く光る、僕のスーツ。


【Enemy:デゴイル HP1000/1000 接触ポイントまであと8m】


 変わったのは、見た目だけじゃなかった。

 僕の視界……ヘルメットも、相手のデータと距離が分かるくらいに進化してるなんて――!


「頑張って!! 流都――!!」


 つい、スーツに夢中になっていた僕の頭上から降ってきた声にハッとする。

 どうして彼女は僕の名を知ってるんだ。応援されたことは素直に嬉しいけれど。

 ってそんなこと言ってる場合じゃない。あとどれぐらいのリミットが彼女に残されているのか。


「は、はい! あの! あなたにはあとどれくらい時間が――!?」


“メジョォオオ!!!!”


 気がついたときには、当たり前だけど遅くて。

 そのときのメジョの声は明らかに殺気立ってていた。僕の言葉が言い終わらないうちに、視界は暗転していた。


 そして、次に目を覚ました僕の視界には、見慣れた部屋があった。


『んもーバカッ! いいとこだったのに! ほんっとリュートは気が散りやすいんだから!』

「いや、あの……はい……ごめんなさい」


 確かにいろいろミスっているところはあったけど、そこまで言わなくてもいいじゃないかとヘコんでくる。


『あのね、さっきはリュートのやる気が無くなるかもって思ったから言わなかったけど。混乱もするだろうしさ』

「え? な、それって、何……?」


 つばを思いきり音をたてて飲み込んでしまった。プリシスから聴く「実は」は恐ろしいものばかりだから。


『実はリュートの命、リプレイするたびに全体の制限時間減ってるの。5分ずつ、ね』


 見て、とプリシスが電波のアイコンを表示した。


「え……!? じゃあ……。ねぇ、これが消えちゃったら僕、どうなっちゃうの……?」


 そこには、ただでさえ短かった電波が、今は消えたり、点いたり……と、ゆっくりではあるが点滅しだしていた。


『ここに居られる電波でもあるから……間違いなく、消滅……ううん、そうだ、虫になるんだ……』

「は、はぁああああ!!?」


 やっぱりね……。虫になる時間が僕には刻々と迫っているんだ。


 ん……。まてよ?


「じゃあ、僕がリトライするたびに5分減ってるってことは、ヒロインは……?」

『うん。リュートと同じ状況だね』


 彼女も5分の命が僕がリプレイするたびに減って……!?

 しかも、彼女は今も刻々とあの場所で命を削ってる。


 だとしたら……。今すぐ行かなきゃ、本当にヤバイじゃないか!


「待ってくれよ……残りの時間で彼女を救えっていうのか……!?」

『……大丈夫だよリュート。カッコ良くなったリュートなら今度こそ、大丈夫だから』


 プリシスが落ち着いた様子で柔らかく笑っている。

 調子狂うなと思いつつも、カッコ良くなった、という言葉に単純にも顔が熱くなってしまった。


 とりあえず、今はかなりヤバイ状況っていうことだけは、分かった。

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