第11話 運命の鉄筆 (インド・タミル・ナードゥ州)

1.

 あるところに、スワミという名の、若いバラモンがいた。この世の真理について学びたいと望んでいた彼は、文明の喧騒から離れて森の奥で暮らしている老賢者の噂を聞き、是非弟子入りしたいと願った(注①)。

 スワミは、ジャングルの中を何日も歩いて、遂に、その賢者の住む庵に辿りついた。

 老賢者は、この若い求道者を喜んで迎え、弟子にした。スワミは、導師とその妻の用事をし、家の雑用を手伝いながら、師からいろいろなことを学んだ。


 さて。老賢者は大変歳をとっていたが、妻との間に初めての子どもが出来た。彼女が妊娠して八ヶ月が過ぎた頃、賢者は、聖なる川の源に巡礼に行きたくなった。

 身重の妻を連れて行くわけにはいかないので、彼は、スワミと仲間の修行者の妻に、彼女の世話を頼んで出掛けた。

 老賢者の妻は、月満ちて、予定の日にお産が始まった。世話役の女たちが彼女に付き添って庵に入り、スワミは外にいて、お産が無事に済むよう、お祈りしていた。

 すると、そこへ、ブラフマンがやって来た(注②)。


 ブラフマンとは、ヒンドゥー教の、世界創造の神様だ。彼は、子どもが産まれる時、その誕生の瞬間に現れて、赤ん坊の額に運命を書き付けるのが仕事だった。

 勿論、神様であるから、普通の人間には見ることが出来ない。

 ところが、スワミは、師からいろいろな知恵を授かり、力を与えられて、普通の人には見えないものも見えるようになっていた。庵へ見知らぬ男が入って行こうとするのを見て、彼は、びっくりした。

「ちょっと! あなたは誰ですか? そこへ入らないで下さい!」

 スワミは、かなり腹を立てて言った。

 ブラフマンは、ぎょっとした。それまで、彼の永遠の巡回中に、姿を見られたり、こんな風に呼び止められたりしたことは、一度もなかったのだ。

 スワミは、立ち尽くす男を、頭のてっぺんから爪先まで、じろじろ眺めた。男は白髪で、手には、聖典ヴェーダと数珠と鉄筆を持っている。

「あなた、バラモンさん? 何をしようとしているかお判りですか? 『ごめんください』とも言わずに、私の先生の庵に入ろうとするなんて、失礼ですよ。奥様は、今、お産中なのです。入らないで下さい!」

「ええと……待ってくれ。私の話を聞いてくれ」

 ブラフマンは大急ぎで、若者に、自分が誰で、何をしようとしているのかを説明した。赤ん坊は、もう産まれ出ようとしていて、殆ど時間がなかった。

 スワミは、彼が誰であるかを聞くと、神の前に出たときの尊敬のしるしとして、上衣の布を腰に巻き、ひれ伏して許しを乞うた。

 ブラフマンは急いでいた。若者に構っている場合ではない。けれども、スワミは、ブラフマンが赤ん坊の額に何を書くつもりなのかを知りたがり、放してくれなかった。

「ええと、お若いの。私にも、私の鉄筆が何を書くのか分からないのだよ。子どもがこの世に出てきた時、私が鉄筆を額に置くと、鉄筆がその子の前世での行いに従って、現世の運命を書くのだ。頼むから、放してくれ。すぐ入らなければならないんじゃ」

「それでは」

と、スワミは言った。

「出ていらっしゃったら、先生のお子さんの額に何が書かれたか、教えて下さいますか?」

「よろしい」

と、ブラフマンは約束して、庵へ入った。


 ブラフマンは、さっさと仕事を済ませて出て来た。スワミは、鉄筆が何を書いたか尋ねた。

 神は、溜息をついてこう言った。

「お若いの、教えてあげよう。でも、そのことを誰か他の人に話したら、お前の頭は粉々に砕けてしまうからな……。子どもは男の子だ。この子の将来は辛いものじゃ。生涯で、一頭の水牛と一袋の米が、この子の財産となるだろう。それだけで食べていかなければならん」

「なんですって?」

 スワミは、仰天して叫んだ。

「おお、神様。神々のお父様!(注③) 偉大な賢者様の息子なのに、それがこの子の運命なんですか?」

「仕方がないんじゃよ」

 ブラフマンは、困って言った。

「それが前世の報いなのじゃ。私には、どうすることも出来ない。前世で播いたものは、現世で刈り取らなくてはならんのだ。……しかし、私の言ったことを忘れるでないぞ。このことを誰かに喋ったら、お前は死んでしまうからな」

 そう言うと、ブラフマンは、うろたえているスワミを残し、消えてしまった。

 やがて、巡礼から帰ってきた老賢者は、妻と息子が元気に暮らしているのを見て喜んだ。しかし、若い弟子は、このことを誰にも言えず、一人苦しんでいた。



2.

