第4話
本日はお日柄もよく。
俺たちは王都サムラマジーナへと続く街道を馬車に揺られて旅している。
「いやあー、ドラゴンキラーの勇者様に護衛されて王都まで行けるとは、わたしはツイてますなぁ!」
と、俺たちの座る席とは反対側に座り、お茶を啜りながら話しかけてくるのは。
小太りで顎髭の生えた、いかにも不思議な洞窟とかでローグライクしてそうなおっさんで、今俺たちが乗っている馬車の所有者である、商人のスコンブットさん。
「ははっ。気にしないでください。たまたま王都に行こうと思っていた矢先の事で、馬車に乗せてもらえるなんて、それこそ俺たちがツイてましたよ」
「おお、そうでしたなっ。わたしは勇者様ご一行を王都まで馬車に乗せる。旅費も払う。そのかわり、有事の時にはこの馬車を護衛していただく。そういう契約でしたなっ!」
王都までの道のりは意外と遠い。
歩いても一か月。
馬車でも一週間はかかる距離だ。
それを乗り物も無しに旅するのは、現代っ子な俺たちには少々過酷に過ぎるというものだ。
だが、そんな困っている俺たちに。
冒険者のギルド長をしているミッチーさんがこの商人を紹介してくれたのだ。
しかもこの商人の商品は――
「そうそう、新しく購入頂いた装備の着心地はいかがですかな?」
――冒険者の衣服や鎧などの服飾をメインとした商売をしていて、俺たちの初期装備……というか、学生服を見て「いくら勇者様たちでも、それでは心もとないでしょう?」と、丁度良い装備を見立ててくれたのだ。
「うんっ! すっごくいいです。この赤い宝石のブローチも綺麗だし、シスターっぽいけど、ローブ風の作りになってて、フード付きなのが可愛くてっ! 本当にありがとうございます!」
新しい装備を着た萌愛が嬉しそうに答えた。
「それはなによりでございますな。勇者様は、いかがですかな?」
「はい。俺もいい感じですよ」
「そうですか。気に入って頂けて良かった。わたしも選んだ甲斐があったというものです。それに、うちの商品を勇者様が使ってくだされば品物の宣伝にもなりますし、今回は捨て値でお売りしても損はありませんな!」
俺の装備は動きやすさ重視で作ってもらった。
丈夫な竜の革製のジャケットに同じく竜の革製の胸当て。
あとは軽い生地の上下服で、これも希少な素材を使ったものらしい。
あと、左手首には萌愛のブローチと同じ宝石の入った小手。
全部セットでなんと金貨12枚。
これでも相当オマケして貰ってるらしい。
もちろん今そんな大金は持っていない。
これから王都に着いたら支払う予定になっている。
そう。
新しく図鑑登録されるドラゴンの図鑑登録料から。
新種の魔物が発見された場合、それを最初に発見し、捕獲あるいは討伐した者には報奨金がでる。
魔物の種類により金額はまちまちだが、俺たちの登録する魔物は、バグモンスターとはいえ、この世界ではドラゴンと位置付けられる魔物。
ゆえに破格の金貨120枚という超大金が貰えるらしい。田舎なら家2軒立ててもおつりがくる程の大金。
ただし、ギルドの研究員がしっかりと調査し、その報告書やらなんやらの難しい書類をちゃんと王都のギルドに届け出をすれば。の話だが。
「ところで、スコンブットさん」
「はい、なんでございましょう?」
「俺たちの元の学生服……あ、っと、装備はどうなりました? 服のサイズを見るとかなんとかで、預けてましたが」
「ああ、それでしたら既にお二人の収納にそれぞれ入ってますよ番号は1番です」
そして、今回新しい装備に変えた最大の理由。
それは収納機能なのだ。
実はこの装備品には特殊な宝石が付いている。
萌愛のブローチしかり、俺の小手しかり。
その宝石には特殊な魔術式で押し入れ一つ分くらいの圧縮空間が内包されていて、念じると物を出したり入れたりできる。
