[3] コルスン=チェルカッシィ包囲戦(後)

 マンシュタインはコルスンで包囲された部隊を救出するため、第3装甲軍団(ブライト大将)と第47装甲軍団の麾下に多数の装甲部隊を集めた。だが、ヒトラーは「いかなる代価を払ってでもドニエプル河を死守すべし」と厳命し、「チェルカッシィ包囲陣」へ補給物資の空路補給を行うよう、作戦の変更を余儀なくされた。

「チェルカッシー包囲陣」への空路補給は1年前のスターリングラード攻防戦と異なり、大きな成功を収めた。ドイツ空軍は総計で医薬品4トン、弾薬868トン、燃料約8万ガロンを空輸した。東部戦線におけるドイツ軍将兵の士気が考慮されたため、一部の上級指揮官と約4000名の負傷者が後方へ送られた。

 2月5日の夜、第2ウクライナ正面軍司令官コーネフ上級大将は3個軍(第4親衛軍・第27軍・第52軍)に対して包囲陣内を間断なく叩くよう命じ、これらの部隊は1週間後にコルスンの飛行場を占領した。残存するドイツ軍が隠れている拠点に対して、第2飛行軍が焼夷弾による空襲を行った。

 2月11日、救出部隊である第3装甲軍団と第47装甲軍団は進撃を開始した。第47装甲軍団は第5親衛戦車軍の反撃を受けてほとんど前進できなくなってしまったが、その北翼を進む第3装甲軍団は第6戦車軍の前線を突破することに成功する。

 2月13日、シュテンマーマン集団は包囲陣の北方に展開する部隊をコルスンから撤退させ、包囲陣の南西部に位置するシャンデロフカを占領した。時を同じくして、第3装甲軍団の先鋒をゆく第1装甲師団(コル少将)がリシャンカ北東の239高地に迫った。包囲陣内のシュテンマーマン集団との間に残された距離は約8キロだった。

 2月16日、スターリングラードの惨劇を繰り返すつもりは無かったマンシュタインは集団司令官のシュテンマーマンに対して無線連絡を行い、脱出命令を下した。

「合言葉は自由。目的地はリシャンカ。2300時」

 この日の午後11時、シュテンマーマン集団は脱出を開始した。「パンター」や「ティーガー」を装備するベーケ重戦車連隊の支援を受けて第1SS装甲師団「LAH」(ヴィッシ少将)がリシャンカへの回廊を保持している間、集団の前衛は第5SS装甲師団「ヴィーキンク」が、後衛は2個歩兵師団(第57・第88)がつとめた。シュテンマーマン自身は後衛と行動を共にした。

 スターリンから包囲したドイツ軍の殲滅を求められたコーネフは、第4親衛軍と第27軍に攻撃を命じた。ドイツ軍の突破を阻もうと、第4親衛軍と第27軍は容赦ない攻撃を加え、シュテンマーマンは退却戦の最中に戦死してしまった。

 2月17日、第3装甲軍団とシュテンマーマン集団は合流した。包囲された兵力のうち35000人の将兵を包囲網の外へ脱出させることに成功し、同月19日に救出作戦を終了した。包囲から逃れることのできた部隊は多数の重装備と兵員を失い、再編成を行うため後方に送らざるを得なくなっていた。

 しかし、南方軍集団の注意が「チェルカッシィ包囲陣」に注がれている間に、第1ウクライナ正面軍は新たな攻勢を開始していた。プリピャチ沼沢地の南翼に伸びきった南方軍集団の北翼に対して、「ロブノ=ルーツク」作戦を発動したのである。

 1月19日、第13軍と第60軍は2個親衛騎兵軍団(第1・第6)の支援を受けて、戦車が行動不能な湿地帯を突破して、ドイツ軍の後方陣地を混乱させた。第1ウクライナ正面軍は2月11日までに、作戦目標であるロブノとルーツクを奪取した。

 もっと南方では、第3ウクライナ正面軍(マリノフスキー上級大将)と第4ウクライナ正面軍(トルブーヒン上級大将)が、ドニエプル河大彎曲部の対岸に布陣したA軍集団(クライスト元帥)に対する大規模な攻勢に乗り出した。

 1月30日、第3ウクライナ正面軍と第4ウクライナ正面軍は「ニコポリ=クリヴォイローグ」作戦を開始した。第3ウクライナ正面軍の第8親衛軍が2月1日までにニコポリ北方の前線を突破して、橋頭堡の背後に進出した。この戦況に対し、ニコポリの防衛を担う第6軍の第40装甲軍団(シェルナー大将)は包囲される危機に直面した。

 第40装甲軍団長シェルナー大将はヒトラーの許可を待たずに、橋頭堡を放棄してドニエプル河西岸への撤退を決断した。ニコポリ西方に退路を確保した第6軍は2月15日の夜に、1500名以上の負傷者を連れて後退に成功した。

 ウクライナにおけるドニエプル河東岸に対する5つの作戦によって、2月末までにドニエプル河の全ての線でドイツ軍は完全に掃討された。ドニエプル河南部の防衛線を奪われた南方軍集団は、ウクライナの広大な平原で各個撃破される危機に瀕していた。

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