プリン

@bagys12

プリン

プリン

 うちの家族は、皆が皆、理解しがたいほどのプリン好きだ。父の夢は、プリンに埋もれて死ぬことだし、母の夢は、プリン風呂に浸かることだ。もちろんそんな二人から生まれた私が、プリン嫌いなわけもなく、小学生の時には、給食でプリンが出た日に、病欠の子の分を巡って大喧嘩を繰り広げ、相手の男の子に三針縫う怪我をさせたほどである。結局そのプリンは、先生に説教されている間にどこかのハイエナに食べられてしまって散々だった。

 何故私は、こんなにもプリンが好きなのか。父に、尋ねたことがある。

 「なんで私たちの家族は、皆こんなにプリンが好きなの?」

 父は、さあ。と呟いた後に、遺伝かなぁ。と言った。その時は、幼すぎて遺伝ってなんだろう、高いプリンかな。なんて思っていたが、遺伝ならば、初めてプリンを食べた私の先祖に感謝である。感謝しかない。プリンの味をわかる先祖でよかった。これからは、お供え物のプリンをもう少し長くお供えしていようと思った。

 さて、そんな私達の家族の間で本日、家族会議が開かれる。

父は、金曜日である昨日、会社の飲み会から酔っぱらって帰って来て、冷蔵庫にいつも各自最低10個は常備している各々の好きなプリンをすべて食べたのである。たまたま朝早く目覚めて、プリンを食べようと冷蔵庫を開けた私は、あまりの事態に慄いて、叫んだ。母は、飛び起きてきたが父は前日の疲れからか眠ったままだった。ふてぶてしい。

 階段を駆け下りてきた母は、私の顔を一瞥してから、開けっ放しの冷蔵庫を見て、ちゃんと扉を閉めてから、また寝室のある二階へと駆け上がって行った。ああ父よ、ざまあみろ。母は、怒らせると怖い。

 「信じられない!名前も書いてあるのに!」

 上階から母の奇声とともに、ビンタの音が何発も家中に響き渡る。

 しばらくして降りてきた父の顔は、すぐ写真に撮って友達にSNSで送りたくなるくらい、腫れあがっていた。ほんとに、ざまあみろ。

 顔がりんごで、まだパジャマのままの父は、そのまままっすぐ玄関に向かい、車のカギを持って外に出た。

 玄関の扉が閉まるころ、少し息の上がった母が下りて来た。

「お母さん、お父さんどこ行ったの?」

 私は、聞いた。

 「私達の分、プリン20個ずつ買いに行かせたのよ。もちろん、お父さんの分は無し。」

 さすが私の母だった。プリンの恨みは、大きい。月曜日に仕事帰りの父の目の前で、三つくらい食べてやろうと心に決めた。

 父は、なかなか帰ってこなかった。

 「あの人、まさかしばらく食べられなくなるからって外でたらふく食べてくるわけじゃないでしょうね。」

 母は、そう言って父に電話を掛けた。

 父と母は、社内恋愛だったため、父が会社にいる間の監視は、母の友人に任せられるのだ。

 電話を終えた母によると、朝早くてスーパーがまだ開いておらず、あちこち回ってさっきやっと見つけた店では、母の好みのプリンが売っておらず、他のスーパーに着いたところだという。ドアミラーで自分の顔を確認したが、これはあまりにもひどい。店員の目がとても気になる。とも言っていたそうだ。

 結局、父が返ってきたのは昼前だった。母は、父の分のお昼は作らず、今夜は家族会議よ。とだけ言った。まだ少し顔を腫らしたままの父は、うなだれたままカップ麺にお湯を注いでいた。

 母もさすがに少しは、怒りもおさまったか、夕飯は、三人分作ってくれた。父は、少しうれしそうにしている。

 夕飯を食べ終えて、母と私がプリンを二つずつ食べたころ、母によって家族会議の開幕宣言がなされた。

 はじめの30分くらいは、ただただ父に文句をぐだぐだ二人で言い続けるだけの時間だった。普段は、しっかり者で厳しめの父だが、二人のプリンも食べてしまったという申し訳なさから今日は、ただただ落ち込んでいた。あまりの落ち込みように、かわいそうになってきた私は、自分のプリンを防衛するための手段を考えてみようと提案した。

 やはり相当堪えていたのか、父はすぐその案に乗ってきた。

 私達は、色んな案を出し合った。もっと目立つように名前を書く案、今あるプリン専用の大きい冷蔵庫ではなく、小さめの冷蔵庫を三つにする案、そもそも父が飲み会に参加しない案。どれもパッとしなかった。

 そんな時に、父がいきなり立ち上がった。

 「鍵だ」

 プリンの容器の三角形に尖った所と、フィルムに小さめの穴をあけて南京錠をかけようというのである。幸い私達三人が好きなプリンには、全てその三角形の部分があった。小さいプリン用南京錠をそれぞれ20個ずつ買って、自分の20個だけ開けられるようにマスターキーを作ることになった。金庫を買って、冷蔵庫に入れた方がいいんじゃない。と私は、言ったが、冷蔵庫を長く開けっ放しにするのは良くないと母に言われ、小さい南京錠60個の方が金庫三つより安いよと父に言われた。正直なところ私も、プリンに鍵をかけるというのもなかなかかっこいいな。と思っていたのでうきうきしていた。

 かくして、プリン大好き、私の家族は、各々のプリンを防衛すべく、プリンに南京錠をかける一家となった。

 




数日後・・・

 

「いちいち穴開けるの、面倒くさくなってきたね。」

「お父さんに、専用のホールパンチみたいなやつ作ってもらおうよ。」

 プリン錠は、進化していく。

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