第11話 守れゴブリンの村
「おいおいおい待てよ! なにやろうとしてんだ! えっと……ハインリヒさんだっけ?」
突然現れた白い鎧の男が、大量の兵を連れて村に火を放とうとする。
こんなもの見過ごすことができようか?
「ハイルリッヒなのですカイさん」
「ああそうか。ハイルリッヒさんあんた、俺がゴブリンに手を出すなって言ったのを聞いてないのか?」
何故そんなことをするのか理解できず、何とかやめさせようよとハイルリッヒへと詰め寄る。
「聞いていますとも。カイ様がゴブリンの討伐をするので、わたし達第3騎士団が助力に参ったしだいでございます」
「そんな!?」「ど、どういうことなんですカイ様!」「オイラ達をたましてたのか?」
「こいつがそんなことするわけないでしょっ!? そんなやつだったらここまで連れてこないわよっ!」
ハイルリッヒの言葉に、ゴブリンたちが裏切られたのか罠だったのかと口々に騒ぎ立て、それを見たシャルロットが怒りのこもった声で反論する。
「騒がしい下等生物ですね。まあいいでしょう。すぐに全員処分しますから」
丁寧な口調で説明するが、要するにゴブリンを殺しに来たようだ。
ゴブリンたちを解放してこれからって時に村を焼き払われたら……。
溝は広がるどころか、戦争なんてことにもなりかねない。
「俺はそんなこと言ってない。今すぐ兵を退いてくれハイルリッヒさん。俺は国王から自由にやっていいと言われてる、俺の命令は国王の命令とかわらないはずだ!」
「ええ知っていますとも。ですがその陛下からのご命令です」
ハイルリッヒは不適な笑顔を崩さず淡々と告げる。
どうやら本気でここを焼き払うつもりらしい。
「じゃあ改めて命令する。ゴブリンには一切手を出さず、今すぐ王都へ帰還しろ!」
「それはできません。陛下とかわらないといっても優先順位というものがありましてね。そういうことですので巻き添えにならないようお下がりください」
考えろ、考えろ、考えろ。
どうすればいい?
最悪俺がここを離れなければ、そう簡単に火を放ったりしないはずだ。
あの兵の数じゃ正面からいってなんとかできると思えない。
じゃあ指揮官を狙って統率を乱すか?
嫌だめだ。
仮にも一国の騎士団長、実力差がわからないほど俺はバカじゃない。
とりあえずここは何とかして時間を稼ぎ、策を考えよう。
「そいつはできねぇ。俺達はゴブリン族に伝わるって言う幻の料理を食いに来たんだ。楽しみでしかたなくてよ、わざわざ腹がすかせてここまできたんだぜ? エリナちゃんなんてあまりの空腹にたえかねてグズリだす始末。もう1秒だって待てないほどものすごく腹がへってるんだよ。まさかあんた、火の海で食事しろって言うんじゃないだろうな?」
でまかせだがこれで何とかならないだろうか。
最悪ゴブリンたちを逃がす時間だけでも作らなければ。
「それは仕方ありませんね。弓兵、斉射!」
ハイルリッヒの合図で一斉に村へ矢が放たれ、火の雨が降り注ぐ。
「お前なんてことを!」
「わたしたちはひまじゃないんですよ。食事なんて後でゆっくりとればいいでしょう?」
「『
エリナがとっさに魔法を唱え、周囲を薄紫色をしたドームが包み込む。
火の雨はドームにぶつかって消滅し、なんとか事なきをえた。
「おやおや、カイ様を守ってくれるとは思いましたが。まさか大司教ともあろうあなたが、ゴブリンごときを守るとは……」
エリナはハイルリッヒをキッとにらみつけると、持っていた杖を地面へと突き刺す。
そして。
「わたしは今、ものすごくおなかがすいて機嫌が悪いのです。わたしの大事なごはんタイムを邪魔させないのですよ!」
そう堂々と叫んだ。
さっきの魔法。
上手く使えば閉じ込められるんじゃないのか?