物を収納すると、収納された順番にナンバリングされ、例えば制服の収納は一番最初なので1番と念じれば宝石に制服のシルエットがでる。
その状態で宝石に手を突っ込むことで、直接引っ張り出せるのだ。
……という使い方を今聞いた。
「おおー、本当に入ってる。便利だなー……あ、さっそく俺の剣入れとこ」
「わたしもイガちゃんいれとこ」
イガちゃん。
萌愛のモーニングスターの名前だ。
イガイガの鉄球が付いてるからイガちゃん。
多分忍法は使えない。武器だし。
そういうことで、収納ナンバー2番に武器がセットされた。
★★★
昼過ぎ。
俺たちは昼食を摂ろうと、街道の脇に馬を止めて食料を降ろし始めたところ。
馬車の護衛にはお約束のアレがおかしな口上と共に現れた。
「ひとーつ、一人目ミドリ・レンジャイン!」
黒いフードを被った小さな人影。
「ふたーつ、二人目ミドリ・レンジャイン!」
同じく黒いフードの……
「みーっつ、三人目ミドリ・レンジャイン!」
同じく……
「よーっつ、四人目ミドリ・レンジャイン!」
……
「いつーつ、五人目ミドリ・レンジャイン! 五人合わせてぇっ!」
「「「「「ゴレンジャ……」」」」」
「まてまてまてーっっっつつつ!」
それはマズイ。
色々マズイ。
俺は咄嗟に現れた怖いもの知らずの馬鹿を止めた。
なぜ異世界でそのネタがでる?
おかしいだろ!
しかもコレ、なんで色がみんな同じなのかとか絶対聞いちゃいけないやつだろ。
わかってる。
わかってるよ。
どうせコイツラあれだろ?
護衛にお約束の。
「お前ら、盗賊だな? 萌愛、準備だっ」
「う、うんっ。わかった」
「と、盗賊!? ひぃい! 勇者様あとはよろしくお願いします!」
俺は目の前のコントを無視して剣を取り出し構える。
萌愛はイガちゃんを取り出し握る。
商人のおっさんは、そそくさと馬車に逃げ込む。
「ふふふ、よくぞ気が付いたっす。そう我らこそ、この辺一帯に悪名高い盗賊団。グリーン盗賊団っすー!」
ああ、だから緑なのね。
「そして、俺たちは盗賊団でも最強の四天王!」
「5人じゃねぇのかよ!」
しまった。つい無駄に突っ込みをしてしまった。
「ふん。五人目は我ら四天王の中でも最弱……」
「だから5人じゃねぇのかって!」
「余計なお世話っす! もう一回いくっす。五人合わせてぇっ!」
「「「「「ゴレンジャ……」」」」」
「だからやめろやっ!」
マジでやめて。
危なすぎてもうね。
もはや限りなくアウトに近いアウトだから。
「なんで言わせてくれないっすか!」
「言わせねーよ……」
「なんて失礼な奴っすか! 実際挨拶は大事って古事記にもそう書いてあるっすよ! みんな、やるっす!」
バッ!
盗賊団の5人がフードを脱ぎ捨ててかかってくる。
その顔は……
「ま、魔物!?」
そう、緑色した顔でオデコに小さな角が生えたゴブリン風の魔物だった。
「魔物じゃないっす! 本当に失礼な奴っす! 俺たちは亜人のゴブリンっす!」
あ、やっぱりゴブリンなんだ。
しかしあれだな。
ゴブリンって、この世界では亜人て扱いなんだな。
多分、言葉を話せる人型に近いモノは亜人なのかもしれない。
「斬るっす! せいっ!」
ゴブリンの一人がナイフを斬りつけてくる。
俺はおっかなびっくりながら、ショートソードで受ける。
キィン。
金属同士の衝撃音が鳴り、ナイフを受けられたと同時にゴブリンはすぐに離れる。
が、間髪入れずに他のゴブリンが斬りつけてくる。
キィン。キィン。
なかなか素早い奴らで、盗賊ってのも伊達でない。
絶対に無理に攻めたりせずに、徐々に囲んで斬りつけに来る。
「きゃあっ! こっちに来ないで!」
「しまった! 萌愛!」
相手は五人。
俺たちは二人。
当然、萌愛の方にも敵は行く。
ブゥン!