 三年が経った。老賢者と弟子は、さらに探求を続け、知識と力を身につけていた。

 老賢者は、トゥンガバドラー川(注④)の源へ巡礼に出掛けることを決意した。彼の妻は、また身ごもっていた。そこで、前回と同じように、弟子と友人の妻に世話を任せて行った。

 今度もまた、ブラフマンがお産にやって来た。

 スワミは、ブラフマンが来ると知っていたので、待っていた。入り口で捕まったブラフマンは、今度も、鉄筆が赤ん坊の額に書いたことを教えると約束させられた。

 庵から出てきた神は、残念そうに話した。

「今度の子どもは女の子じゃ。私の鉄筆は、彼女が将来、売春婦となり、毎晩身体を売って暮らしを立てなければならないと書いた……。この前、私が言ったことを、忘れるでないぞ。このことを誰かに喋ったら、お前の頭は、こなごなに砕けてしまうからな」

 若い弟子は、大変なショックを受けた。尊敬し、人々の中で最も聖なる人であると考えている師匠の娘が、売春婦になる運命だなんて!

 深く傷ついた彼は、神に抗議する言葉も失ってしまった。

 スワミは、何日もそのことについて考えたが、結局、運命が人の人生を支配するのだと、自分に言い聞かせるしかなかった。

 老賢者は巡礼から帰り、弟子は、さらに二年、師匠のもとで過ごした。


 こうして、男の子が五歳、女の子が二歳になった時。今度は、スワミ自身が、ヒマラヤへ巡礼に行く決心をした。

 日に日に育っていく可愛い子ども達と、彼等を待っている悲惨な人生のことを考えると、心の痛みに怒りまで加わり、彼を苦しめた。けれども、彼には、繰り返し運命だと考えて、自分を慰めることしか出来ない。

 スワミは、導師の許可を貰い、ヒマラヤを目指した。

 彼は、多くの聖地と学問のある人々の許を訪ね、教えを受けた。二十年間彷徨って、世界と人と、神意のありかたについて考えた。――そして、最初に学問を始めた師のところへ戻ろうと思った。

 しかし、彼が戻ってみると、導師と妻は既に死んでしまっていた。スワミは、師を喪った悲しみに暮れ、彼の子ども達を捜しに街へと出掛けた。


 しばらく行くと、スワミは、一頭の水牛を連れたクーリー(注⑤)に出会った。彼には、すぐ、この貧しい男が導師の息子だと分かった。ブラフマンの鉄筆が、彼の額に書いたとおりになっていたのだ。

 スワミの心は、ずうんと重くなり、師の息子がただ一頭の水牛で暮らしているのを見るのは耐えられないと感じた。

 スワミは、そのクーリーの後をつけ、彼の小屋に行った。そこには、クーリーの妻と、お腹をすかせた二人の子どもがいた。しかし、小屋の中には、一袋の米があるだけで、他には何もなかった。

 彼等は、毎日、袋の中から少しずつ心配そうに取り出し、炊いて食べていた。袋が空になった頃、やっと、クーリーの稼ぎで、もう一袋買うことが出来るのだ。

 鉄筆が書いたとおり、それが彼の全財産だった。

 スワミは、このクーリーの名を呼んで尋ねた。

「貴方は、私を知っていますか?」

 クーリーは、見知らぬ人が自分の名前を知っていることに、大変驚いた。スワミは名乗り、彼の父の弟子であったことを説明し、それから、自分の忠告に従うよう頼んだ。

 クーリーは、スワミ自身が偉い賢者に見えたので、感銘を受けた。

 スワミは、こう言った。

「どうか、私の言う通りにして下さい。明日、目が覚めたらすぐに、水牛と袋の米を売って下さい。値段はいくらでも構いません。売れたら、そのお金で、貴方とご家族が食べるのに必要なものを全部買って、夕方までに食べ尽くして下さい。次の日のために、一口も残してはいけません。残ったお金で、貧しい人達に食べ物を振舞い、バラモンたちに贈り物をして下さい。大丈夫、全てうまくいきますから、私を信じて下さい」



3.

