第24話 異世界へようこそ2

 はじめての戦闘、と言って良いのだろうか。狩りを終え、獲物を捌き風車小屋へ帰ってこれた。


なんだかとても疲れた。道なき道を歩き回っただ疲労、だけではないだろう。


 「あら、お帰りなさいイー……今日も獲ってきたの?凄いじゃない!」


中身を抜かれた肉と羽の塊に気づき、感心するリーベスさん。その様子で少しだけ心が温かくなった。


 「とりあえず、これを。それとお湯を沸かしといて下さい、それで羽の処理をします。」


獲物を手渡す、早く内臓の処理をしなくては。ここでするより家でやった方がいいかな。

 

 「え、ええ分かったわ。大丈夫イー君?暗いわよ?」


 「それじゃ、俺は内臓の下ごしらえしてきます。」


 「内臓?ちょっとイー君ってば!?」


そのまま下に降り、自宅へ帰る。そういや向こうは昼かな、夜かな。




 どうやら昼だった、確か……学校を抜け出して帰って来たんだっけ?記憶が曖昧になっている。


今度から向こうに行く前にメモでも残しておくか、スマホが爆発したのは痛い。


時間があれば動画をおさらいし、内臓処理をする気だったが、休み時間中なので浪費は出来ない。夕食前になるまでこちらで保存するか。


 「冷蔵庫……」


呟いて気づく、あっちとこっちで時間が進まないなら、冷蔵庫に入れる必要も無い。気が引けるが机の上にでも置いて戻るか。


 「やっぱアレ、ゴブリンだよな。」


川辺で出会った緑の小人、ゲームに出てくるようなモンスター、大体雑魚敵として登場する弱い存在。


しかし、いざ対峙すると恐ろしくて仕方なかった。自分とは異なる存在、まして敵意を向けられるのがあんなに怖いなんて。


 「異なる存在……」


食べ物、動植物、魔法、ちょっと考えれば違いはいくらでも出てくる。


改めて異世界なんだなぁと実感した。


 「そうだ、ゴブリンの事オーマに知らせないと。あと……お土産。」


台所に向かい、適当なスナック菓子を袋事持っていこう。特別な食べ物とかありがたく言えば、多分信じてくれるだろう。




 菓子を携え、オーマの部屋の前へ。しかしいつも部屋の中か地下にいるな。


適当に扉を叩き、返事も聞かずに入る。オーマは開口一番に俺の魔法について問いただした。


 「オヌシ、まだ土を分ける事が出来んらしいの。水の操作はまだマシだが……もっと集中しろ、狩りとかしとる場合なのか?」


 「うぐっ、土の操作ってなんか理解できなくて。手に砂粒付けるのがやっとです。」


あれからコップの水を移し替える事は出来る様にはなった、今は水の形を球体にして浮かせてる最中だ。


次は土魔法の練習との事らしいが、中々上手くいかない。


コップの中に水と土を混ぜ、そこから土だけ操る訓練となった。


口には出さないが、水も土も地味な特訓だ。あれだけ嫌だった武器の訓練の方が楽しめる位だ。


 「そんな事より師匠、伝えたい事が。多分大事な事です。」


 「……なんじゃ、言うてみい。」


意思を汲んでくれたのかあっさりと引き下がってくれた。魔物と遭遇した事、それと笛を壊してしまった事をなるべく細かく伝える。


 「そうか、魔物であったか。しかしアレは魔物と言うより……」


 「魔物と言うより?」


 「いや何でもない、ワシは言いたいのは2つかの。」


 「なんですか?」


 「何故魔物に出会って直ぐ逃げんのだ愚か者が!」


 「ぅふ、魔物が現れるとは……」


 「次に風車小屋が見えぬ程遠くへ行くな愚か者がァ!!」


 「すみませんでした師匠……」


何も言い返せない、今思うと何故魔物に立ち向かったのか、自分より小さいからって油断していたのだろうか。


 「最後にィ……」


まさかの3つめ、畜生数も数えれないのか。


 「よく無事に帰ってきた、イーよ。」


えっと、これは……気遣ってくれた、のか。面食らってしまった。


 「それで3つですよ師匠」


思わず言葉が漏れるほどに。



 不機嫌になりながらもオーマは問いかけてくる。


 「全く無事だったからいいものを。んで小童、もう狩りは止めるか?」


 「痛ってぇ……」


額を擦りながら痛みに耐える。この衝撃はリーベスさんを押し倒した時以来、いやもっと強い。


 「はぁ、もうこれに懲りたら止める事じゃ。」


 「続けますよ、俺は。」


うつむきながら答える。また同じ事が起こるかも知れない、もっと危ない事に遭遇するかもしれない。


その事を考えると怖くなる、でも狩りを止めるのはいけない。何故か強く訴えかけられるのだ。


 「もう絶対、遠くには行きません。今回の出来事で実感しました。もし次があれば一番に逃げます。」


 「……反発されて勝手に行かれるよりかはマシか、仕方ないの。」


これは認められたと受け取っていいのだろうか、もっと反対されると思っていたが。


 「では、これで。ああそうだ、これ渡すの忘れてた。」


床に落としていた菓子袋をオーマに投げ渡す。


 「今度はなんじゃ?ぽ、ポテ……とチ……」


 「貴重な物ですから大事に!」


一言付け加えて部屋から出る。もうお湯も沸いている頃だろう、早く羽の処理をしなくては。


 日も陰り、夜の始まりが見えてきた。今日の夕食も少し豪華になりそうだ。


向こうに置いたままの内臓も調理しなくては、新鮮だから味も良い、ハズ。




異世界での生活も慣れ、毎日が充実している。こっちと比べ不便な事も多いが、それもまた楽しい。


刀を振り、魔法を使い、狩りをする。前の生活では考えられない。


 「おっと、早く戻らないと。」


机の上に放り投げていた肉の袋を掴み、急いで戻る。


と、袋とは別の物が目に付く。


ノート、教科書、点在する文房具の数々、ふと昔を思い出す。


---でも……あれ?もしかしたら向こうでテスト勉強しても、こっちでは時間が経過しない。これって人より時間が凄く増えてないか?眠くなったらあっちで仮眠したり遊び放題じゃん!---


最近妙に引っかかっていた原因が分かった。


 「テスト、勉強、全くしてない……」


臓物の袋を握りしめながら、彼は静かに絶望した。

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