世界各地の神話や伝承を基にした、1話独立のオムニバスです。
どのお話も、冒頭からその独特の世界観に引き込まれます。日本のみならず、ネイティヴ・アメリカンやインド、シベリアなど、普段あまり触れることのできない文化を識ることができます。
人類が命を繋ぎ、膨大な時を歩んできた軌跡が、文化として紡がれる。ほんの一端に触れただけでも、その大いなる奔流に圧倒され、嘆息せざるを得ません。
中には残酷な結末を迎える物語もあり、私は第8話『ででぽっぽ』で涙が止まらなくなったのですが、それもまた時代の流れの中にあった事実なのだと感じました。
各話の末尾に丁寧な解説があり、作者さまの知識の深さ、幅広さが伺い知れます。
大変興味深く、勉強になりました。
時代の流れの中に置き去りにされてしまった物語たちが、
先人の研究と調査を経て記録の上に辛うじてとどめられ、
それらがこうして丁寧な考察を加えられ、演出を得て、
小説として私たちの前に立ち現れ、私たちを過去へ誘う。
白人の進出によって翻弄されるネイティヴアメリカンの誇り、
日本がバラバラの「国」を多数抱えていた頃の人々の価値観、
氷の海に望む北国、雪の頂の高山の国、凍った大地と狼の森、
宿業を背負う人々の国……様々な文化における人間ドラマ。
どの物語も素敵な中で、私はとりわけ「鬼の城」が好きだ。
一視点から語られて伝わる民話に多角的な想像が加えられ、
「そこで本当に起こったかもしれない」と感じられるような
手触りと厚みが生み出されて、鬼退治伝説が読者の胸に迫る。
うまくまとまらないけれども。
面白く、興味深く、楽しみました。