第20章
第二十章「デンキジカケのユリカゴ」
「ユリカゴが完成しました」、オカチマチ博士はゼロに告げた。
「ご苦労。これで人類は救われるのか?」、ゼロはオカチマチ博士に尋ねた。
「私の計算では、可能なはずです」
「……はずです、か。その程度なのか」
「未来の完全予測は不可能です。それはあなたが一番よく知っているのではないでしょうか」
「確かに」
「現在、施設は建築中です。作業員を三交代で二十四時間体制で作業を行うと、あと1483日で完成します」
「君の説明はいつも遠回り過ぎてわかりづらい。もっと簡潔に言いたまえ。あとどれくらいの期間だ?」
「35592時間です」
「もう結構だ」、ゼロは呆れて言い捨てた。
ここはゼロ次元の一室。四方を赤いビロードのカーテンに覆われた部屋で、ゼロとオカチマチ博士は、絶滅を目前としている人類を救おうとしている。
「ところで、猫はどうしている?」とゼロは博士に聞いた。
「彼は変異し、別の次元へ移動しました」とゼロに告げた。
「探す方法はあるのかね」
「今はどんな姿となっているのかもわかりません」、博士は率直に述べた。
「なるほど。施設が完成するまでに、まだ時間はある」
「そうですね。施設の完成と猫の所在に、何か関係があるのですか?」、オカチマチ博士はゼロに尋ねた。
しかし、ゼロはオカチマチ博士のその質問に答えなかった。
そして、オカチマチ博士は、ゼロ次元の一室から出て行った。
オカチマチ博士が部屋を出たのを見計らって、ゼットが部屋に入ってきた。
「猫の移動はうまくいったようだな」とゼロはゼットに言った。
ゼットは頭を縦に何度も振った。彼は白い犬を抱えている。
「それかね。新しいムタチオンは」
ゼットは再び縦に頭を振った。
「変異した猫を探しだせるかね?」
ゼットは三度縦に頭を振った。
「探し出せないのかね?」、ゼロはさっきとは逆の質問をした。
ゼットはまた頭を縦に振った。
「お前の返事はあてにならん。とにかく、変異した猫を探し出すのだ」
ゼットはもう一度、頭を縦に振った。
ゼットは呆れて頭をうなだれた。
「くれぐれももオカチマチ博士に知られないように、内密に行動したまえ。……もう、うなづかなくてもよろしい」とゼロが言うと、ゼットは頭を縦に振ってしまうのをこらえ、顔を斜めに歪めてニヤッと笑った。
ここはXYZ空間のある町。オカチマチ博士は建設中の脳科学研究所の地下室にいた。彼はは研究の中断を避けるため、この研究室をまず先に完成させた。
オカチマチ博士の目の前のカプセルには、一体の人型のアンドロイドが横たわっている。このアンドロイドにヒトから抽出した記憶を移植しようとしている。
「アダム、もう一度確認します。設計に不具合はありませんか」、オカチマチ博士はコンピュータの前で尋ねた。
「はい、不具合は見当たりません」、合成された音声が返事をした。
「では、アンドロイドのブレインシステムに、記憶データを送信する。この記憶データは、ミズサワルリコという女性のリアルブレインをデータ化したものである。このアンドロイドは認識番号AI006N。ボディの全パーツは人工細胞から作られたものである。これが目覚めれば、初のコピー・ブレイン・アンドロイドとなる」、オカチマチ博士はコンピュータのエンターキーを押した。
アンドロイドのまぶたの下の眼球が動き始めた。夢を見ているように、ときどきピクリと痙攣する。
そして、アンドロイドが目覚めた。
おわり
「デンキジカケのユリカゴ」へ続く・・・
男は犬であり、女は猫である 日望 夏市 @Toshy091
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