4-5

美羽は乗ってきた電車で

来た道を引き返す

時間は既に6時半をまわっている


焚人の住むアパートがある街に

さよならを告げた街に、もう一度足を踏み入れた


泣きながら通った坂道は、さっきは宙に浮いているように感じたが


今は自分の未熟さと、無神経さの罪悪感の圧で、この道の一歩一歩が重く感じていた


焚人は田舎に帰る為に、高速バスに乗ると言っていた

美羽はバス停の場所は把握出来ている、アパートから一番近くて


大きな公園を挟んだ先に、一つある


そこに焚人が居ると信じて、一心不乱に走っている

胸の鼓動が、秒針の律動の早さを通り越した


バス停に着くまでの間、さっき香に読まれた焚人のメッセージを美羽は思い出していた


[この自分の試験がクリアできたら美羽と結婚したいと思ってました

手遅れみたいでしたけど、でも、最後に美羽が腕を出してくれた時、嬉しかったです

今から別れるのに、そんな相手にも気を使える美羽に、嫉妬さえ感じるくらいでした]


息が荒々しくなってから五分。。

バスに乗ろうとしている焚人を見つける


残り数十メートル先のバスに、自分の靴を投げつけて


それを拾った焚人が美羽に気付いた。。





(何してるの?栗田さん。。)


名字で呼ばれると胸が痛みだした

それゆえに、言いたいことも、伝えたいことも躊躇してしまう


(全部。。聞いた、理由も香との誤解も)


焚人の顔を直視できなかった、もう一度名字で言われたら

きっと。。直ぐに涙を流す


でも焚人はそれを見たら、また本心を隠すことは解りきっている


(そうか。。もう知ってるんだね、ちゃんと本人の口から聞きたいよね。。)


(聞きたい!)


私は、どんな内容とか、それがどうゆう気持ちからとかは考えず

ただただ、焚人を止められるならと、時間を作っていた


(実はね 栗田さん以外の、昔の恋人にも、この癖はしてて

僕は直ぐに気付いたんだ。。浮気だって)


浮気と言われて

私のお腹がチクチクした、焚人もそれを知ってる上で

向き合おうと話してくれているのが伝わる


(その人は、何度も浮気をしたし、別れたんだ

次の人も三ヶ月には、浮気してた、僕は女の人はそうゆうものだと思う事にした

だから、栗田さんの時も、腕を舐めてた、いつするんだろうって思いながら)



焚人が今、話している昔の内容は、香との話には無いものだった。。

バスの運転手の人が迷惑そうに私達を睨み付ける

焚人は次のバスに乗ると言って、頭を下げている

バスが段々と遠くに見える様に


私は、栗田と呼ばれる度に、焚人の心が離れていってる気がしていた。。


(でも、半年過ぎても栗田さんは裏切らなかった、一年過ぎた頃

失いたくないって思った、信じたいって。。だけどやっている事は同じで、自分が嫌で

栗田さんまで、その人達と同じに思いたくないのに。。どこかで信じてなかった

だから、僕に栗田さんを攻める資格も、愛する資格もないと思う)


私は、その謝罪を聞いたら、もうやり直す事が出来ない、そんな気がした。。


(ごめんね。。それじゃ元気で)


その場から去ろうとする焚人に私は、意固地になるのを止めて想いを吐き出していいた


(なんで、さよならになるの!私は! もう全部知ってるの!その上でここに来たのに。。)


今までも伝わらずにいた物を遠回しな言い方で、心の中で、伝わって欲しい、そうゆうのは今の自分には要らないんだと、真剣に焚人を見つめて言葉にした


(私は。。全部欲しい、ズルいんだ、でもこれからは分かってあげられる人間になりたい。。だから今は私の為に傷ついて欲しい!同じ分だけ私を傷つけてほしい

そしたらもっと大切にできると思うから)


焚人は素朴な笑顔のまま、両腕を広げて待っていてくれた

私はその慣れ親しんだ、安らぎの中に飛び込んで、焚人を抱き締める


(浮気してごめんなさい!いつも自分の事ばかりでごめんね?)


(ううん。。そこまで追い詰めたのは僕だ、お互いに良い意味で、遠慮がちだったのかもしれない。。)


同じ様なことを焚人に言われて、少しむくれてしまう。。似たようなセリフを聞いたいるから


(香も同じことを言ってたよ? やっぱり少し気がある。。?)


私は冗談混じりな事を、手を繋ぎながら口にする


(うーーん。。それはないよ?香さん好きな人居るみたいだし)

焚人もいつもの自然な受け答えをしてくれる、それがどんなに幸せな事だったのか今なら解る


美羽は想像した、カラオケに行った日の事を

そして、今度は香の力になりたいと思った


(そういえば、家、どうしよう。。美羽は。。どうするの?)


焚人が下の名前を呼んだ


(じゃーさ。。とりあえず暫くはホテルとか?)


改めて、寄りを戻した事を実感すると、恥ずかしくなった

焚人が適当な会話で広げる


(ホテルの朝食も美味しいもんね?)


(うん、だよねー。。そう言えばさ?。。焚人は絶対味覚とか、なんで黙ってたの?)


美羽の質問に対して

自分の頭をポリポリと掻いて、申し訳なさそうに笑いながら答える焚人


(ははは。。ほら美羽さん料理とかしづらくなるかなーって)


思い当たる節がたくさんある、以前、手料理を誤魔化したことがあったからだ


(これからは。。出来合いは やめるね?)


(でも、美羽にご飯作るの好きだから、一緒に作ろうよ)


焚人は、女としても、人としても

まだまだ未熟な私を受け入れてくれる


今の私なら、彼が私を舐める理由をこう思える


(愛だねー?)


(ん?どうしたの美羽?)


(なんでもない、て言うかさ、舐めるなら 別に腕じゃなくても良いじゃない?)


(例えば?)


私は、不思議そうにこっちを向く彼に

笑顔で答えた


(キスでも良いんじゃん?)


(!!!。。)


照れ隠しで口ごもっていた焚人は

私の腕を掴んだ

そして、片足を着いて私の左手の甲にキスしてくえた

そのあとに嬉しい言葉を言ってくれた



(いつか結婚しよう、美羽)

(・・うん、私もいつかしたい)


夜の電灯の下で

キスをされた左手の薬指が光った

美羽の中ではそれは

婚約指輪と同じに観えた







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彼が私を味見する理由 @kakukakusikasikaku

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