 クーリーは、彼を信じることが出来ず、叫んだ。

「全部売ってしまったら、四人が食べていくために、どうしたらいいんです? 貴方たちバラモンは、いつも、私達のように貧しい者に、何もかもバラモンに差し出すのがいいと言う。それは、貴方達はいいでしょうね、自分のものに出来るのですから!」

 しかし、傍らでこの話を聞いていた彼の妻が、夫を宥めた。

「あなた。この方は、導師でいらっしゃった義父さまと同じように、賢い方のように見えます。きっと、私達の知らないことを知っておられるのでしょう。一日だけ、この方の言うことに従ってみましょうよ」

 そこでクーリーは、いくぶん心配しながら、水牛と袋の米を売った。そのお金で、彼は、自分の家族だけでなく、五十人のバラモンに食べさせられる食糧を手に入れた。

 それで、彼は生まれて初めて、家族以外の人々にご馳走をした。


 その夜、彼は不安で、床に就いても眠ることが出来なかった。夜中に起き出した彼は、スワミが小屋の外の地面で寝ているのを見つけた。

 スワミは目を覚まし、クーリーに、どうしたのかと尋ねた。

「貴方の仰る通りにしました。間もなく、夜が明けます。妻と子ども達が目を覚ましたら、どうしましょう? 何を食べさせてやればいいんでしょうか? 何も残っていません。一握りの米も、乳を出す水牛も」

「…………」

 スワミは、黙って自分の持っているお金を彼に見せた。そこには、また一頭の水牛と一袋の米を買うのに足りるだけのお金があった。

 スワミは彼に、床に戻って眠り、朝にどうなるか見て欲しい、と言った。


 クーリーは、悪夢をみて、まだ暗いうちに目覚めた。井戸へ顔を洗いに行った彼は、毎朝水牛に藁を与えていた小屋を眺めた。

 もう餌を与える必要のないことを思い出した時、別の牛がそこに立っていることに気づいた。

『ああ、貧乏ってのは辛いものだ。いない水牛の幻が見える!』

 彼は家に戻り、ランプを持って戻って来た。ところが、それは本物の水牛で、傍らには一袋の米があった!

 クーリーは驚き、喜んで、走ってスワミに報せに行った。しかし、スワミはそれを聞くと、物凄く不機嫌な顔になった。

「どうしてそんなに騒ぐのです? 何がそんなに嬉しいのですか。その水牛と米を、すぐに持って行って売りなさい。ご家族とバラモンに、またご馳走をしてあげなさい」

 クーリーは、今度は疑うことなく彼に従った。新しい水牛と米を売り、食糧を買い入れ、残さずに、家族と五十人のバラモンにご馳走した。


 それから彼の家では、毎朝一頭の水牛と一袋の米を売って、家族とバラモンにご馳走することが続いた。

 一ヶ月が経ち、師匠の息子にこの暮らしが根付いたことを確認したスワミは、こう言った。

「私の先生の息子さんが惨めな暮らしをしていると聞き、何とかしなければならないと思いました。私に出来るのは、これが精一杯です。貴方がやっていることを、やり続けてください。決して、自分のために残しておこうとはしないで下さい。それをしたら、貴方の幸福は終わってしまいます。もし貴方がそのお金を貯めようとしたら、この幸福は、貴方を見放すでしょう」

 賢者の息子は、この聖者の忠告に心から感謝していたので、彼の言ったことを何もかも実行すると誓った。

 すると、スワミは言った。

「貴方の妹さんは、どこにいますか? 私が二十年前に別れた時、妹さんは、まだ二歳でした。今、どこにいらっしゃいますか?」

 賢者の息子は、妹のことが話に出ると、泣き出した。

「どうか、妹のことは訊かないでください。あれは、全く駄目になってしまっています。私は、彼女を恥ずかしく思い、こうして幸せであっても、考えることさえ嫌なのです」

 スワミは、ブラフマンの鉄筆が彼女の額に書いたことを覚えていたので、動じなかった。

「何も気になさらないで下さい。どこにいらっしゃるかだけ、教えて下さればいいのです」

「隣村にいます。……村の売春婦になっているのです」

と、兄は辛そうに言った。



4.