上手く使えば相手を閉じ込められるかもしれない。
「エリナちゃん、さっきの魔法であいつら全員を閉じ込められる? あと
俺はエリナちゃんへ近づき、周りに聞こえないよう注意して耳打ちをする。
「できるのですけど、ハイルリッヒの剣は
エリナは
「そうか、あと魔法の予約ってできるか? もともとかけておいて合図で発動するてきなやつ。もしできるならこれにたのむ」
俺がハイルリッヒに勝つ方法はこれしかない。
俺はそれをエリナへ差し出すと、エリナは「任せるのです!」と言って魔法をかけてくれる。
「でも、これに魔法をかけてどうするのです?」
「まあ見てろって。ハイルリッヒさん、俺とひとつお手合わせ願えないか?」
「お手合わせ? この状況でよもやそんな言葉が出てくるなんて」
ハイルリッヒはなに言ってんだこいつみたいな顔をして嘲笑し、小ばかにするように言ってくる。
「まあそういうなよ。ハイルリッヒさんて騎士団長っていうくらいだから強いんだろ? 男なら強い人間と戦いたいと思うのは、遺伝子レベルで組み込まれた本能だぜ」
「また今度にしてください。弓……」
ハイルリッヒの動きを先読みしてエリナが、
「なんのつもりですか?」
「お互いに何にも気にせず目の前の相手に集中したいだろ? 負けた時に周りが気になったなんていう、つまらな言い訳をしなくてすむしな」
「ふっ、わたしが相手にするとでも?」
ハイルリッヒが振り返ろうと体を動かしたそのとき。
「相手に背を向けるかシールドの破壊。あと俺とあんた以外の奴に被害を与える。このどっちかをやったら受無条件でそいつの負けだ。まあ勇者である俺の実力にビビって、1人じゃどうしようもないってんなら、特別にハンデをくれてやってもいいが」
「だれがだれにビビっていると?」
先ほどまで笑顔を保っていたハイルリッヒが、不動明王のような顔をして怒りをあらわにしている。
マンガやゲームではお約束だが、こういうプライドの高いやつは煽り耐性がないっていうのは本当らしい。
見事挑発にのってくれたので、あとは何とか隙をつくるだけ。
「エリナちゃんは魔法の発動に集中してもらって、シャロちゃんには立会人をしてもらう。こっちへ」
シャルロットを手招きすると、不機嫌そうな顔をしてやってきた。
俺は
ハイルリッヒは、右手にもった剣を右下へ向けて振り払い不敵な笑みを浮べる。
「あんた本当に大丈夫なんでしょうね? あたしたちがどうなるか、あんたに掛かってるんだけど」
一部始終を見ていたシャルロットが不安そうな表情をするも、俺は笑顔で返す。
「さっきさ、シャロちゃん俺のことかばってくれただろ? ものすごいうれしかったよ。ありがとう。だからさ、ちょっとがんばらせてもらうわ」
「ふん。負けたら承知しないから」
両者の中央あたりにシャルロットが立ち、試合のルールを確認する。
「さっきのルールを守った上で、降参といったほうが負け。じゃあ勝手にはじめて」
「こいよハイルリッヒ、その剣がお飾りじゃないならっ! 俺のことを斬りつけてみろよ」
シャルロットが試合開始を告げ、開戦と同時にハイルリッヒを挑発する俺。
ハイルリッヒは平然を装っているが、まゆげをぴくぴくと動かし怒りをおさえているようだ。
「お望みとあらば陛下より授けられた我が剣、フランベルジュの威力を味あわせてあげましょう」
赤いマントをなびかせながら、がっしりとした鎧を着ているとは思えない速度で走りこんでくるハイルリッヒ。
ここまでは計算道理。
あとは一瞬でいいから動きを止める。
そのためにはこれだ!!