ゴズ!
「ギャァァ!?」
うめき声。
くぐもった苦しそうな、吐き出されるような声。
「大丈夫か?! 萌愛っ!」
俺はナイフの攻撃をさばきながら、萌愛の無事を確かめる。
当の萌愛は。
「え? あ、あれ? わたし、やった?」
なんと、悶絶の後に気絶したゴブリンが一人、地面で星の冠を被っていた。
運悪く、適当にぶん回したイガちゃんにゴブリンがぶつかってしまったらしい。
「よくやった萌愛! ……おっと! っく!」
残りは四人。
俺は三人のゴブリンに囲まれて、攻撃を凌ぐのが精一杯だ。
萌愛の方にはあと一人のゴブリンがいるが、仲間が鉄球で昏倒させられたのを見て攻めあぐねているのか、萌愛とにらめっこ状態。
ここは俺がゴブリンをなんとかすれば形勢は一気に有利だが……よし!
「いくぞ! スキル
キィン!
はじき返すナイフに当てるようにスキルを混じらせる。
今回の効果は……
「う、うおぉお!? お、重いっす……!」
よっしゃ!
物体を重たくする乱数を引いたようだ。
一人が武器を持てなくなっている。
……残りも!
「スキル
キィン! キィン!
「ぎゃあああ! な、ナイフがぁ!?」
これも良い乱数だ!
一つは熱で溶けて、もう一つは錆びて崩れた。
「もうお終いか? 悪いけど、盗賊なら遠慮せずに斬らせてもらうぞ!」
そう。
この世界はハードモード。
殺らなければ殺られる。
いくら推定勇者の俺でも死ねば終わりだ。
亜人とはいえ、斬れば人殺し。
だが、それでも……
「こ、殺せるもんなら殺してみるっす!」
ゴブリンの一人が、素手のまま突っ込んでくる。
殺やらなければ……
頭ではわかってはいるが、ただの魔物ならいざ知れず。
相手は言葉が通じる亜人。
「くっそ……」
剣先が鈍る。
ひとまず突っ込んでくるだけなら!
と、蹴りをかましてみる。
「おりゃあ!」
「ぎゃふんっ」
身体の小さなゴブリンゆえに、俺でも簡単に蹴り飛ばせた。
そのまま喉元へ剣を向けて……
「ひっ……」
「……悪く、思うなよ」
俺は生まれて初めて言葉を話せる者を……
殺そうとした。
その時。
『まちな!』
なんというか、変に違和感のある男性? のような声が俺の剣を止める。
まるでボイスチェンジャーでも使ってるかのような奇妙さのある声だ。
「お、お頭ぁ!」
その一瞬の隙に。
ゴブリンが俺の剣先からするりと逃げる。
少しだけホッとする俺。
そして奇妙な声の主を見た。
身長は、ゴブリンよりも少しだけ高いが、それでも150~160cmってとこだろうか、コイツもまた黒いフードで顔を隠し、しかも口元を覆い隠すように布でマスクしている。
よっぽど顔を見られたくないらしい事がわかる。
まぁ、盗賊だし、顔を見られちゃまずいってのはわかるんだが、なんていうかもっと強い意志で顔を隠してるような気がする。
勘だが。
「親玉登場ってか。まぁ、ありきたりだわなぁ」
さて、ゴブリンはスキルのお陰でどうにかなったが。
はたしてこのお頭ってのにはどうだろうな。
『子分が世話になったな……なるほど、コイツラのナイフをこんなにもめちゃくちゃに。お前、相当腕に覚えのある魔法剣士かなんかだろ?』
状況を見渡して、盗賊のお頭が勝手にこちらの戦力を過大評価してくれた。
もちろん、魔法剣士なんてカッコいいもんじゃないです俺。
