第4話 亡霊
「こちら、アルファワン。これよりAiMによるフォートレスの探索を開始する」
男はそう言うと宙の海へ軌跡を描くように船のハッチから飛び立った。それに続くように白い外装のAiM2機もハッチから漆黒の海へと発進した。そんな様子をセパロンの巡洋艦“ヴァルトローデ”の艦橋からヤカタ中佐と補佐官は見ていた。ファゾルトの機体スペック、そのデータ資料に目を落としながら渋い顔をしている。顔色を窺うように補佐官は言った
「SAM – 61 “ファゾルト”ですか。宙海での活動に特化した高機動空間戦闘を長所とした機体、各部に取り付けられたスラスターによる小回りの利きやすさと瞬時にトップスピードを出せる、と。武装は三連装レーザーガトリング、空間振動ミサイル、レーザーカリバー・・・」
「良い動きをする、流石はハルマニア研究所の新型といったところか。すまないが後のことは君に任せるとしよう。夜更かしもほどほどにしないとな、この年になっては明日に響くのが何より怖いのだ」ヤカタ中佐はそう言うと踵を返し艦橋を後にした。補佐官は自身の左腕につけられた携帯端末へ目を落とした。時計が漆黒の宇宙に深夜の訪れを告げていた。
***
漆黒の海を泳ぐように飛び、三機のAiMは徐々にフォートレスへと接近していく。そんな中先行していた一機から通信が入った。小隊の隊長であるイワノフ大尉は「アルファフォー、何があった?」と聞き返すと、興奮しているのかそれともぎこちない声で通信が返ってきた。
「リアクター音です・・・!周波数、データベース上の機体のどれとも一致しませんッ!」
その言葉を聞いた隊員全員に緊張が走った。
(まるで待っていたかのようなタイミングだな・・・)
イワノフ大尉は小隊全員へ命令を下すと共に待機していた母艦へ通信した。
「こちらアルファワン、データベースに合致しないリアクター反応を確認した。これより接近を試みる」
「アルファワン、こちらヴァルトローデ、ターゲットの位置はわかりますか」
イワノフ大尉はモニターに表示されたリアクター反応とフォートレスの地図を同期させ、位置の特定を試みた。
「博物館直下、展示用AiMの格納庫よりさらに下・・・旧補強用外装資材置き場。なんだってこんなところで・・・?」
「了解しました。直ちにターゲットの目視による確認を行ってください」
「アルファワン了解した。これよりターゲットへの接近を試みる。各小隊員へ通達、事前に支給されていた鹵獲用ネットの射出準備、及び空間戦闘への移行、最悪戦闘も免れん、出来るだけ回避に専念しろ。フォートレスへ危害を加えることだけはあってはならん」
「「
先行していた一機が合流すると四機で編隊を組んだアルファ小隊はゆっくりとフォートレスの一番外側、博物館直下にある外装区画へと近づいて行った。その時――――
「リアクター反応!!動き出しました!!外装区画を上昇していきます!」
「奴は外に出る気か!?」イワノフ大尉は機体を逸らすとフォートレス上部へと上がっていく、続いて小隊の機体も次々に機体を上へと逸らすと追うように上昇していった。
「表層に到着、なおも上昇を続けています!こ、このままではターゲットがシェルターに接触します!」
「人がいるんだぞ・・・!シェルターの破壊など、バカげたことを!!」
フォートレスに沿うように赤色の軌跡を残しながら四機のAiMは幾重にも組み合わさった金属板の向こう側のターゲットを追う。
すると、通信に紛れてセンサーがけたたましい音と共にモニター端で点灯し始めた。
「高熱源反応を感知!フォートレス内側、シェルター付近からです!!」
「う、打つのか!こんなところで!!」イワノフ大尉の予想通り、フォートレスの天井部から青色のエネルギー粒子が真っ暗な海を掻き分けるように放出された。眩しい光が小隊員の視界を埋め尽くす中、無重力の空間へと飛び散ったフォートレスの天井だった鉄屑を掻き分け、彼らの追う“ターゲット”がゆっくりと姿を見せた。
イワノフ大尉を含め、その場にいた全ての人間が魅せられていた。その人の形をした銀色の鉄塊は両の腕を頭上に持っていくと、大きく手を広げた。
「なんて、神々しいんだ・・・」隊員の1人が声を上げる。それはまるで誕生を喜ぶ天使か、あるいは破壊への歓喜か、爆風巻き起こるフォートレスから飛び立つかのように浮かぶターゲットを前にイワノフ大尉はハッとしたようにヴァルトローデへ通信を入れた。
「こちらアルファワン、ターゲットを確認した!映像を今すぐ送る。また、ターゲットはフォートレス第3区画の天井を破壊し外に出た模様、ターゲットはこちらでフォートレスから引き離し鹵獲する!」
「こちらヴァルトローデ、映像を確認しました。至急ターゲットの鹵獲を行ってください。フォートレスへの被害は想定済みです、そのまま鹵獲行動を優先してください」
淡々と指示を下すオペレータの声に対し、徐々に崩壊していく天井を見つめていたイワノフ大尉は声を荒げた。
「フォートレスの被害は甚大、これ以上フォートレスを危険にさらすわけには・・・ッ!なんのためのセパロンだというのだ!!」イワノフ大尉が小隊へ通信をしようとしたその時だった。オペレータとは別の声、耳をつんざくような声が響いてきた。
「何を言っているのだ君はァ!!今、目の前にいるのは遥か太古の人類が残したオーバーテクノロジーそのものなんだぞ!逃げられでもしてみろ!!君1人では到底背負いきれない損失をセパロン、いや!人類にとって大きな損失に成り得るという事がわからんのか!!フォートレスの一つや二つ、人間の百人、二百人など問題ではない!武装を活用して迅速に鹵獲したまえ!!」けたたましく叫ぶように言う男の声にイワノフ大尉は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると抗議の声を上げようとした。
「ホ、ホーウェン技術長官・・・ッ!しかし、これではフォートレス・トーキーが・・・・・・了解。アルファ小隊、これよりターゲットを以降“
しかし、ホーウェン技術長官の人格を知っていたイワノフ大尉は歯を食いしばり、怒りを抑えながら一刻も早く任務を遂行させるため、それが被害を最小限に抑える方法だと信じ、亡霊へ向けガトリングのトリガーを引いた。
星海のスペランザ 蒼北 裕 @souhokuyuu
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