第18話 机運び

 さて、もう放課後なのだが、今日は坂下に呼び出されていた。なんでも手伝ってほしいことがあるそうだ。あれ、既視感。内容は至ってシンプル。体育祭用に机やイスを出してほしいそうだ。生徒席や保護者席はサッカー部やソフトボール部――いずれも女子のみ――がやったので、あとは本部の長机などを出せばいいらしい。会議室に着いたら、外に置くのでなるべくボロそうな机を探す。三つほど目星をつけて、脚を畳んだ。後は坂下と二人で持ち上げて持って行くだけ……。

「ごめんね、力仕事のときだけ呼んじゃって」

「なーに、そのために男子生徒がいるんだろう。使ってもらわんと困る」

 別に使ってもらわなくても困ることはないが、なんとなく調子に乗って口が滑った。まあ、相手が坂下だからそれを言質にこき使われることはないだろうが、これが楠木や三浦だったら大変な惨事になっていただろう。見栄を張った発言に対して、坂下は小さく笑い声を漏らしただけだった。

 さて、机を一個校庭に運び出し、残りは二個というところなのだが、この運び出す作業がなかなかに重労働で、片道を来ただけで坂下も俺も額に汗を滲ませていた。

「だいぶきついね~……。誰か先生に手伝ってもらおっか?」

 ここで音を上げていては男が廃る、俺が一人で持ってくる、くらいのことは言いたいものだが、正直、この机は重すぎて一人ではとてもじゃないが持ってこれない。仕方なしに俺は先生の手を借りることを了承した。

 だがしかし、来た助っ人はひょろながの男性教師一名。一名だけじゃなんもできんだろ。結局俺とそのひょろなが教師の二人で、20分近くかけて残りの二つを運んだ。ひょろながに机の半分を持てる程度の力があってよかった。

「お疲れ様~」

 すっかり疲れて屋根のある渡り廊下の階段にひょろながと腰掛けていると、坂下が缶ジュースを持って立っていた。校門の前の自販機から買ってきたのだろう。

「お、サンキュー」

 プルタブを開けて一口飲むと、日に照らされて熱くなった体が内側から冷やされる。坂下はひょろながにもジュースを渡して、俺の隣に座った。

「遂に明日だね~」

 着々と準備の進む校庭を見て、坂下は目を細める。そういえば、高校に入学して初めての行事にあたるのか。

「じゃ、私委員会の仕事あるから」

 坂下はそう言うと、慌ただしく立ち上がって走り去っていった。さあ、明日は体育祭である。

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