せいぜいバグらせたトカゲ殺してドラゴンキラーの称号を運よくゲットしただけの、本当にそうかもわからない推定勇者の、しかも元の世界では普通の男子高校生です。はい。
だけど、まぁあえて勘違いさせたままで、ここは乗り切ろう。
虚勢を張るのも時には必要だろうさ。
勘違いさせとけば、無駄に子分のゴブリンをけしかけてきて、俺が人殺しをしなくてはならないような状況も生まれないだろうし。
「……そうだって言ったら? ついでにドラゴンキラーの称号もありますよっと」
『ドラゴンキラーだと……く、くはははっ……くっくっくくく、面白い。ならば、私がお前を殺してドラゴンキラー・キラーになってやるよ……! いくぞっ』
お頭さんが、細く鋭い針のようなナイフを数本取り出して……
次々に俺の急所目がけて投擲してくる。
数が多すぎて避けきれない。
俺は咄嗟に首などの致命的急所を避けるように、背中でナイフを受ける……と。
ボスボスボス……
「痛ってぇ!?」
ものすごい痛み。
だが、装備の性能が良かった。
背中に痣が出来そうな程強烈に当てられてもなお、ジャケットは貫通することなくナイフの刃をはじき返したのだ。
『……ずいぶんいい装備じゃないか……』
「だろう? 竜の革で作ったジャケットだからな。簡単には殺らせないぜ」
『竜の、革……だと……貴様らドラゴンキラーはそうやって何匹のドラゴンを殺してきたのだ……何度、悲しい殺戮をっ! ……もういい。本気で行かせてもらおう』
スラリ。
お頭が取り出した次なる武器は。
レイピアのようでありながら、刀のような波紋の入った細身の両刃剣。
刀身は鮮やかにほの赤く、鈍く輝く。
『鳴け……魔剣・ヴィブロナイフ……!』
キィィイーーーン……
魔剣から、超音波のように激しい振動音が聞こえる。
心なしか、刀身そのものが超高速でブレているようにも見える。
すっごい嫌な予感。
もしかしてこれさ、高速に振動する刃が、なんでも斬っちゃいます的なアレじゃなの?
しかも、こんな剣と魔法の異世界で出てくるとなれば……
『……死ね』
ブゥン。
下から上へ、斜めに。
剣が振られる。
「う……っわ!」
紙一重。
敵の剣から放たれた一瞬の剣筋。剣の軌道。その延長線上。
俺に向かって振り上げられたソレからは、数mも離れた俺の横を。
正確には気が付いて避けなかったら首そのものを一瞬にして切断したであろう鋭い斬撃が飛んできた。
『……今のをよけるか。本当に強者のようだな。だが、次は直接刃をねじ込む!』
タッ……
っと足音がした。
そしてその足音が聞こえたと。
思った時にはもう、そこに盗賊のお頭の姿はなく。
「おにいちゃん! うしろ!」
なんと、ほの赤く怪しく、美しい剣が俺の心臓目がけて。
その切っ先を突き出した。
★★★
次回予告
あ、やばいわコレ。
俺コレ死ぬわ。
ほんと。
どうも澄原幸典です。
振動剣はないっすわ。
無理っすわ。
しかも相手速過ぎ。
逃げられません。
さて、どうしようかねぇ。
何も浮かばなければ次回の予告は……
『次回・幸典死す!』
デュエル待機!
になりそうだ。
ま、なんとかしますよ?
しないとお話し終わっちゃうもの。
なので次回も期待しててな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます