P 08
プリシスの言葉が終わるのと同時に転送された僕。
時間がない。これで三度目の転送。きっと僕に残された命のタイムリミットは、あと、5分――。
どうやったら最速で彼女を助けられる――!?
これが単なる既製されたゲームなら。5分もあれば雑魚敵倒してすぐあそこまで簡単にいけるっていうのに――!
なんとか進化してくれたこのスーツ。でも、拳銃はせこいまま。
オンボロビルには、未だに一歩たりとも入れない。
“メジョ……”
肩を震えさせて、こちらへ近づいてくるメジョ。
“メージョメージョッ”
歌うようにそう鳴くメジョは、僕にもう“後は無いぜ”と鼻で笑われているような気がした。
「くそっ……!」
『ね、ねぇリュート。上を見て、ビル傾いてない?』
プリシスに言われるがまま、ビルを見て驚いた。
確かに、ビル全体が最上階へ行くほどこちらへ大きく傾いている。
「そうだ、メジョがさっき柱を崩したからか……!」
ビルが傾き、火が集中して上階へと、上階へと移動する。
【Enemy:デゴイル 接触ポイントまであと5m……】
「本当に、どうしたら……!」
なんて情けないんだよ、僕――。
メジョをなんとか倒したい。倒したいが次こそやられてしまったらもう後はないんだ。
『リュート!』
【Enemy:デゴイル 接近ポイントまで、あと3m…… デゴイルの体内から高エネルギーを確認】
は!!?
やばい……!
とにかく、巻き込まれた彼女の命をどうにかしないと、僕のせいで、彼女が死んでしまうなんて、嫌だ――!
きっと、彼女はまだ若いのかもしれない。
恋人だって居るかもしれない。
仕事だって、僕とは違って好きだったとしたら。
皆のために、生きる価値があるかもしれない人だったとしたら――。
なんで、彼女を巻き込んだんだよ!!
どこまで僕は、だめなんだよ――!!!
「だぁあああああッッ――!!!」
どうしたらいい!?
お願いだ!!
『何してるのリュート! あと3分だよ!?』
言われて僕は、ついに赤く点滅しだした視界に見えたデータの中から、リミットと表示されているものを見つけた。
2:58、57、56――。
刻々と、リミットは迫っている。
お願いだよ!!
僕は、どうなってもいいから――!!
「流都!」
ビルにいる彼女に名を呼ばれて、僕は一筋の光を見つけたように一気に惹きつけられ、見上げた。彼女が最上階の窓から身を乗り出して、僕を見て叫んでいた。ビルが僕の方へと傾いてるお陰で、少し大きく彼女の姿が見えた気がした。
「流都! 私、信じてるからね――!」
そう言い放った後、窓から明らかになにかが飛んでいった。
え、人!?
彼女があろうことか、窓から身を投げたのだ。
彼女の着ている服が、スカートが、もうパンツが見えてしまうんじゃないかというぐらい風を受けて勢い良くはためいていた。
「えええええ!?」
助けないと……助けないと!
彼女の命だけは必ず、守らないと!!
『あと2分!! リュート、飛んで!!』
「へ!?」
『いいから飛ぶ!』
「ひぁい!?」
僕はプリシスのビシッとした声に驚くように姿勢を正した途端、足から凄まじいエネルギーの力を感じた。
「と、飛ぶぞ!!」
僕は、プリシスの言葉に弾かれたように彼女めがけて思い切りジャンプした。
『いっけー! リュートォ!』
ズドン――!!!
僕の足の裏からかなりの衝撃がしたかと思うと、そのまま勢い良く空へと飛び上がった。僕の身体が、彼女へと目がけて飛んでいき、彼女の身体は、僕の身体へと堕ちてくる。
受け止めるんだ――!!
彼女を重力による衝撃から守るようにできるだけ速度を落としながら、両手を広げる。
「うぅっ……!」
よし、うまくキャッチできた――。と、肩に埋められていた彼女の顔が上がった時、僕は驚かざるを得なかった。
だって彼女の顔が、実写版、プリシスそのものだったから。
更に言えば美少女ではなく、成長した、大人の美女。
「え!? プリシス!?」
「ばか……プリシスはあたしの一部……」
「え……!?」
「あー……! 怖かった!」
僕の腕の中で楽しそうに笑う大人プリシスを抱えていると、恥ずかしさでいっぱいになって自然と視線を反らしてしまった。
わけがわからないぞ。通信機のプリシスに真実を確かめようとしたけど、確かに通信機から聴こえてくる機械音自体が静かになっていたのに気づいてまた目の前のプリシスへと視線を移した。プリシスは「やったじゃん」と僕に微笑んでいた。
僕はその微笑みに頬がとたんに熱くなった。だめだ、こんな美女をお姫様抱っこしてるだなんて。このまま虫になっても良いくらいだ。
後は、プリシスを無事に地上へとたどり着かせるだけ。
足の裏についていたジェット噴射に意識を向けた。地面に激突しないように堕ちるスピードを調節させる。
時間ギリギリまで、それにつぎ込む!
「ねぇ流都。時間まだ、あるよね?」
1:18
「え? あと、1分くらいなら――」
「ね。あたし流都が考えてることくらい分かるよ」
「へ? 何、言って……」
「流都が助からないと、私だけ助かって生きてたって、意味ないんだからね……」
「えっ……?」
「諦めないで。ほら、下見て?」
下を見ればメジョが翼を広げ待ち構えているのが見えた。しかも落ちてきた僕たちを食べるつもりなのか、大きく巨大化された口をこれでもかという程開けていた。あれは気持ち悪すぎる。
【Enemy:デゴイル 口内へのエネルギー拡大中……】
「え!? ま、まさか……!?」
まさか、口から僕たちに向かって攻撃を繰り出すわけじゃ――!?
そうだとしたら、このままじゃ僕はよくてもプリシスが――!
「何、言ってるの。チャンス、じゃん」
「え?」
「一緒なら、怖くないでしょ?」
プリシスは僕の銃を手にとる。
「流都は、ヒーローなんだよ」
ね、と、僕に拳銃を差し出す。僕が片手でなんとかプリシスを支え、拳銃を受け取る。それからすぐにプリシスは僕にしがみつく。
あたたかい温もりが、僕を包んでいく。
一気に決める――!
僕は大きく息を吸い込んだ。
僕の片腕が自由になり、なんとかプリシスを支え、プリシスから貰った拳銃を構えた。
不意に、プリシスの身体が軽くなったことに驚いて見るとリミットが近づいているのか、身体全身が少しずつ透明になってきていた。少し感覚はあるのに、ほとんど重みを感じない。
「プリシス!?」
「私は、大丈夫。撃って」
一緒に、生きよう。
そうプリシスは震える僕の腕にそっと、プリシスの柔らかく、あたたかい手が添えられる。照れすぎたのと、プリシスを落とすまいと、そっちに意識が向いたお陰で。
0:08
「間に合え――!!!!」
0:05
引き金を引いたそのとき。手のひらに収まる小さいはずだった拳銃が光り輝き、僕の腕と合成して、バズーカ式へと進化していた。
0:03
「わ!? 流都すごい!」
0:02――――。
ドォオオオオオン――!!!
銃口からは巨大な光の柱が、僕たちの目の前に現れ、眩しさに思わず目を細めた。
その光は更に巨大化して、僕たちや街を包み込んでいった。
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