[2] コルスン=チェルカッシィ包囲戦(前)

 第1ウクライナ正面軍(ヴァトゥーティン上級大将)と第2ウクライナ正面軍(コーネフ上級大将)による最初の2つの作戦―「ジトミール=ベルディチョフ」作戦と「キーロヴォグラード」作戦はドニエプル河東岸の橋頭堡を拡大するという、今までの作戦の延長上に位置するものであった。

 12月24日、第1ウクライナ正面軍が「ジトミール=ベルディチョフ」作戦を発動した。第1戦車軍と第3親衛戦車軍が第4装甲軍(ラウス大将)と第1装甲軍(フーベ大将)の間隙を突破し、一部はプリピャチ沼沢地の中に入り込んで中央軍集団との連絡を遮断することに成功した。

 1月5日、第2ウクライナ正面軍が「キーロヴォグラード」作戦を開始した。目標に指定されたキーロヴォグラードの市内では、第8軍(ヴェーラー大将)に所属する第47装甲軍団(フォアマン中将)の一部が包囲されてしまった。第47装甲軍団は「大ドイツ」装甲擲弾兵師団と包囲網の内部にいた第3装甲師団によってソ連軍の包囲を突破し、キーロヴォグラードからの脱出に成功した。

 ソ連軍の一連の攻勢により、キエフ南東のコルスンとチェルカッシィを結ぶ線で、南方軍集団の戦線は第1装甲軍と第8軍が北東に向かってドニエプル河沿岸に大きく湾曲していた。幅125キロ、深さ90キロに及ぶその巨大な突出部は皮肉にも、ソ連軍がヴェリキイ・ブクリンで最初にドニエプル河を渡河して橋頭堡を造った場所であり、ドイツ軍の「東方防壁」の最後の残滓だった。

 南方軍集団の情報部は切迫したソ連軍の攻撃日時と場所は把握できなかったが、コルスン突出部でむき出しの部隊に対する包囲作戦は遅かれ早かれ開始されると予測していた。マンシュタインは陸軍総司令部を通じて、ヒトラーに対して「東方防壁」からの部隊の撤退を進言したが、その要請は拒否された。

 現地を視察した最高司令官代理ジューコフ元帥はドニエプル河から250キロも北西に延びていた第1ウクライナ正面軍の南翼にとって、コルスン突出部が潜在的な脅威になりえることを鋭く感じ取っていた。突出部を足がかりに、キエフとキーロヴォグラードへの奪還を行える可能性がある。この背景は、43年12月のコロステニとジトミールへの進撃中に、敵の第四装甲軍が行った強力な反撃があった。

 そのため、ジューコフは急きょ第8軍をコルスンで包囲しつつ、敵の反撃を排除する二重包囲作戦を「最高司令部」に提案した。モスクワの「最高司令部」はジューコフが提案した作戦を承認し、現地で作戦指揮の監督を行うよう指示した。その間に第2ウクライナ正面軍はクリヴォイローグの周辺に展開していた主力部隊を100キロ北方に移動させ、包囲作戦の準備を整えた。

 1月24日早朝、第2ウクライナ正面軍の第4親衛軍(リューショフ少将)と第53軍(ガラーニン中将)はチェルカッシィ付近から攻撃を始め、第11軍団(シュテンマーマン大将)の陣地を突破した。第5親衛騎兵軍団の支援を受けながら、第5親衛戦車軍が翌25日に真西に向かって突進した。

 1月26日、第1ウクライナ正面軍は新編成の第6戦車軍(クラヴチェンコ中将)と第40軍(ズマチェンコ中将)が、ブクリンの南西から第7軍団(ホルン中将)と第37軍団(リープ中将)の間隙を突破した。

 1月28日、第6戦車軍の先鋒を担う第20親衛戦車旅団がスヴェニゴロドガ付近で、第5親衛戦車軍と合流を果たした。この接続により、コルスン=チェルカッシィの地区でソ連軍の2個正面軍によって薄い包囲網が造り上げられた。

 この日の夕方、東プロイセンから戻ったマンシュタインは麾下の2個軍団(第11・第37)がソ連軍の戦車部隊によって包囲されたという報告を受けた。さらに、「チェルカッシィ包囲陣」となる地域に閉じ込められた2個軍団は異なる上級司令部に属していた。部隊の調整に混乱を来すことが考えられため、マンシュタインは第1装甲軍に所属する第37軍団に対し、第11軍団と同じく第8軍の指揮下に入るように命じた。現地の指揮は第11軍団長シュテンマーマン大将が執ることになった。

「シュテンマーマン集団」と呼ばれる包囲下の部隊には、約65000人の兵員が所属していた。定員半数の4個歩兵師団(第57・第72・第88・第389)と1個支隊(軍団の半分に相当)、第5SS装甲師団「ヴィーキング」(ギレ少将)も含まれていた。

 ソ連軍の指揮官たちは、情報部の評価から10万人を超えるドイツ軍の兵力を包囲したと信じていた。第2ウクライナ正面軍司令部の参謀将校はこう回想している。

「これは第二のスターリングラードになる。今度もまた、逃れることは出来ないだろう」

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