 スワミは、導師の息子と家族を祝福して、別れを告げた。今度は、師の娘さんのために、何かしたいと考えていた。

 彼女の住む村へ出掛けた彼は、日暮れ前に彼女の家をみつけ、戸を叩いた。

 戸は、すぐに開いた。――彼女のような職業の者は、二度目のノックを待つことは決してしない。目の前に立っているのがバラモンだと知った彼女は、目を丸くした。

「貴女は、私を知っていますか?」

と、彼は尋ねた。

 彼女は、勿論、彼を覚えていなかった。スワミが父の弟子であったことを説明すると、彼女は泣き出した。偉大な賢者の娘である自分が、今は娼婦になってしまっていることが恥ずかしく、彼女は、彼の足元に泣き崩れた。

 彼女は、親を亡くした貧しさから、こうした世過ぎをすることになった事情や、今の生活がどんなに惨めであるかを話した。

 スワミは、彼女を慰めて言った。

「お嬢さん……貴女が、生きていくためにこういう暮らしに陥ってしまったと伺って、非常に心が痛みます。でも、貴女は、そこから抜け出すために出来ることがありますよ。もし、貴女が私の忠告に従うなら、もっと別な暮らしが出来ます。今夜、貴女は戸を閉めて、第一級の真珠のいっぱい入った大きな枡を持ってきてくれた人にだけ扉を開ける、と言いなさい。とにかく、今夜はそうするのです。朝になったら説明しましょう」

 彼女は、今の暮らしを大変嫌っていたので、半信半疑ではあったが、彼の忠告に従うことにした。

 彼女は、戸に閂をかけ、お客がやってきて戸を叩くと、料金が上がって大きな枡いっぱいの真珠を持って来なければ駄目だ、と言った。客の男たちは、彼女は気が狂ったのかと思い、帰って行った。

 こうして一晩が過ぎようとすると、彼女は、だんだん不安になってきた。

 この村に、最上の真珠を一枡も持って来ることが出来る人が、いるだろうか? そんな人が、果たして自分のところへ来てくれるのだろうか?


 けれども、予言は、なんとしても成就されなければならなかった。そこで、遂に、ブラフマン自身が青年に姿を変え、真珠の山盛り入った枡を持って来て、彼女の家に泊まった。


 ――つまり。彼女は、神を恋人にしたのだ!


 青年は、夜明け前に立ち去った。朝、賢者の娘は、素晴らしい人が真珠の詰まった枡を持って来てくれたと、興奮気味にスワミに語った。

 スワミは、自分の言ったことが役に立ったことを知り、ほっとした。

「今日から、貴女は、女性の中で最も尊い人の仲間になりました。この世に、毎晩枡いっぱいの真珠を持ってくることが出来る人は、殆どいませんよ。彼は、貴女のただ一人の恋人で、夫になるでしょう。他の誰も、貴女に触れることは出来ません。……ただ、これから私が言うことを、よく聴いて下さい。彼が持って来る真珠を全部売って、そのお金を、貧しい人々が食べるために使って下さい。明日のために残しておいてはいけません。とにかく、何も貯めずに、全て与えてしまうのです。これをやらないでしまった日に、貴女は夫を失い、元の惨めな暮らしに戻ってしまいます。私の言うとおりに出来ますか?」

 賢者の娘は、大喜びで同意した。

 スワミは、しばらくの間、彼女の家の近所の木の下で暮らし、様子を見守った。そして、彼女が無事幸福になったのを見届けると、満足し、別れを告げた。

 彼は、新たな巡礼に出発するつもりだった。



5.

 その朝、スワミは、カラスが鳴く声を聞いて朝になったと勘違いし、月があるうちに目覚めた。それでも、彼は旅立つことにした。

 あまり遠くまで行かないうちに、彼は、一人の美しい若者とすれ違った。若者は、一頭の水牛を牽き、一袋の米を頭の上に載せ、一連の真珠を肩に提げていた。

「こんな森の中を、不思議な格好で歩いている、貴方は誰ですか?」

と、スワミは尋ねた。

 途端に、水牛を連れた若者は、米の袋を投げ出し、泣き出しそうな顔で答えた。

「見なさい! この袋を毎晩あの男の家へ運ぶので、私の頭は殆ど禿げてしまった。これから、この水牛を連れて行くところだ。それから、思いっきりお洒落をして、この真珠を彼の妹のところへ持っていく。……私の鉄筆が、あの兄妹の額に運命を書いた。そうしたら、お前という酷い利口者のお陰で、とにかく私はこれらを持っていかなければならなくなった。いったい、いつになったら、私をこの重荷から解放してくれるのだ?」

