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 僕の転送された先は、人々が集まる賑やかな繁華街だった。そして、その繁華街に場違いとも思える見た目がとてもオンボロで、空に届くんじゃないかって思える程の高くそびえ立つビルが建っていた。


『転送完了だね。あ、そうだリュート。ここに来るまでに防具と武器セットしといたから。ちなみに最新式だよっ』

「えぇっ!?」


 プリシスの言葉の後に自分の身体を見る。一言で言えば特撮や戦隊ヒーローのスーツのような、全身スウェットスーツを着ているようだった。視界は少し暗くて声がこもってることからヘルメットを付けていることがわかる。そしてヘルメット内に通信機も装備されてて、僕の耳元にはっきりとプリシスの声が聴こえてきていた。


 武器と防具と聴くと嬉しいものがあるなぁ。でも身につけるだけで、それだけで十分だよ。


「凄いな……。あとはここの魔物を一匹は倒してヒロインを助ける、か。って、ヒロインって誰なの?」

『助けたら分かるよ』

「えー……! それはそうだけど知りたいなぁ……あっ」


 とりあえず自分の今の格好が気になって、ちょうど近くにとめられていた車のミラーを覗き見る。


「わ!?」


 最新式とか言うからすごくカッコイイものを想像してたのに!

 見るからに頭からつま先まで全身赤スーツ、赤いヘルメットの目元は黒の一直線のラインという見栄え。腰は金色のベルトに、一丁の銀色に輝く拳銃。拳銃とはいえ、手のひらに収まりそうな程の情けない大きさだった。魔物を倒すといってもこの情けない拳銃で勝てるわけがないとも思う。

 これではちょっとテレビで見るのとは違って妙に目立ちすぎだし、それにかっこ悪い気がする。


「こんなの、人に見られたら恥ずかしいよ……!」


 僕は自分を抱きしめるような奇妙な格好になってしまう。道行く人が僕を見て立ち止まって、凄く哀れむような目で見てくるのがわかった。そんな目で見ないでくれよ……。やりたくてやってるんじゃないんだからさ。


『リュート、そんなのでヒーローつとまんないよ! ヒーローは助けてこそヒーローなの!』

「いやー……! でもそれとこれとは話が……!」

『あと、こんなところで人の目気にしすぎてるけど、ここの世界は現実リアルじゃないんだから! 迷わず戦って!』


 ドォオオオン!!!

 バリィン――!!


 僕は鼓膜にかなりの衝撃を受け、驚いてその場に身を潜める。体中に何かチクチクと痛む衝撃を受けてひるむ。衝撃が止んで恐る恐る目を開けて見えたのは、先程のオンボロビルの上の方にあたる窓の一つが火事による爆風で割れてガラスが飛び散ったあとだった。


「マジかよー……!」


 僕はこれは夢なんだと自分に言い聞かせることにしたけど、先程身体に走った痛みに恐怖を覚えるのも同時だった。これはちょっと、怖すぎる。あれで痛いのだから、燃え盛る炎の中なんて到底……。


『はい、あと8分! 虫になりたいならずっとモジモジしときなさいよ! いっそのこと!』

「えええええ!!!」


 虫にはやっぱりなりたくなくて、僕はオンボロビルへと駆け出した。


 僕が走り出して数秒後、身体が急に凍りついたように前に進めなくなり、驚く。


「なん、だ!?」


 思考と声は普通なのにと思った瞬間、また身体が自由を取り戻した。

 そして、瞬きをした後。目の前に三体、僕と同じぐらいの身長をしたほぼ黒一色と言える、人に翼が生えたような生き物が立ちはだかる。その禍々しい感覚が僕を襲った。息が苦しい。


“メージョメージョ!”


 妙な鳴き声にもともと無い戦力をさらに奪われかけたが、相手の見た目からして相当強そうだ。ゲームでいえば四天王の一人ぐらいなそんな雰囲気と見た目。プリシスの言う通り魔物を倒さないと僕は虫にされてしまうんだ。


「助けてー!」


 そして、本来の目的である、未だ見ぬヒロインの叫び声が聴こえてきた。声のする方を見ると、オンボロビルのあのはるか遠くに感じる最上階の窓から顔を出し、助けを求めてるじゃないか。


「あんな所に……!」


 戦わなきゃ――。


 虫にはなりたくないんだよ――!

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