第12話 勝者と敗者

「なにが『ふうぅ、激戦だったぜ!』よこのクソ人間! あたしのこと盾にして信じられないっ! ぶっころしてやる!」


 憎しみを力に変えて拳へのせ、愛犬を焼却炉に入れられた少年のように、ただひたすら俺の顔面を殴り続ける。


「ありがとうございます! じゃなくて、ああでもしないと村を守れなかったんだよ! 他に方法が思いつかなかったんだ!」


「うるさい! あんたがッ泣いても殴るのをやめないッ!」


「ややややめるのですシャルロットさん。それ以上やったら本当に死んでしまうのです」


 殴られて腫れ上がっているであろう俺の顔を見たエリナが、精霊の盾スピリットシールドを解除して慌ててとめに入り、シャルロットを羽交い絞めにしてカイから引き剥がす。

 同時に兵達がハイルリッヒへと駆け寄り、崩れ落ちている彼を何とか立ち直らせようと様々な言葉をかけている。


「離しなさいよ! っていうかあんたなんでバカみたいに力強いのよ」


 エリナは見た目だけなら巨乳ロリだ。

 しかしその力は凄まじくいったん掴まれると、どうあがいても振りほどけない。

 本人曰く、りんごを指3本で握りつぶせる位のか弱さらしいが。


「助かったよエリナちゃん。危うく死神に、残念!! わたしの冒険はここで終わってしまった!! って言われるところだった」


「カイさんの実力ではハイルリッヒに勝つことはできないので、信じられないクズみたいな行為なのですけど、仕方ないと思うのです」


 ハイルリッヒを一瞥し軽くうなずくエリナ。

 実際俺とハイルリッヒでは実力に雲泥の差がり、正面からぶつかれば舜殺されていただろう。

 シャルロットの精霊の加護スピリット・プロテクションを、ハイルリッヒが知らなかったからこそとれた作戦であり、勝つことができたのだ。


「あんたもクズだと思ってるなら、なんでとめに入るのよ!」


「そ、それは……」


 力が緩んだ隙をついてエリナを振りほどくシャルロット。

 王国側の人間。

 それも大司教であるエリナが、ゴブリンを守るためにハイルリッヒと敵対すれば、反逆罪として扱われ旅をするどころではなくなってしまう。

 それでも協力してくれたのは、きっとエリナもゴブリンの村を火の海にしたくなかったのだ。


「そんなの決まってるだろ! エリナちゃんは俺のことが大好きだから死んだら困るんだよ。まあシャロちゃんだって俺のことが大好きなんだから本気で殺そうとするはずないじゃないか! エリナちゃんはちょっと心配しすぎだよ」


「ちょっとなに言ってるのかよくわからないのですけど、確かに死んでしまったらすこーしだけ困るのです」


 顔の前に右手をもってゆき、親指と人差し指の間を5センチほどあけて、アルファベットのCの形を作りウインクするエリナ。

 声には出さなかったが唇が動き、ありがとうといっているように見えた。


「だろぅ? やっぱり人助けって気持ちがいいぜっ!」


「まだ殴られたりないようね? でもその前に、あいつどうすのよ?」


 にらみ殺すかのように俺を見つめるシャルロットが、自分の後方を親指で差す。

 そこには余程ショックだったのか崩れ落ちたまま動かず、兵達が励まし続けているハイルリッヒの姿があった。

 俺は小声で「俺にまかしとけ」というと、落胆するハイルリッヒに歩み寄り。



「なぁハイルリッヒさん、俺達はこれから祝賀会するからよ。ハラの中にある緑の悪魔カメムシのしがいを巨大化させられて、無様な最後をとげたくなかったら、その兵隊引き連れてさっさと王都へお帰り!」


 そう告げた。

 するとハイルリッヒはビクンと反応して立ち上がり、剣を収めてマントを翻し俺ヘ背を向ける。


「撤退するぞ」


「ハッ」


 そのまま兵を連れ、引き返して行くハイルリッヒ。

 騎士とは名誉のために生き、誇りのために死ぬとよく聞く。

 騎士団長になるまでどんな苦労があったかしらないが、剣術の心得もないド素人に負けたという事実は消え去ることはない。。

 これ以上醜態を晒すわけにはいかないのだろう。


「オ・ノーーーーレ。この屈辱は忘れんぞ!」 


 ハイルリッヒと兵達が見えなくなると、ゴブリンたちが再び騒ぎ立てる。


「おおお! カイ様が騎士を追い払ってくれた!」「さすがカイ様だ!」「カイ様は我々ゴブリン族の英雄だ!」


 英雄。

 感謝され、もてはやされるも、俺は素直に喜ぶことはできない。

 なぜなら。


「みんな聞いてくれ。王国が俺の発言を無視して動いたってことは、また襲撃しにくるだろう。できるだけ早くここから離れたほうがいい。俺はみんなを助けるつもりで、逆に思い出のある故郷を捨てさせることになってしまった。すまない」


 俺がよかれとおもってやったことは、結果的にゴブリンたちを苦しめることになる。

 ゴブリンたちは静まり返るも、すぐに1人のゴブリンが反論する。


「あやまることなんかねえよ。村を捨てることになっても、また新しく作ればいい。だけど、連れて行かれちまった仲間はそうはいかねえよ? カイ様がいなかったら、再会できなかった奴もいる」


