第4話

エピローグ


 この記事は名仁男氏の病床で、念の為看護婦立ち会いの元行われた。元々線の細い人であったが闘病生活の為か更に痩せ衰えていた。が思っていたよりは元気で話し始めると饒舌で流石は戦後文学の異端児ともて囃されただけのことはあると感心させられた。「僕みたいな小説はお金になりませんからね。後に続いてくれる人がいれば良かったけどこういう根暗っていうんですかね、陰鬱で湿っぽい小説は僕の代で店仕舞いです。」そうぽつりとこぼす氏に単独者の孤独というキルケゴールの言葉が想起された。最後のインタビューを終えても氏は何か言いたげな素振りであったが敢えて口をつぐんでいたようだ。屋上屋を重ねることはしまいという決意であったろう。それが最後の姿であった。インタビューの直後肺炎をこじらせて呆気なくあの世へ旅立ってしまった。ショックではあったが反面嗚呼やっぱりという諦念があった。これから我々は文芸に携わる者として氏の言葉を語り継いでいかねばならない。時代に抗って独自の文学世界を切り開いてきた氏。今更ながら氏の最後の言葉を直接拝聴できたことは僥倖である。氏の評価───形而上学的小説と同時代的批評の数々───についてはこれからの課題であるが、私個人の予想では評価が定まる迄尚数年の歳月を要するであろうと思われる。今は只々ご冥福をお祈りするばかりである。〈終〉

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怪人名仁男由隆の遺言 分身 @kazumasa7140

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