[4] ソ連軍の配置状況

 クルスク突出部でドイツ軍の攻勢を待ち受けるソ連軍は、北部戦域では中央正面軍(ロコソフスキー上級大将)、南部戦域ではヴォロネジ正面軍(ヴァトゥーティン上級大将)、両正面軍の後方にステップ軍管区(コーネフ大将)を展開させていた。

 北部戦域の中央正面軍では、前面に第13軍(プホフ中将)と第70軍(ガラーニン中将)、後方に第2戦車軍(ローディン中将)を配置していた。

 南部戦域のヴォロネジ正面軍では、前面に第38軍(チヴィソフ中将)、第40軍(モスカレンコ中将)、第6親衛軍(チスチャコフ中将)、第7親衛軍(シュミロフ中将)を配置し、後方には第1戦車軍(カトゥコフ中将)と第69軍(クリュウチェンキン中将)が布陣していた。

 中央正面軍とヴォロネジ正面軍の後方には、戦略予備としてステップ軍管区が6個軍(第27軍・第47軍・第53軍・第4親衛軍・第5親衛軍・第5親衛戦車軍)を統轄していた。どちらかの戦線が突破された場合には、直ちにステップ正面軍に格上げし、反撃に参加することが定められていた。

 クルスク突出部の航空支援として、中央正面軍には第11航空軍(ルデンコ中将)、ヴォロネジ正面軍には第2航空軍(クラソフスキー中将)が割り当てられた。総兵力は兵員111万5700人(後方支援部員を含む)、火砲1万4300門、航空機1915機、戦車・自走砲3028両を集結させた。ドイツ軍の戦力比は兵員と火砲で1・6対1、戦車と自走砲(突撃砲)、航空機はほぼ互角であった。

 戦車部隊を構成する装備車両にはバラツキがあり、主力のT34中戦車とKV1重戦車をはじめ、T60やT70などの軽戦車を装備する旅団も多く存在した。また、連合国から「武器貸与法」の一環として供給された「チャーチル」歩兵戦車、「ヴァレンタイン」歩兵戦車、M3中戦車「リー」などが配属されていた。

 ドイツ軍が「パンター」や「ティーガー」を始めとする新兵器を開発している一方、ソ連軍もそれに対抗する新たな兵器を作り出していた。ドイツ軍は「ティーガー」をクルスク戦以前から東部戦線に投入しており、投入されたものの一部は不十分な訓練と湿地帯によって、戦場に放棄されてしまっていた。ソ連軍は放棄された「ティーガー」を鹵獲して、その性能を徹底的に研究していた。そして、その研究から製造されたのがT34/85とKV85、SU152重自走砲であった。

 T34/85とKV85は「ティーガー」の八八ミリ砲に対抗するため、従来のT34とKVの76ミリ砲を85ミリ砲に換装したものだったが、開発に遅れが出てクルスクの前線部隊には間に合わなかった。その間に合わせとして、SU152重自走砲が開発された。これはKV重戦車の車体に、152ミリ重榴弾砲を搭載しただけの単純な構造をした自走砲であった。SU152重自走砲は北部の3個連隊、南部の2個連隊に投入された。

 ドイツ軍の新兵器に対抗する対戦車火力の劣勢を補うため、T70の車台に76ミリ砲を固定式で搭載したSU76自走砲、T34の車台に122ミリ榴弾砲を固定したSU122自走砲が開発された。これらの自走砲も支援兵力として前線に投入された。

 中央正面軍とヴォロネジ正面軍の最前線から25キロ以内に住む全ての住民は、4月21日付の「最高司令部」の命令に従い、東方の安全な地域へ疎開させられた。これは、ソ連軍の防備状況が住民を通じてドイツ軍へ漏洩することを防止するための防諜的な措置だった。

 7月2日、モスクワの赤軍参謀本部は前線と海外から寄せられた情報を総合して、ドイツ軍のクルスク攻勢が7月3日から6日のいずれかに開始されると結論づけた。スターリンに報告があげられた際には、最後まで「敵に先手を打たせる」ことを確認した。

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