第25話 異世界へようこそ3

 「ヤバイヤバイヤバイ!!?」


ヤバイ全然勉強してない。授業も向こうが気になり真面目に聞いてなかった、洒落にならない。


水を操り電気流したり、刀の腕も上がった、鳥だって捌ける。けどテストには全く役に立たない!


時間の余裕はあるが、この数か月間まともに勉強してないのは非常に不味い。テスト範囲もおぼろげになり、ますます不安が募る。


とりあえず机に広がっている勉強道具を乱暴にかき集める、向こうで少しでも勉強しないと。


 「理系は、見せたらダメな気がするッ!文系……歴史も危険そうだからァ~」


かき集めた教科書を急いで分別する、ある程度隙を見て理系は勉強しよう。


 「まだ間に合う時間は無限に存在している!」


出来る限り本を持ち出し、上に内臓袋を乗せ再び異世界へ戻っていった。




 「とりあえず勉強を……ああもう夕食前じゃん!?」


内臓を取りに行く為戻ってたのを思い出し、表情が苦くなる。それに夜になれば写本の時間だ。


仕方がないので夕食後の勉強は諦め、内臓調理に取り組む事にした。


 「お湯沸かしたけど、どうするのこれ?」


台所に向かいリーベスさんに尋ねられる、鍋にはグツグツとお湯が煮えたぎっていた。


 「火を消して、少しだけ冷ましてから丸ごと入れるんですよ。そうすると羽が抜けやすくなる、らしいです。」


 「本当に大丈夫なの?まあいいわ、取って来たのイー君だし。」


 「足を持って鳥を潜らせてください。あ。火傷しないように!」


こっちも調理を始めよう。門の向こうに放置していたので、鮮度はとても良い。これなら臭みも少ないハズだ。


心臓を肝臓を切り離し、白い部分を切り捨てる。中を開いて血をしっかりと洗い直し、これで心臓は終り。


次は砂肝?これも白い部分を切り捨て、残った肉に適当に包丁を入れる。


最後は肝臓、心臓と繋がっていた部分をしっかりと、それ以外を軽く洗い、食べやすい大きさに切って完成!見てまねただけだが、中々上手く出来た、と思う。


リーベスさんも熱ち熱ち言いながら、鳥の羽をむしり終えていた。最初に皮で抜いていた時より格段に速かった。


 「羽捨ててきますね。あっちょっとだけ皮を切り取っておいてください!」


 「わかったー。」


川に羽とお湯をまき、急いで台所へ戻る。内臓はとりあえず焼いてみよう。


 「リーベスさん、火をお願いします。」


 「はいはい、君も早く出来るようになって欲しいわ。【付与】は出来てるじゃない。」


 「……雷は結構簡単に出来るんですけど、それ以外がちょっと。」


慣れた手つきで火打ち石を打ち当て、1発で着火させるリーベスさん。【付与】で楽に火が付けられるので、常に台所に火が付いている訳ではない。


練習は日々してるのだが、中々上手くいかない。オーマいわく炎、風の能力は破滅的らしい。


気にせず食事作りに集中しよう、俺には雷がある。


切り分けて貰った鳥皮を平鍋であぶる。しばらくすると皮から油が染み出し、それを鍋全体に馴染ませる。頃合いを見て下処理をした内臓を炒める。食欲をそそる音と香りが広がった。塩と胡椒を強めにつけしっかり焼き完成。


零れないように皿にぶちまけ次の準備、の前に味見してみよう。


心臓は1つだけ、後で移してこっそり食べよう。肝臓をつまんでみる。


臭みが無く濃厚な触感と共に、旨みが溢れてくる。簡単な味付けでよかった。


昔内臓肉を食べた事はあるが、まさか新鮮な物がこんなに美味しいなんて、狩りをして本当によかった。


顔をだらけさせながら満喫してるとリーベスさんがこちらを睨んでる事に気づく。手には包丁とぶつ切りの鶏肉が握られ、恨めしそうな表情とよく合っている。


 「あ……あの、食べますか?」


 「頂戴?」


恐る恐る皿を差し出す、だが表情は変わらず言葉が繋がれる。


 「私、今手が離せないんだけど、食べさせて。」


口が開き、顎を突き出し主張してくる。


 「えぇッ!?」 「あ、あ!」


口を開けながら催促してくる、都合悪く匙も見当たらない。せめて2本の細短い棒があれば……。


てか結構恥ずかしい体験じゃないのか、平気なのか、俺が過剰なだけなのか。ええいやってやる!


指で肝臓を摘み、ゆっくりと相手の口に運ぶ。鼓動が速くなり集中する。


 「何やっとるんじゃァ!!?」


 「うひゃあぁぁあぁ!??」


背後からの怒声、摘んでいた物を口の中に投げつける。手首のみで投げつけたそれは、奥深くへと吸い込まれていった。


 「ゲッホゲッホデッホ!!」


可愛そうに涙目になりながらむせ込むリーベスさん、それがオーマの激情を後押しした形になる。


 「コワッパァァァァ……!」


 「違う違うんです何もしていない本当ですッ!」


必死に弁明する、皿を手に取り生き残る道を探す。


 「味見、内臓肉の!両手がふさがっていたから仕方なく!!」


 「ぞうよ、だだのゲホッ味見なの……」


 「というか何で台所にいつもは手伝いもしないのに。」


とりあえず話題変換だ、間合いを惑わせ攻撃の瞬間を躊躇させる。


 「む、それは、なにやら香しい香りが……。」


 「お1つどうぞ!」


よしっいい感じに怒気が収まってきた、行ける。


 「うむ、では。」


皿の中から心臓を掴み口へ運ぶ。


 「あああちょっと待って!」


 「おおぅ、中々いけるではないか!!」


貴重な心臓がぁ、楽しみだったのに。


 「なんで心臓食べちゃうんです!?」


 「なんじゃとォ!?」


畜生怖い、また怒気をぶつけられるのはしんどいのでぐっとこらえる。


 「ぐうぅ……今日捕った、鳥の内臓です。新鮮なのは美味しいって。」


 「そぉかぁ美味いのう、こりゃ止まらん。」


ひょいひょいと次々口へ運ぶ、ちょっと待てジジイ!?


 「ちょっと私まだ食べてないのよ!?イー君早くよこして!!!」


 「一応さっき」 「ぅんまぃ!」 「早く早く!!」


次々と消えていく内臓肉、ひな鳥みたいな彼女。あああああああもう!なんだよこれどうしてこなった。


内臓肉は、机に並ぶ前に全部無くなった。

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