「んだんだ。だからカイ様、あんたがそんな顔しないでくれよ! オイラ達で力になれることがあったらなんでも協力する!」


 別のゴブリンがすかさず続け、他のゴブリンも「そうだそうだ!」と賛同する。


「みんな……あ……」


 俺がみんなにお礼を言おうとしたその時。

 村の奥の方から1人のゴブリンが、ドタドタと大きな足音と叫び声をあげて走りこんでくる。


「たったいへんだあああああああ! アレックスが!」


「パパ!?」


「シャロちゃん!」


 アレックスという名を聞いたとたん、シャルロットの体が動き、叫んでいるゴブリンがやってきた方角へ走り去ってしまう。


「アレックスさんに何かあったのか?」


「アレッ……、アレッ……」


 全速力できたのだろう。

 ぜえぜえと息を切らし言葉が続かない。

 周囲にいるゴブリンたちも何事かと息をのんで見守り、俺は落ち着いてゆっくり話してくれとうながす。


「アレックスに……。シャルロットが恋人を連れて帰ってきたって言ったら、そいつを殺すって暴れはじめて」


 深刻な話しかと思ったら割とどうでもよかったので、周囲にいた全員がずっこける。


「エリナちゃん、腹がへったから飯にしようぜ! すまないがだれか、食事を3人分頼めないか?」


「ちょっとカイさん! なんで3人分なのです!」


 俺とエリナちゃんとシャロちゃんで3人だが、エリナは何故かご立腹らしい。

 まさか道中でいろいろ食べていたから、お菓子を食べ過ぎてごはんが食べられない子供の状態になったのか?


「まったく、途中でなんでもパクパク食べるからだぞ?」


「何言ってるのです? それはさっきの魔法で帳消しなのです! 3人分じゃわたしだけしか食べられないので、6人分用意してほしいのですよ!」


 忘れてた。

 こいつの胃袋がブラックホールだったことを。

 だけどいくらなんでも、6人分は異常だろ! 

 名にさりげなく増やしてるんだよ。


「エリナちゃん6人分は流石に」


「いいや任せてくだせえ。すぐに用意しますだ! ささ、お2人ともこちらへ」


 そう言って1人のゴブリンが村の西側にある、周りの建物よりも一回り大きい集会場のようなところへ、俺とエリナちゃんを案内してくれた。


~~~~


 カイ達がゴブリンに招かれ食事の到着を待まっていた頃、ハイルリッヒが通信魔法により国王へゴブリン討伐失敗の報告をしていた。


「以上の理由により、ゴブリン討伐に……失敗しました。陛下! どうか今1度このわたしにチャンスを!」


「おぬしには失望したぞハイルリッヒ。たかがゴブリンすらまともに討伐できぬとわな。もういい、我が栄光の騎士団の名に泥を塗ったおぬしの顔なぞ見たくもない! ハイルリッヒ! 現時点をもって第3騎士団長の任を解く。どこへでも好きなところへ行くが良い」


「陛下! お待ちください!」


 国王はすがりつくハイルリッヒを無視して通信を切ってしまった。


「こんなことになるなんて、あいつさえ邪魔しなければ今頃」


 本来ゴブリンの討伐に、騎士団長自ら出向くことはない。

 ゴブリン討伐は、新米騎士が最初に行う任務という認識だからだ。

 では何故ハイルリッヒは行ったのか、それはある情報を手に入れたから。


『ゴブリンの焼死体を使って作る秘薬があるのを知ってるかい? それは1粒飲むだけで寿命が5年延びるけど、10体の焼死体を材料とする。ゴブリンの村でも発見できれば、大量に作って国王に謙譲することもできるんだけどね。そしたら国王は大喜びで、総騎士団長も夢じゃないね!』


 総騎士団長。

 それは第1から第8まで存在する騎士団全てをまとめる長だ。

 国王に告ぐ権力を持つとされ、有事の際には個人の判断で騎士団全てを動かすことができる。

 最も優れた騎士という称号であり、全騎士のあこがれ。

 総騎士団長の称号がほしくないなんていう者はおらず、ハイルリッヒもその誘惑に勝てなかった。


 そんなところにカイがゴブリンを開放しろと発令。

 絶好のチャンスだと思った。

 この時ちょうど別件の任務が片付き、王都へ帰還しようと魔法施設にいたからだ。

 話を聞いたハイルリッヒはタタリヒへと向かい、隠蔽ステルスの魔法を使って引き連れている兵全ての姿を隠してカイの後をつけた。

 そして敗北し現在に至る。


「まずはわたしの中にある、緑の悪魔カメムシのしがいとやらをどうにかしなくてわ。お前たち、体勢を立て直してから再び攻め入るぞ!」


「そうですか。じゃあ俺達は王都に帰るんで」


 ハイルリッヒを無視して通り過ぎてゆく兵達。


「何を言ってるんだ! このままでは王都に帰れんぞ!」


 兵の1人が立ち止まって振り返ると、我冠せずといった表情で話しかける。


「いや俺達には関係ないんで。もう騎士団長じゃないわけですし、命令に従う理由もありませんよ」


「おいおいそんなことよりよ、次の騎士団長だれになるんだろうな? むちむちしてる美人がいいなぁ」


「第6のアーデルハイト騎士団長みたいな感じか? あの人はふとももがエロくてめちゃくちゃシコリティが高いんだよな。しかも美人でやさしいときたもんだ。おかげで移動希望者が多くて、ぜんぜん移動できないんだよ」


「俺はどちらかというと第8のレオンハルト騎士団長がいいな。あそこはあの人が団長になってから今まで補充要因がでたことないらしいぜ? 団長自ら前衛にたって兵を守るんだと」


 兵達は雑談をはじめ、ハイルリッヒは口をあけたまま呆然としている。


「ま、そういうことなんで。やるなら好きにやってください。それじゃ今までお勤めご苦労さまでした」


 兵達は頭の中が真っ白になって動かないハイルリッヒを放置し、王都への帰路を急いだ。

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バス停でボンレスハムを食べてたら、異世界の合法ロリが魔王と友達になってというので頑張る話。 トマトの刺身 @sasimi6708

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