芸術大学に通っていた女が、十年ぶりに出身大学を訪れて大学時代を回想する短編です。
彼女の思い返す青春はまったく瑞々しいものではありません。しかしそれがかえって生々しく、いわゆるセピア色を思わせます。思い出というものはこういうふうに風化していくものなのだと突きつけられます。
大学はタイムカプセルで、大学に残ったゆうこは主人公のそのセピア色の青春の中でまだ生きている。
ひょっとしたら、大学も繭なのかもしれませんね。大学を出てしまった主人公はもう糸を紡げないのかもしれません。そして新しい繭を作る。それはけしてポジティブなだけではない。
浮かれきっている学園祭の中で埋没する二人の姿がだからことなおのことよりいっそう、浮き立って見えるのです。