 若者は、ブラフマンの姿に戻って、おいおい泣いた。

 スワミは、同情しつつ答えた。

「貴方様が、ご自分で、彼等に普通の暮らしと幸福を与えて差し上げないことには、無理でございます……」

 ブラフマンは諦めて兄妹の運命を変更し、己の重荷を取り除いた。


 こうして、運命とブラフマンは、出し抜かれてしまったという。





~第11話、了~


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『掌の宇宙』第11話 解説


《インド タミル・ナードゥ州の民話》


 インド(正式名称バーラト)は、世界第二位の人口(約10億6000万人・2004年総計)を抱える連邦共和国です。28の州、6つの連邦直轄地と首都圏から成ります。連邦公用語はヒンディー語、補助公用語は英語ですが、17の言語が地方の公用語として認められています。


 無数のセクトやカルト、宗教、多くの人種の混合があり、非常に複雑な地域です。数字の0、十進法、大学の創設、医学、円周率、航海術など、さまざまな文化や科学、宗教哲学の発祥の地でもあります。人口に占める各宗教の割合は、ヒンドゥー教80.5%、イスラム教13.4%、キリスト教2.33%、シク教1.84%、仏教0.76%、ジャイナ教0.40%、その他(拝火教、ユダヤ教など)0.12%です。


 言語学的な調査によると、100以上の言語、四つの語族、主要な10種の表記法が存在すると言われています。105種の言語のうち、15種は、人口の95%が使用しており、それぞれを数百万人が話しています。文学作品には、サンスクリットで書かれた古典を含め、2000年以上の古い歴史を持つものがあります。


 タミル語は、インド亜大陸の最南端のタミル・ナードゥ州と、スリランカ北部で使われている言語で、話者は約4000万人以上といわれます。日本語の起源をタミル語に求める学者もいます(大野晋ほか)。


 インドの寓話は、中世ヨーロッパやアラブ諸国の寓話・民話・文学に大きな影響を与えました。特に『イソップ物語』のいくつかは、インドのものだと言われています。



■本文解説


注①:ヒンドゥーでは、結婚・出産・子育てといった社会的義務を果たし終えたものが、出家して解脱を求め、山林で暮らすのが理想の生き方と考えられていました。現代でも、このように老年期を送る方がおられます。家族も仕事も財産も放棄して求道する者は修行者(サドゥー、シヴァ派ではサンニャーシン、ヴィシュヌ派ではヴァイラーギなど)と言われますが、ヒンドゥーでは、俗世のつとめを放棄することを奨励してはいません。人生の義務をきちんと果たし、子ども世代に孫が生まれたら、というのが一般的です。


注②:ブラフマン(ブラフマー)は、ヒンドゥー三大主神の一人です。漢訳仏典では、梵天と呼ばれます。宇宙創造の神であり、神々と生類の主であり、バラモンの神ともされていますが、神話上の地位はあまり高くありません。通常、四つの顔と四本の腕、数珠・『ヴェーダ』・小壺・杓を持った姿で表されます。しばしば、白髪の老人として描かれます。妻はサラスヴァティー(弁財天、知恵と学問の女神)。賢者ダクシャの父であり、ダクシャはシヴァ神の最初の妻・サティーの父です。シヴァとの仲は大変悪く、最初五つ持っていた顔の一つを、シヴァによって切り落とされたという神話があります。


注③:ヒンドゥーは、開祖のいる宗教ではなく、民間宗教(信仰)や民俗であるので、「教」という概念には馴染まないと言われます。三大主神のうち、ブラフマンは宇宙創造を、ヴィシュヌが維持繁栄を、シヴァが破壊と再生を司る――と、表現されていることが多いです。しかし、実際には、三神それぞれに創造神や維持繁栄・破壊神の性格が存在しています。この話では、ブラフマンは神々を創造した神です。


注④:インド西部、西ガーツ山脈に発するクリシュナ川の大支流。


注⑤:インド、中国などにいる、日雇い労働者。荷物の運搬などを行いました。



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