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@MyYm-34443

figure -- ①人形②指標

|「…………?」

 人形はわらう。鮮やかな朱に手を染めて。

 気づけば、もう七人目だった。

 意識が発現して、幾星霜いくせいそう

 ふと目が覚める度に、私の小さな爪は、違う色に侵されている。

 知らない感触。肉の感触。暖かさ。熱。擦れる音。生臭い。痛い。抵抗。痛い。だから。

「ひっ……」

 口元が歪む。口角を何とか釣り上げたそれは、無理をして作った微笑みで、どこか物悲しい。

 滴る音。水の音。液体の音。水よりも濃いそれが、手のひらを伝い、細く長い指から垂れて、指先から落ちていく。

 誰もいない路地で、人形は静かに反芻する。

 さっきまで生物だったその肉塊の吐いた息を、誰かの吐いた呼気を。

 ふと、考えることがある。

 考えたことはない。

 自分は、何者なのかと。

 私は人形。

 自己を形作るものは何なのか。

 嫌な臭いでできた私の身体。

 きっと私は、自分を見たくないだけなんだ。

 きっと私は、自分から逃げたいだけなんだ。

 ……力強く、握る手は自らの掌を抉っていた。

 目には生気があった。込み上げてくるのは吐き気。頭の中にある境界線は曖昧になっていく。うすぼんやりとした自分が、同一化していく。

 ――嫌な臭いが、またした。

 傾く視界。

 背中に当たる感触。人の感触。

 胸に感じる感触。痛み。流れる朱色あかいろ。限りなく赤に近い、濃く瑞々しい。

 冷たい魔法の鉛が、嫌な臭いを嗅ぎつけたんだ。そして臭いを喰らい、また通り過ぎていったんだ。

 何かを叫ぶ何人かが駆けつけて、何かをしている。

 私の腕に冷たいものが当たる。足が地面から離れる。

 ……私、飛んでるのかな。

 私は人形。もうわらわない。

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