大河内蘭丸の入学試験

 国立第一ダンジョン学園ダンジョン攻略学部戦闘科。一年A組出席番号7番、大河内蘭丸。

 高校一年生にしては背は小さく160cmあるかないか程度で、体の線も細い華奢な少年。

 しかし蘭丸は自身の強い意志でダンジョン学園への進学を決意した。華奢な見た目通り、他の同級生と比べても力はかなり劣るほうだった。そう、単純な腕力という面で見ればである。

 しかし蘭丸にはそれを補って余りある魔力適性の高さがあった。それ故に難関の第一ダンジョン学園の狭き門を潜り抜けたのだ。

 ただし、と付け加えるならば蘭丸が合格した裏には、ある人物の働きが非常に大きな貢献をしている。


 実技試験の日、蘭丸は碌に朝食も食べれないほどの緊張と寝不足で、試験前には試験官に体調が悪いなら無理しないほうがいいと帰らされそうになる程であった。

 しかし蘭丸が首を縦に振ることはなく、強い意志をもって断固拒否する。

 たとえ腕力がない非力な自分でも、たとえ男の|娘(こ)と呼ばれるひ弱な自分でも、魔法さえ使えれば英雄になれるのだ。蘭丸はそう信じ実技試験へと挑んだ。


 そして試験開始の10分後、ダンジョン攻略者になろうとしていた数分前の自分を大いに恥じた。魔法さえあれば自分は誰にも負けない、そう信じていた浅はかな自分を呪った。ダンジョンはそもそもモンスターの領域。人間が足を踏み入れるなんて、飢えた肉食獣の口の中に頭を突っ込むことと同義かもしれない。

 そんなことを思いながら、モンスター達に倒されていく仲間達を、ただ黙って震えながら見つめていた。


 英雄に憧れた。いや。英雄になりたいと願う自分に酔いたかっただけなのだと、蘭丸はようやく悟る。今なら間に合う、今ここで背を向けゲートまで走ってしまえばいい。それだけで試験は不合格になり、おそらく一生ダンジョンの中へ足を運ぶことはない人生を送れる。

 10人近くいた仲間の最後が敵の攻撃を受け、地に膝を屈したその瞬間蘭丸は覚悟を決めた。右足をずりずりと引きずりながら半歩下げ。そして脇目も振らず後退しようと振り返ったその時、蘭丸は確かに見た。


 それは自分の理想であり、憧れた姿。

 恐れを知らず果敢にモンスターへと立ち向かい駆逐していく自分と同じくらいの歳の少年。

 ただただ見惚れて蘭丸はその場に立ち尽くした。そして少年はモンスターを倒すと後ろにいる蘭丸には目もくれず、ダンジョンの先へと前進を続ける。追って一緒に戦いたかった、せめてありがとうとお礼を言いたかった。しかし足がいうことを聞いてくれず動けなかった自分が、数分前に仲間を見捨て逃げ出そうとした自分が情けなくて、声をかけることすらできなかった。


 ただ、自分も前に進みたい。本当の攻略者になりたいと本気で思うことができた。いつかあの人と肩を並べ戦えるように。。。

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