第6話

 話を進める前に言っておくッ!

 俺は今、エロゲの主人公にありがちな展開をほんのちょっぴりだが体験した。

 い…いや……

 体験したというよりは、まったく理解を超えていたのだが……

 あ…ありのまま 今、起こった事を話すぜ!


「俺は、倒れた盗賊が起きたと思ったら……いつのまにかされてた」


 な……何を言っているのか、わからねーと思うが…… 

 俺も何を言われたのか、わからなかった……

 頭がどうにかなりそうだった……キスだとかパイタッチだとか。

 そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……


 俺は、顔が劇画風になるのを我慢できずに右手を顔の前で開いてポーズをとってしまう。


 いやいや。

 こんな冗談をしている場合ではなかった。


 素っ裸に毛布だけ巻いた低身長の少女が苦々しく俺を見つめて言った一言をなぞるように言う。


って今言いました?」


 綺麗な紫色の瞳を細めて睨み付けてくる少女相手になぜか敬語になりつつも。

 直接その言葉の意味で捉えると、俺のおしべと少女のめしべで花が実をつける的な意味合いになるが……


「そうだ。言葉の意味が解らないのか? いいか、貴様が私を抱いて、私に子を孕ませろ。つまり私と貴様で赤ちゃんを作る、と言っている」


 そのまんまの意味でした!

 え、何がどうなってそうなったんだ?

 あれか?

 さっきバグスキルで裸晒されたから責任を取ってもらうぞ的な?

 そういう事なのか?

 いやいや、落ち着け俺。

 抱けと言われてハイそうですかと抱くわけにはいかないだろう。

 こっちにだって相手を選ぶ権利ってもんがあるわけで。

 俺の初めては美しいお姫様みたいな子に捧げるって決めてるんだ。

 なにもこんな盗賊やってるような女の子に……


 女の子に……ごくり。


 一応。

 毛布を羽織っただけの少女をよくよく観察する俺。


 肩の下まで伸びる濡れたように艶のある黒い髪の毛。

 ぱっつんの前髪の下には、長いまつげで囲われたアメジストを思わせる綺麗で大きな丸い瞳。

 まだ少し幼さを残す顔のラインと、薄紅色のプルっとした小さな唇。

 エキゾチックな小麦色の肌は絹のように滑らかそう。


「貴様……なにをじろじろと見ている! 私になにか不満でもあるのか!」


 ありません!

 見られることに慣れていないのか、キュッと身体を毛布で隠しながら……顔を紅潮させて。上目遣いで聞いてくる姿はむしろ、極上の美少女そのものです。


 だがしかし困った。

 この美少女はいったい歳は幾つなのだろうか。

 異世界での法律だとか倫理観なんて、ぶっちゃけまだ知らないし、もしかしたら妹の萌愛よりも歳が下だと大問題になりそうだ。

 その萌愛は、というと。


 ニッコリと。

 ちょっと離れたところでしっかり聞き耳を立てつつ、笑顔でこちらを見ている。

 そしてグっと……まて萌愛。

 その『やっちゃえ』みたいに人差し指と中指に、親指を入れるサイン送るな。


 んー……まぁ、まずはちゃんと色々聞いてみるか。


 そんな無言の思考を続けているうちに、俺からの返事がないことに不安になってきたのか、口をもごもごさせて少女が何か言い出していた。


「そ、そりゃあ私はまだ身長も高くはないし、胸もあんまり大きくはないが……」


 確かに。少女の身長は150cmくらいで決して高いとは言えないし、さっき見た胸も綺麗なお椀型ではあったが幼児用のお椀程度だった。

 だが勘違いをしてはいけない。

 身長だって高ければいいってものでもないし、胸だって小さかろうが大きかろうが等しくそれは愛すべきものなのだから。

 俺は低身長、低山脈でも全然OKだ。

 なにしろ美少女なのだから、大抵の事は許される。


「おいっ……貴様っなんとか言え!」


 涙目になりながら訴える少女の可愛らしいことよ。

 可哀想だからちゃんと返事してあげよう。うん。


「あー……と、その、だなぁ。突然、その、なんだ……っていわれても、あれだ、えっと今日初めて会った俺に何でっていうか、裸にしちゃったことは悪いと思ってはいるんだけど、さ」

