第26話 異世界へようこそ4

 賑やかな食事の時間も終り、一同が満足感に浸っている。この時間が永遠に続けばいいと、心の隅に仕舞った。


だがしかし、イーには重要な問題がぶら下がってる。剣と魔法の修練、狩りに家事と励んでいた彼は、元の世界での事情を忘れていたのだ。


 「あの、師匠。お話が……」


 「何じゃ?言うてみい。」


連日の肉食により、いつもよりか機嫌の良い返しがきた。これならばと期待を込めて提案した。


 「ちょっと、向こうの行事が迫っていて。暫く写本の手伝いを休みたいなーって……」


 「ほう、行事とな?理由次第では考えてやらんでもない。」


 「えっと、その……試験が迫っていて、勉強しないと。」


 「試験?どんなの?何か特別な?」


リーベスさんが割って入る。やはり向こうの世界の事情が気になるのだろうか。


 「学校で定期試験があるんです、これが成績にとても関わってきて。」


 「イー君学生だったの!?」


目を丸くし大げさに驚かれる、そんなに予想外の事なのだろうか。


 「まあ読み書き、古式語にも詳しかったしのう。まさかとは思うていたが……言葉以外にも習っとるんか?」


 「ええ、まあ、色々と。」


この流れは不味い、オーマの知識欲を刺激する内容だ。


 「それは置いといて、試験と言うか課題と言うか大事な行事があるので、暫く写本をの手伝いを辞めたいです。」


 「うむむ、しゃあないの」 


 「それともう一つ。その、ガラス玉売らないって話を前に……。」


ガラス玉で金策を止められた代わりに、金は準備すると約束したハズなのだが、

一向に貰える気配が無い。


正直オーマ達の生活を鑑みるに、そこまで裕福な現状ではないのだろう。催促はしたくなかったが、こちらもお土産で財布の中が厳しい。


 「おおそうじゃった、忘れた忘れてた。仕方ないのう。」


のそのそと立ち上がり自室に向かっていく。学生の話は忘れているだろうか。


 「ねえ、何の話?ガラス玉って。」


 「そっかリーベスさんには知らせてなかったっけ、この前お土産と一緒にガラス玉を沢山持って来たんですよ。」


 「沢山ってどのくらい?あの形ならそうねえ……50個位あったら嬉しいわね。」


 「確か2000個かな?狩りで石替わりに使ってるので少しだけ減ってますが。結構お金になると思ったんだけどなー。」


 「そうッそれは残念だったわねヘェ!」


 「……どうかしました?さっきの肉で喉痛めちゃったとか。」


 「大丈夫平気平気!ちょっと違和感あるけど平気だから!」


明らかに反応が怪しい、やはり価値がありそうな素振りだ。今度隠れて村にでも持っていこうか。


 「……その、イー君?」


 「なんです?」


 「狩りに、ガラス玉使うのは辞めた方が、いいんじゃ……?」


 「そうですかね、石より形が整っていて撃ちやすいですし。」


 「うぐぐ……」


確かにここまで言われると勿体無い気がする。彼女もこう言ってるし、とっておき以外で使うのはやめとこうかな。


 「ほら、持ってきてやったぞ、喜べ小童。」


 「私はこれでっ先に片づけしてるから!」


2人が入れ替わり、オーマと対面する。億劫そうに懐からもぞもぞと取り出した。


 「こんなもんじゃろ、これがオヌシの世界で通用するか分からんが……用意出来たのだこれじゃ。」


カチカチと金属の擦れる音と一緒に手に乗せられる。金色の硬貨2枚が手の中にあった。


たしか食料を買いに行った時、大きなパン数個の値段が……ハンカ?だった様な。


 「何奇妙な顔しておる。それだけあれば十分じゃろて。」


記憶を辿ってると軽く諭される。まあ売らずに置いておくだけで代金くれるのならいいのかな。


 「これって金、ですよね?金属の。」


 「ん、そうじゃよ。オヌシの世界でも馴染みの深いものか?」


 「そう、ですかね。これってどうやって作っているんですか?とても綺麗な出来栄えに見えます。」


硬貨を裏返しながら観察する。見た目よりも重く、そして表面には整った模様と何かの動物だろうか、細かく描かれていた。


 「国から発行されてるもんじゃよ、お抱えの魔法使い達がせっせと作っておるわ。出来栄えは見ての通り、偽造もされにくいから価値も高い。」


 「これ魔法で作ってるんですか!?へぇー……。」


こっちの世界にも負けてない代物に見える。感心してる様子を見たオーマの口が軽くなった。


 「魔法が人の技にもなって幾年、国は豊かな待遇を約束し城へ招いた。その中でも土や石、鉄の才ある者達が集められ、更に力のある者が選りすぐられ、それを更に更に選んだ。その一族達が国お抱えの魔法使い達よ。」


なんだか予想以上に話が大きくなってきた。もう夜なので勘弁してほしい。


 「勿論他の魔法使い達も蔑ろにはしなかった。異常な程この国は早くから魔法使い達をこき使おうとしたのう、あいつらと会ったのもその頃か。」


 「あいつら?」


声色の変化に気づき思わず漏れる。


 「いや何でもない、金を抽出、加工する技は国独占、未知の魔法として扱われておる。小童のしょうもない雷も見せびらかすんじゃないぞ。」


 「え?あ、ちょっと!?」


酷い評価を残すとそそくさ自室へ戻ってしまった。徹夜になるかと気が滅入ってたからありがたい。


とりあえずおガラス玉代も貰えた、しかも金だ。顔に嬉しさを出さないように金貨をじっくりと観察したのが良かったのか、夕食後の時間帯が良かったのか、ばれた様子は無い。


純金って事は無いとは思うが、この大きさの金貨2枚。向こうで換金したら結構いい金額になるんじゃないかな!ガラス玉代なんて余裕で取り戻せるだろう、少しずつ金貨せびって換金すれば凄い収入になるんじゃないか!?


 「来てよかった異世界……!」


口の中で小さく呟く。喜んでないで早くリーベスさんと後片付けしなくては、今日は寝れるかなぁ。


片づけ、明日の準備も済まし、何を買おうかと布団の中で考える。しかし何も浮かばず、いつも通りすぐ意識は遠のいた。


 朝になり稽古の支度、と思ったが先に戻って換金を済ませよう、適当に見なりを整え、門を通る。






 「えっと今何時だっけ、スマホ、は爆発したっけな。」


置時計とカレンダーを確認する、12時が半分以上経過してた、天気の良い日。今日が休日だったらなぁ。


 「昼休みに抜け出してきたんだったァ!?」


慌てて脱ぎ捨てられていた制服に袖を通す。今から行けば授業には間に合うだろうが、向こうで朝食を食べてけば……ああそっか、急ぐ必要ないか。


制服を持って門を通る、あっちで着替えて飯食ってから学校行けばいいや。







 着かけた服を脱ぎ、異世界装束に直す、やはり朝起きたらすきっ腹で運動するに限る。


変な習慣が身についてしまったが仕方ない。動いた後に食べると美味しく感じるし。


戻ったらこっちで役立ちそうな本を学校で借りようかな?写本休んでる埋め合わせもしないと。何か面白そうな本あるかな。



---本当に気楽に考え過ぎていた、少し考えれば分かる事だったろうに---

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異世界暮らしていけますか? じゃーまん @Ja-man

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