第23話 異世界へようこそ
「師匠、狩りに行きたいです。」
食事中に思い切って懇願する。あれから鳥を捌く事が出来ない、小屋の周りだけではやはり仕留めるのが難しい。
「またそれか、この前ので気をよくしたか。」
「あの鳥美味しかったわよね~」
毎日汁物と茶色い塊だと飽きてしまう。
しかしあの食事量でオーマは、何故体型を維持出来ているのか。魔法的何かが働いているのだろうか。
「服もこっちの恰好だし、体もたくましくなったし、魔法刀もあるし!」
力こぶを作りながら、腰に手を当てる。リーベスさんに散散注意されたので、刀は付けていないが。
「……仕方のない奴じゃ、昼間ならよいぞ。」
「よしっ毎日肉を食べさせてやりますよ!」
「家事の分担……まあ、貴重な栄養が増えるなら。」
実は自宅に戻り、狩りの仕方とか捌き方とか色々勉強していたのだ。毎日は無理かもしれないが食生活向上の為頑張ろう。
ふと何かが引っかかる、その原因を考えていたがオーマの声で霧散する。
「しかし小童、風車小屋が見えなくなる場所まで絶対に行くな。これは警告じゃない、命令じゃ。破ると命に関わる。」
「ワシら以外の人間に出会ってもすぐ戻るんじゃ。それと訓練には遅れるなよ、分かったか?」
「……分かった、約束する。」
「危険と感じたらなりふり構わず帰ってくるんじゃぞ、片付けが終わったら部屋に来い。」
食事が終わり、片付けを済ませ部屋に向かう。
ついでにお土産も持って行こうか。
「来ましたよ師匠、今度は何です?」
扉を叩かず遠慮なく開ける。
「コレを首にかけて狩りをするのだ。」
投げ渡される。紐が付いた小さな棒みたいだ。
「呼び笛じゃ、身の危険が迫った時吹け。それだけじゃ。」
「なんか汚いんですけど、大丈夫なんですか?」
触るとニチャニチャしてて、正直口をつけて吹きたくない。ヒビ模様が特徴的だ。
「いいから持っておけ。オヌシのソレはなんじゃ?」
「この本は、えーっと……医学書、です。」
鳥の捌き方を調べていた時、ふと本棚で目に付いた品だ。子供用の飛び出す項があったり楽しそうな本を選んだ。
最近貢物やガラス玉購入で懐が寒い、適当な家にあった品なのは内緒だ。
「……随分と凝った装飾の本だのう、おお……!?」
中身を確認し、そのまま読みふけている。黙って出て行く事にした。
魔法刀、スリングショットを装備し、向こうから持ってきた刃物とガラス玉を腰袋に入れる。
小石を飛ばすよりガラス玉の方が向いてる気がしたので持って行く事にした。
本当は狩り用の刃物が欲しかったが、工作用の道具で我慢だ。刃が飛び出して来ないように、念のためカチカチと固く締める。
獲物を入れる袋と、忘れずに汚い笛を首からかける。
準備が整ったのでいざ出発だ。
風車小屋の位置を確認しつつ、探検に向かう。辺りは木々もまばらで比較的歩きやすい。
早速枝に留まっている鳥を見つけ、玉を放つ。
しかし命中せず、鳥は何処かへ行ってしまう。
その後何度か似た場面に遭遇したが、結果は散散。小屋の天辺しか見えなくなってきたので、諦めて別の場所へ向かう。
今度は川辺中心に回ろう。最初の獲物が美味しく頂けたのは、川で体温を下げれたので、菌があまり繁殖しなかったのが有力な説だ。
今度は内臓も食べてみよう、前は捨ててしまったが、良く考えたら向こうの世界でも食べてた部位だ。早く捌きたい。
丁度よく何羽かまとまって岸にいる、近づいて……とゆっくり間合いを詰めてたら逃げられてしまった。
先程と同じで撃っても当たらず、逃げられ、中々成功しない。
段々と苛立ってきた、早く早く捌きたい。魔法刀がうっとおしく感じる。重いだけで特に役立ってないのが更に苛立たせる。今度は置いてから狩りをしよう。
悪態をついてたら、遠くに鳥が見える。気持ちを切り替え、慎重にゆっくりと近づく。何度も逃げられたので、ある程度逃げられない距離を把握できていた。
ガラス玉も残り少ない、いい加減仕留めたい。
想いを込めて放つ。
首に命中して力が抜けるように沈んだ。
「やった!」
仕留めた獲物に駆け寄る。やっとこれで捌ける!
しかし、獲物に集中してたせいで気づいていなかった。奥から人がこちらに近づいてくる。
しまった周りを見ていなかった。後ろを振り向くともう風車小屋が見えない。とりあえず獲物を回収してこの場から離れた方がいいか、急がないと。
だが相手側も更にこっちに向かってくる。背丈も小さく子供だろうか?
肌が緑で、服は腰布しかつけていない変わった子供だった。
こちらを睨み敵意をぶつけてくる。
ふとリーベスさんの授業で教えて貰った事を思い出した。この世界では魔物と呼ばれる、俺の世界では居ない生き物達が存在している。森には魔物が生活していて、人とは殆ど分かりあえてないと。その時に教わった魔物の一種と、子供の外見が一致していた。
笛を掴み全力で拭く。しかし空気しか出ない、誤って笛を噛みしめ壊してしまった。
獲物を挟んで向かいあう。俺の方が獲物に近い、魔物は牙と棒らしき武器を主張し、威嚇してくる。
思わず後ずさる、魔物の顔が歪む。唸り声をあげ、笑っているのだろうか。
早く逃げないと、獲物なんて捨ててすぐにでも離れないと。
本当にそれでいいのか?あの鳥は俺が仕留めた獲物だろうに。まだ捌けていないじゃないか。
オーマにも言われている、小屋も見えないしこの場は危ない。
本当にそうだろうか、魔物は俺より小さい。武器は牙と木の枝、そんなに危険か?
こっちには刀もスリングショットも、魔法だって習ってる。大丈夫だろうに。
そうだ何をそんなに怖いんだ。武器だってあるし相手は小柄、情けないにも程がある。
柔らかな内臓も、滴る血も、上手い肉も、骨も羽も中に詰まってる糞尿だって俺のものだ。奪われてなるものか。
刀を抜き構える、新しい獲物を見据え半歩踏み出す。
この行動が予想外だったのか、獲物の動きが止まる。魔法刀に【付与】をし、また一歩踏み出す。
再び獲物が威嚇してくる。
こちらも【付与】を強め、閃光をほとばしらせ威嚇し返す。
「ガアアアアアアアア!!!」
刀を上に構え獲物に突進する、このまま間合いを詰め、薪と同じように叩き切る。
だが、切る事は叶わなかった。獲物が逃げてしまったのだ。
これ以上風車小屋から離れる訳にはいかない。息を整え刀を収め、鳥の足を掴む。元来た道を駆け足で帰った。
幸い風車小屋はすぐに見えた。建物が大きくなるまで近づき、川辺に腰を下ろす。震える手で鳥を捌く。
別種の鳥だが2度目なのと、少し勉強してきたので、前より簡単に捌けた。
鳥の腹に手を入れると震えが止まる。今度はしっかり内臓も食べあげないと。
「これは、心臓かな。こっちは……肝臓かな。」
楽しげに分解していく、今日の夕飯が楽しみだ。
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