「ぅ……うるさい! 裸とか言うなっ!」


 さっきの事を思い出してか、より一層顔を真っ赤にして憤慨する少女。


「悪かったって!」

「悪いと思ってるなら責任を取れっ責任を!」

「その責任で子供ってか? あのさ、俺的には君のような可愛い女の子とそうなるのは大歓迎なんだけどさ」

「だ、大歓迎ならいいじゃないかっ……!」

「よくないだろ。そもそも結婚だってしてないのに子供って、いくなんでも飛躍し過ぎだろ」

「なら結婚すればいいのか? してやってもいいぞ別に」


 何この結婚に対する軽さ。

 この世界では別にいいよで通る程、軽いもんなのか?


「え? 結婚て、そんな簡単にいう事じゃなくないか? だって、結婚だぞ?」

「貴様……私との結婚すらも文句があるのか。家柄ならそこら辺の奴らよりも多少マシだぞ。なにせ私は黒龍の竜人族、その姫だからな」

「お姫様!?」


 なんでそんなお姫様が盗賊なんてやってんだ!?


「お姫様とかいうな! むず痒くなるっ」

「ますます訳が分かんないよ。そのお姫様が盗賊やってて、たまたま裸を見られただけの俺に子供作れって言ったり、あっさり結婚するとか言ったり」

「は、裸などっ……裸なんて、どうでもいい! 貴様は見ただろうっ!」


 顔?

 はいもちろん、すっぽんぽんになったときにバッチリ見てますが。


「私の……竜人の里の掟でな。里以外で、初めて素顔を晒した相手を自分の子供の父親にしなければならないという掟があるのだ」

「な、なんて重い掟……」

「竜人は希少種だからな……本来は老齢の竜人が外で適切な男を、里の若い竜人の伴侶として連れてきて、それから初めて顔を晒すことで婚姻が成立して、その者と子を成す掟なんだ」

「つまり、不可抗力にしても顔をみちゃった限りは俺と君は既に婚姻関係にあって、子供は俺としか作れないから子作りしろ……と?」

「そうだと言っているっ……もし、もし断るというなら、私は恥を晒す前にこの場で自分の命を絶つ!」


 手元に置いてあった魔剣を握り、自分の喉元へ剣先を当てる少女。

 命を絶つ、と。

 そう言い放つ少女の顔は、マジだった。真剣そのものだった。


「お、おいまてって! なにそこまで……!」

「そこまでの問題だ! 一生に一度だけ竜人に与えられた子孫繁栄の決まり事なのだ! 成立しないというのなら、この命など残すに値しないっ」

「わかった! わかったから!」

「わかったってことは子供を作るってことでいいのだな?」

「いや、それは……えっと」


 俺は迷った。

 今までの人生で一番高速に脳味噌を回転させて悩んだ。

 この場で子作りOKと言えば、目の前の少女に俺の童貞を捧げる事になる。

 ……いや、童貞なんてぶっちゃけ今日この時まで大切にしてきたと自分で思い込んでいたが捨てられるなら捨ててしまいたい。

 ならば今すぐ合体だ!

 と、言いたいが、もし仮にだ。

 あまりに俺がヘタクソで「こんなヘタクソ君と結婚して子作りか……はぁ、お先真っ暗」とか言われたら……!

 あ、俺もう生きていけない。

 目の前の少女のように喉元に剣を突き立てて自決しちゃうかも。


「うぅ……やっぱり私ではダメなのだな……さようなら美しきこの世界よっ……!」

「ま、まて……っ」


 と、俺が止めようとする声を無視して、魔剣を握りしめた少女が震えながら力を込めて喉元に……っ。

 その寸前のところで――


「お待ちなさい! 話は全部聞きました!」


 ――萌愛が大声で少女を止めた。

 ババーンという効果音が聞こえてきそうな出で立ちで唐突に萌愛が割って入ってくる。

 というか、やっぱり全部聞いてたんだな。


「なんだお前は、さっきの鈍器使いか」

「……ヒーラーです」

「何の用だ。私はもうこの世界に別れを告げたのだ邪魔するな」

「いいえ、邪魔します。 ……ていうかあのね、ちょっといい?」

「……聞いてやる」

「うん。あのね、まず、お兄ちゃんは童貞です」


 あひぃ!

