第4話 根暗適当系
そんなこんなで、やっと体育の次の授業が始まったわけだが、俺としたことが教科書を忘れてしまったらしい。いや、資料集はあるしノートもあるのだが、教科書だけない。いや~、家で予習して忘れてきてしまったらしい。本当だぞ?俺はこう見えて優等生なのだ。成績が伴っているわけではないが。
さて、そういうわけで隣の奴に教科書を見せてもらわねばならないのだが、前にも言った通り、鈴川以外のクラスメイトの名前は一切分からんのだ。だが、名前が分からないなりにやりようはあるのだよ。
「なあ、教科書貸してくれないか?」
別に呼び掛ける時に名前を呼ばなくてはならないなどという決まりはないだろう。それに相手も「あ、いいよ」などと言って不信感も持たずに見せてくれるに違いない。
「ん?」
「え?」
何故だ、何故聞き返された。もしかして聞こえなかったのか?ならもう少し大きな声で言ってやろう。
「教科書貸してくれ」
「なんで?」
「なんでって……忘れたからだよ」
「それでなんでうちが貸す必要あるわけ?」
こいつ……これっぽっちも貸す気がないらしい。くそ、長く黒い前髪の中からやたらと睨んできやがる。これが世に言うジト目ってやつなんだろうが、あんまり心地いいものじゃないな。
「貸してほしいんなら『貸してくださいアカネさん』くらい言ってくれないとね~」
なんだこいつ……アカネ?自己紹介をちゃんと聞いてたわけじゃないからなんとも言えないが、アカネなんて名はこれっぽっちも覚えてない。しかし、言うことを聞かなければ余計に面倒な状況になるのは目に見えているため、言うことに従うことにした。
「教科書を貸してくださいアカネさん」
「むふふ……よろしい」
むふふってなんだ、むふふって。どこのロリキャラの笑い方だよ。教科書の裏をちらって見ると、俺並みに滅茶苦茶な字で「楠木茜」と記してあった。そういやあ、自己紹介で一言しか言わなかったやつが俺を含めて二人いたはずだが、もしやそれがこいつだったんだろうか。それにしても、一体全体このけだるそうな授業態度を、先生はどう評価しているのか。
教科書も落書きだらけだ。少女マンガみたいな目のでかいキャラクターが所狭しと……。
「落書きばっか見ないで本文見なよ」
言われなくたって分かってます!その後も楠木からのいじりはその時間が終わるまで続いた。つらい。
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