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「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と萠が悔しそうに声を出す。しかしもう遅い。聡一の膝はあたしが占領していた。
「マリア、ずるいずるい」
何と言われてもあたしは動くつもりはない。
「萠……猫と喧嘩しなくてもいいだろーが」
と苦笑が止まる。萠の目は真剣だ。
「だってだって、私、この一か月、聡一の膝枕やってないもん!」
「萠、大きな声で言うな。お袋に聞かれたらどうするんだよ」
「だってぇ」
今にも泣きそうな声で反論する。でも、あたしは膝を譲る気は無い。やれやれ、とそれを見たルルは小さく笑んで部屋の中に入ってくる。
「そこまで萠をイジメなくてもいいだろうが」
と苦笑する。あたしも苦笑いを浮かべ、膝から飛び下り、ルルの傍によった。
「仕方無いからアンタで我慢してあげる」
「何だそりゃ」
とルルは笑ったが、抵抗はしない。
あたしは、ルルの傍に擦り寄りつつ、聡一の顔を見上げた。あたしの名前がマリアだという事をルルが教えてくれたおかけで、彼はあたしのことをマリアと呼ぶ。
だからあたしも敬意はらって、聡一と萠という二人の人間の名前を憶えた。
あたしは猫の言葉で二人に小さく告げる。
スキスキ、ダイスキ、アイシテル。
伝わらなくてもいい。理解してくれなくてもいい。これがあたしの気持ちだから。
反泣きしつつ、聡一に膝枕される萠が、あたしを見た。そして涙を拭い、にっこりと笑う。
「私もだよ」
と照れもなく言う。あたしも照れもなく同じ言葉を囁いた。
外から近所の子供達の声がする。
『待ってよぉぉぉぉぉぉぉぉ』
と言う声。
そして、猫の鳴き声。あの声はアリアの声のような気がした。どことなくイタズラめかした笑い声。
――また会える。
『魔女』の二つ名をもつあたしが、そのうちなんか待っている訳がない。『騎士』の二つ名をもつ彼もまた興味は同じようだ。あたしとルルは躊躇せず、窓から子ども達を追いかけた。
アリアが百合ちゃんへ帰る瞬間を見届けるために。
もうあの夢は見なくなった事をアリアに教える為に。
アリアもあたしが大好きなヒトタチの一人だという事を教えるために。
猫の騎士譚 尾岡れき@猫部 @okazakireo
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