 そんな人前で堂々と俺を童貞とかぶちまけないで萌愛さん! お兄ちゃん、心はガラスで出来てるから!


「童貞……? なんだそれは」

「童貞っていうのはね……ごにょごにょ……」


 萌愛が少女に耳打ちを始める。


「ふむ、なるほど」

「で、そんな童貞君にいきなり抱けとか子作りとかいっちゃうとね……ぽしょぽしょ……」

「ほう……」

「だから、とりあえずこういう時は時間を取って……もにょもにょ」

「……そうか、そうだったか。私の容姿や体形の問題ではないのだな」

「うんうん、むしろお兄ちゃんの好物だと思うし……こしょこしょ」

「……わかった。ならば私もそれに習うとしよう! ……おい、貴様!」


 萌愛の耳打ちが終わり、すっと立ち上がった少女が、晴れやかな顔でこういった。


「私は貴様の嫁になる! そして貴様の童貞とかいう病が治ったら子供を作ってもらう。だから、それまでは一緒に付いていくぞ! むろん、魔王退治とやらにもな!」


 一体何を吹き込んだのやら。

 童貞を何かの病気かなんかだと思っているようだし。

 萌愛も一仕事終えたみたいな良い顔してるし。


 うーん、そうだなぁ。

 嫁云々はおいておくとして、仲間が増える分にはいいのかもしれない。

 はっきり言って純粋に強さなら俺よりも圧倒的に強いし。


「おう! わかった! よろしくな……えーっと」


 あ、そういや名前すら知らないんだった。俺たち。


「クレム・ド・ヴァイオレットそれが私の名前だヴィオでいい」

「俺は澄原幸典。よろしくなヴィオ!」

「ふふ、よろしく頼むぞ幸典」


 盗賊 が なかまに なった。


 ぱぱーん。


★★★


 それから俺たちはゴブリン達に別れを告げたヴィオを連れて王都へ向かった。

 商人のおっさんには、盗賊に攫われていた少女を助けたと言ってごまかした。

 ただ、着る服がないので、それも新しく買った。

 金貨3枚も取られたが、俺たちの服よりすこしグレードが低い、少女向けの装備を売ってもらった。


 ヴィオはもう俺との婚姻が成立しているので顔を晒しても良いとはいえ、頭にある角は目立ちすぎるので、まずはベレー帽に似た帽子を売ってもらう。

 まぁ、目立つと教えてくれたのは商人のおっさんだが、竜人の掟については知らないらしく、竜人は珍しいから隠してないと危ないよって程度で注意してくれたのだ。

 次に、上着だが綿生地っぽい編み編みの薄いトレーナーに、大き目の肩から腰まで掛けられるストールっぽい一枚布。

 そして、カボチャパンツとでもいうのか、モコっとした感じのハーフパンツと、タイツに革の靴。

 うん。

 可愛い。

 褐色の肌に黒髪ロングなせいもあって、森ガール風の服がぴったり合ってる。

 ただ、純粋に森ガールっぽいというよりも、やや民族衣装に近い印象かもしれないな。

 ま、どっちにしても可愛いけど。

 これ、俺の嫁です。


「ど、どうだ? 似合うか?」

「ああ、バッチリ似合ってる!」


 って言ったら、また顔真っ赤にしてたな。


 うん。

 とかなんとか、しているうちに、王都へと無事に到着。


 商人のおっさんとはここでお別れ。

「いやぁ、盗賊に襲われたときはヒヤヒヤしましたが、勇者様のお陰で荷物も無事でした。私は商談がありますので先に失礼しますよ。服の料金は王都の銀行で、私の口座宛に入れておいて下されば大丈夫ですから! これがその口座の番号です」

