第11話 長縄の練習
体育祭も近付き、俺も放課後に三浦たちと騎馬戦の練習をして毎日フラフラになって帰っていた。今日も今日とて帰ろうと思えば、なんだか校門の近くで聞き覚えのある声がするじゃないか。
「痛っ……すすすすいません!」
「ちょっと~、まだ二回しか跳んでないよ~?」
目をやれば、そこには楠木と坂下、そして宇佐美の三人がいた。楠木と坂下が長縄の縄を持ち、宇佐美が跳んでいるようだ。
「うちが練習できないじゃんよ~」
「ご、ごごめんなさい……」
「困ったわね……あ、大岩くん、いいところに!」
テンプレのような台詞を浴びせられる。おいおい、嫌な予感しかしないぞ。お察しの通り、嫌な予感は見事に命中、騎馬戦の練習の後だというのに長縄の練習にも付き合うことになっちまった。
状況を簡単に説明すると、楠木と宇佐美が長縄の練習をしたいのだが、手伝える人が坂下しかおらず、楠木と宇佐美が交代して練習すればいいと思って始めたものの、宇佐美が下手過ぎて交代できない……ということらしかった。
「だから私と大岩くんで縄を回せば一件落着なの」
「あー……それは分かったが、結局宇佐美が上手くならないと勝てないんじゃないか?」
「……ごめん……なさい」
俺の言葉をどうとったのか、宇佐美は完全にしょんぼりして、今にも泣きそうな顔をして謝ってきた。
「いや、別に責めてるわけじゃねえよ……練習して、上手くなればいいだろ?」
俺が誰かを励ますだなんて柄にもない。天変地異でも起こるんじゃないか?俺のぶっきらぼうな物言いにも関わらず、宇佐美は口角を上げ、やはり小さな声で「ありがとう……」と言った。
「じゃあ早速やりますか」
楠木から縄を受け取り、掛け声で坂下と回し始めた。先に楠木が中へ入る。あの引きこもりみたいな髪型をしているくせに運動神経はあるようで、縄に掠ることもなく中に入り、宇佐美に入るよう合図している。
一方の宇佐美は恐怖心があるのか、なかなか入ろうとしない。そして、決心をした顔をして入ったと思っても、すぐにリズムが崩れ、足が縄にぶつかってしまった。
「あ~もうまた~」
「うぅ……ごめ……なさ……」
「大丈夫だっつーの、入るとこまではできてんだから、後はリズムの問題だろ?何回も繰り返しやればできるようになるっつの。ほら、もっかいやるぞ」
ここまでくさい台詞を吐くのは生まれて初めてのことかもしれない。妙な感動を覚えつつも、その日は日が暮れるまで縄を回し続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます