第19章
第十九章「再生」
ある朝目覚めると僕は人間になっていた。
どうして人間になっていたのかは分からない。本来、猫は夜行性であり待ち伏せ型捕食者であるのだから、人間の性質には似ていない。また犬はと言いますと、群生動物であり階級意識の強い人間の性質に似ている。
これは僕が勝手に思い描いている持論であり、野生的直感と本能が生み出した仮説であり、根拠というものはまったくない。しかし、猫も犬も人間社会におけるペットという地位を確立し、他の動物から一目置かれていることはいうまでもない。しかしながら、亀や猿をペットとして飼っている人間もいるわけですから、優越感に浸っているばかりもいられない。だが、人間と猫と犬の関係には特別の何かがあるのだろう。とにかく、昨日まで猫だった僕は、ある朝目覚めると人間になっていたわけである。
突然、何かが目の前に現れた。首に巻かれた布には見覚えがある。この赤いバンダナは、もしやバンダナ犬か?「バンダナ!」と声を掛けようとしたが、うまく言葉にならない。よく見れば、僕は小さい籠に入れられている。この籠のサイズからすると、かなり小さな生き物であるのだろう。察するところ、まだ赤ん坊のようだ。道理で思うように体が動かせないわけだ。赤いバンダナの主をよく見ると、あのバンダナ犬にしては小さ過ぎる。犬があちらを向いて吠え出した。誰かを呼んでいるのか。あちらとこちらを行き来しだした。犬の次に僕の籠を覗き込んだのは人間だった。緑色のベレー帽を被った男。「ピカソじいさんか?」いや、そこにいたのはハンサムな若者だった。どことなく、じいさんの面影がある。彼はじいさんの息子か孫なのだろうか。
ようやく猫の生活に慣れてきたところだったのに、また人間からのやり直しか。やれやれ、今度は人間としてうまくやれるだろうか。まぁ、やれなかっとしても、また次には、バンダナみたいに犬になることも。本来、男は犬であり、女は猫であるのだから、人間に戻ったということは、次に犬になれる可能性も出てきた、ということなのだろう。兎にも角にも僕はこれからこの姿で生きていくわけだ。
ならば、人間の赤ん坊らしく泣いてみようではないか。
「オギャー!」
うまく泣けたような気がする。
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