俺はシャルロットの方へ走りこんで行き、シャルロットを盾にして後ろから押す。
「ちょっ!? なにしてんのよ!」
「これは作戦なんだ! 俺を信じてハイルリッヒの方へ走ってくれ」
「なるほど。ゴブリンを盾にすることでわたしの反則負けを狙うわけですか」
ハイルリッヒは足を止めてこちらをじっと観察している。
プライドの高いやつなら、完全勝利を狙って剣を持っていない左手で払うずだ。
それならば、ここがチャンス!
「いけ! シャロちゃんバリアー」
「ちょっ!?」
俺はシャルロットをハイルリッヒの方へつきとばして、自分もその影に隠れつつ接近を試みる。
「ゴブリンを隠れ蓑に攻撃ですか、とんだ浅知恵ですね」
ハイルリッヒが突き飛ばされてきたシャルロットを左腕で張ろうとする。
ただ払いのけるだけなら問題はない。
しかしハイルリッヒはシャルロットに、ゴブリンに対して明確な悪意を持っている。
それは、彼女にかけられた魔法を誘発させるのには十分すぎた。
「キャッ」
「ぐぁああああああ!? こっこれは、
シャルロットに腕が触れそうに鳴ったその時。
上空から1本の柱がハイルリッヒへ降り注ぎ、体中をばちばちとした青白い電流が駆けずり回った。
ハイルリッヒは一瞬体の動きを封じられ、その一瞬により勝敗は決する。
「この瞬間を、まっていたんだぁあああああああああああ! 食らえっ「
俺は勝利の鍵としてエリナちゃんに魔法をかけてもらったそれを、親指でコインを弾くようにハイルリッヒの口めがけて飛ばす。
「おふ、ご、ごっくん」
それは一直線に飛んでゆくと見事ハイルリッヒの口内へ着弾。
俺には勢いでそのまま飲み込んだように見える。
「な、なにを飲ませた? 毒か?」
「そんな物騒なもんつかわねえし、もう勝負ついてるから」
「……なにを、言っているんです?」
「今あんたに飲ませた
俺の発言を聞いたハイルリッヒは「やれやれ」とつぶやいて、額に手のひらを当てて小さく左右に頭を振る。
「そういうことでしたか。残念ですがわたしは
「そいつぁすげぇや! やってみてくれよ」
「言われなくても『
あせるハイルリッヒに、失礼があった会社へ謝罪しに行く時の申し訳なさそうな顔をするエリナ。
そのかわいらしいぷっくりとした唇をした口から、残酷な言葉が発せられる。
「ハイルリッヒ、あなたは褒めると伸びる人ですけど同時にすぐへそを曲げるのです。なのであなたをもっと伸ばすために、みんなあえて加減をしていたのですよ。もちろん剣の腕前は騎士団長として問題ないのですよ? ただ魔術の方はお察しなのです……」
「そんな……バカな……」
おなかがすいたとグズって地面を転がっていたやつのセリフとは思えない。
だがしかし、ハイルリッヒにはもろはのずつきを受けたリザー首領のように破壊力ばつ牛ン。
戦意喪失してしまいその場に崩れ落ちる。
「ふうぅ、激戦だったぜ!」
「このクソ人間、ちょっといい?」
勝利を確信する俺のところへ、ふらふらしながらシャルロットが近づいてきた。
今回勝利できたのは、シャルロットのおかげに他ならない。
きっとシャルロットも村を救ってくれてありがとう!
と、抱きついてくるだろう。
俺は飛び込んでくる出あろうシャルロットを受け止めるため、両手を大きく広げて構える。
「もう大丈夫だ! 怖かっただろう? 俺の胸に飛びこんでたーんとおなき」
「なら遠慮なく、そうさせてもらうわぁああああああああああ!」
シャルロットは、獲物を狙うライオンがごとき俊敏さで俺に飛び掛って押し倒し、そのままマウントポジションをとる。
「ぐふっ、ぐほぁ、やってやめ。シャロちゃんやめてっ、これ以上ふっは、ごふっ、気持ちよくなっちゃうから、ありがとうございます!」
そして全力で握り締めた拳を右、左と交互に俺の顔面めがけて打ち下ろし殴打した。
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