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「りゅーぅと」


 僕の人生で、可愛らしい声で呼ばれて起こされるのは初めてだったかもしれない。

 目を覚ますとそこはいつもどおりの僕の部屋ではなく、高級なご家庭の庭のような場所だった。草花が程よく茂っている中、ピンクや白のバラが咲いていて上品で、癒しの空間そのものだった。

 僕は、おしゃれな椅子に座っていた。


「こ、ここは?」

「ここは、命の休憩所、って感じかな」


 純白のワンピースを着た大人のプリシスが僕の目の前に。しかも前かがみになっていた彼女は両手をスカートを押さえるように太ももあたりに置いて僕を覗き込むように見ていた。

 いろいろ聴きたいことがあっても、プリシスとの至近距離のお陰もあって、不自然に視線を彷徨わせてしまうほど、緊張してしまう。


「まじか……。って、休憩場?」


 目が合うだけでドキドキしてしまうなんて。


「ま、ご褒美の空間って言った方が流都は安心するのかな?」

「ご、ほうび?」


 僕は変な発音になってしまって恥ずかしい気持ちになる。しかも、そんな僕を知ってか知らないでか、こらえるように口元に手をあてて笑っている。


「ふふっ、流都の命の充電中っていうこと」

「え……! そしたら僕、クリアできたんだ……!」

「そうだよ。おめでとう、流都」


 彼女の優しい目の輝きが純粋で本当に、見とれてしまう。


「流都。何だか……騙してごめんね。私の命は流都のお陰で助かったよ。本当に、ありがとう……ううん、それだけじゃ、足りないくらい」

「いや、それは僕もだよプリシス……って、そういえばもう、プリシスじゃ……」

「そうだ、言ってなかったよね。私の名前は、桃井 流華ももい るか。流れる華って書いて、流華るかね。流都と、ちょっと似てない? っていうか、私も流都と同じ25歳だし運命感じちゃうよ」


 流華が歌うように話しながらしゃれた椅子に着く。なんとも絵になるなと思う。これは流華が美人だからとか、それだけの理由じゃないことはもう気がついていた。


 たくさんの勇気や希望をくれた彼女に、完璧に惹かれてる。


「流華……さん」

「もう、今更なによー。流華って呼んでよ。でね、実は私、今昏睡状態なの。流都が助けてくれたから、もうこれからは大丈夫だけど」

「え……?」

「原因は分からないんだけど、きっかけは2日前の貧血だと思う。急に意識がなくなっちゃって……。しかも意識が戻らないって重体扱い。その時、私皆の様子を身体から意識だけ離れたから見れたんだけど、皆悲しそうだったな」

「そうだったんだ……」

「うん。それでね、昏睡状態中に私はどうしてこうなったんだろうって考えてたら、突然、私の魂が分裂したの」

「ぶ、分裂!?」

「そうよ。分裂したのが小柄なアバターみたいな姿になって、私の前に現れたんだけど、それがプリシス。名前は私がつけたのよ。素敵じゃない?」

「へ、へぇ。流華、が……」


 凄いけど、話についていくことが大変だよ。


「プリシスから、意識が戻らなくなってしまった私を助けられる人が一人だけいるって言われたの。すぐ近くにいる人だから、会ってくるって言ってそのまま行っちゃって」

「僕が、近くに……?」

「うん。それからね、あなたのデータが私も自然とプリシスを通して分かった」


 流華は僕を見て、微笑む。目を逸らすのも勿体なくて、ただ僕は流華を見つめ返す。


「流都のデータが分かった後にね、突然あの屋上に意識がつながるようになって。そこで見えた本物の流都のこと、応援してたの」


 世の中凄いことが起きてるんだなと僕はただただ目を丸くする。確かに、僕の見に起きたことだってその一つなんだけどさ。


「もう、プリシスは役目も終わったみたいで私の中にいるけどね」

「そっか……」


 その言葉に、自分が本当にクリアできたんだと感じる。


「流都にその意味、分かって貰えたら嬉しいな」

「えっ?」

「私ね、白橋病院にいるの」

「白橋、病院……って僕の家のすぐ近くじゃないか!」


 僕の住む家から車で5分あればその病院に着ける。

 以外にも近い場所に流華がいたことに驚いて目を丸くする。


「それじゃ、待ってるね」

「え? それってどういう――」


 流華が戸惑っている僕の顔に近づくものだから、更に真っ赤になるのが分かる。

 やがて、唇に訪れた温かく柔らかい感触。

 更に目を丸くした僕に流華は微笑んだまま、景色と共に白くなって消えてしまった。

 そして、僕の意識も。

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