 と、紙切れを渡された。


 それから、手続きを済ませていざ王都の中へ。


★★★


 やはり、王都というだけあってものすごい人の数だった。

 門のすぐ先にはいきなり商店街があり、遠くに真っすぐ見える大きな王城までの一本道にズラリと店が立ち並ぶ。


 とりあず、このままではどんなに欲しいものがあっても買えないので、王都のギルドへ。

 そして案内されるがまま、新種のドラゴンの登録へと向かった。

 調査資料を見せると、すぐに現金が手渡された。

 やけにあっさりだな、と思ったが、この登録施設の研究員は資料を嬉々として眺め始めた。

 まぁ、多分お金とかそんなもの云々よりも研究する材料が増えたことが嬉しいんだろうな。と、率直に思う。

 ちなみに、王都へ来る道中にヴィオに資料を見せたら「こんなものドラゴンなんかじゃない! ただの超でっかいトカゲではないか!」

 と、怒っていたっけな。

「本当は子供さえ授かったら、幸典の首を刎ねて、さっさと旅立とうと考えてもいたのだ……だが、幸典が本物のドラゴンキラーではないと解ってちょっと嬉しい」

 って喜んでもいたな。

 首を刎ねるとかは勘弁だが。


 さて、お金も入ったし、まずは服の支払いで銀行にいって、んで旨いもん食って。

 それから……

 どうしようか?


「なあ、萌愛」

「なぁに? お兄ちゃん」

「とりあえず、王都に来たのはいいんだけどさ、どうしようかこの後」

「……何にも考えてなかったね」

「うむ」


 俺たちは、商店街の真ん中付近の屋台で買った、星形のイカだかタコだかに似たものを、醤油のような液体で焼いた『星焼』なるものを食べながら。

 次に何していいのかわからず空を眺めた。

 それを見かねたヴィオが。


「お前ら……魔王を倒すために旅をしてるんじゃないのか?」


 呆れた声で、呆けた俺たちに言う。

 そりゃそうなんだけどさ。

 一体どこに魔王がいて、どうやって倒すのかもわからないし。


「だったら、こういう大きな王都の王様にでも情報あつめやら兵士の貸し出しなんか頼んでみればいいじゃないか」


 おお、勇者が魔王を倒すRPGといえば王様!

 そうか。

 俺は推定とはいえ勇者。

 王様に会えばいいんだ!


「よし、王様に会いに行こう!」


 勢いよく飛び出す俺。

 お城の門から真っすぐに王城の中へ行く俺。

 城を守る兵隊に捕まる俺。

 勇者だと言って押し切ろうとしたが、冒険者証を見せろと言われて見せたらつまみ出される俺。

 そして門の前にいる萌愛とヴィオ。

 あ、初めから付いてきてくれてないのね。

 お兄ちゃん寂しい。


「全く。せっかく勇者たる俺が会いに来たのに門前払いとか、大丈夫かこの国の王様は!」

「お兄ちゃん……普通に王様程の立場の人が自称勇者なんて相手にするわけないじゃない……」

「じゃあどうすんだよ。ここで詰みか? ゲームオーバーか?」

「んー……例えば、王様が会いたくなるような功績を示して謁見するとか? なら話す機会くらいはあるだろうけど……」


 腕を組んで悩む萌愛。

 そこへ、またも助言をくれるヴィオ。


「なら、ゴブリンを虐めた貴族の後ろ暗い証拠を集めて、王国に献上するなんてどうだろうか。私はいつか、その貴族にゴブリンたちの恨みをぶつけてやりたいと思っていたんだ」

「なるほど、いいかもな! それ! 活躍も勇者っぽいし!」

「ふふん、そうだろ? ところで、その勇者っていうのはどういうことだ?」

「あれ、そこ?」


 言って無かったわ。

 そういえば。


 そんなこんなで。

 もうほんと便利なそんなこんなで。


 俺たちはゴブリンの村を襲った悪い貴族をやっつける事にしたのだった。

 ついでに詳細の情報収集やら、俺が勇者として魔王を倒す経緯は、裏でちゃんとヴィオにしておくので割愛。



★★★


次回予告


あ……こんにちわ

えっと、次回予告、ですね

次回では悪い貴族を成敗するために幸典さまが色々奮闘するとのことです……


え? わたし、ですか?

あの……わたしは悪い貴族の屋敷で捕まっている、売られるの待つだけの商品です……

あ、その一応、普通の女の子……です

えっと……わたしのように、まだ男を知らない子は高く売れるそうですので、次のオークションに出される予定です


ああ……悪い貴族に父も母も殺されて、あげくにわたしは知らない金持ちの慰み者になるのですね……

でも、もし、幸典さまが私にしてくれた約束が守られるなら、あるいは……


あ、これはまだ先の話ですね


では次回もお楽しみくださいませ



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る