1-3 白い部屋(LU3004年149の日その3)
この世界には魔法という力がある。
人の持つ可能性の発露、世界自在法。
様々な呼び名があるが、つまりは詠唱という流れをくんで、一種の超常現象を起こすといったものだ。
それは軍事から家事まで幅広く扱われ、もはやこの世界ではありとあらゆる事にはかかせないモノになっている。
何故、このような力を人が持つようになったか?
これには諸説あるのだが、必ず共通している一文がある。
それは“龍が人に授けた”という一文である。
龍とは、この世界を運営する5体の礎であり、この世界はその龍によって成り立っていると伝承されている。
そんな神にも等しい存在が人に魔法という力を与えたというように言い伝えられているのである。
この魔法というものには『火』、『水』、『風』、『土』の4つの属性があるとされている。
人はそれぞれの適性に合った魔法を学び体得し、それを生活の中で扱っている。
だが、稀にこの4つの属性の中に該当しない魔法を扱う者が現れる事がある。
本来、存在しない筈の虚ろな属性。
それが第五の属性『虚』である。
先天的に授けられるとされるそれは記録上、この『虚』の力を持つ魔導師は1人だけであった。
その魔導師の名をミコトと言う。
彼は7世紀程前、帝国の仇敵である共和国との戦争の際に劣勢にあった帝国に現れた。
彼は帝国に助成し、たった1人で帝国を攻めていた共和国三軍と正面からぶつかり、それを壊滅に追いやり戦争を勝利に導いた。
元来、魔法とは万能のように見えるが様々な制限があり、たった1人が行える事などたかが知れたものだ。
とてもではないが1人が1軍を凌駕するなどといったことが出来るようなモノでは無かった。
だが『虚』と呼ばれる属性の持ち主はあまりに常識の外にあるような力を持っていた。
伝承によれは、彼の魔法は彼の魔法に触れたありとあらゆるものを消滅させてしまうものであったらしい。
なんらかの自然現象の発展でしか無いそれまでの魔法とは一線を画する代物であり、それはその後、存在しない筈の第五の属性として扱われる事になる。
そしてその力を持つ者は一国の軍事力に値する力を持つとされ、それ以降、五大陸の各国はこの虚属性獲得者を探すのに尽力した。
だが、以降3世紀の間、『虚』を持つ魔導師は1人も現れなかったのだという。
そうして各国は次第に『虚』を探すのは辞め、『虚』は伝説の中だけの魔法となった。
そんな中で一国だけ、その捜索を諦めなかった国があった。
それがクライス神聖教国である。
『D』と呼ばれる宗教を国教とするその国は虚属性獲得者を龍の御子と呼び、この世界はいつか滅び行く世界でその滅びを回避する為には救世の力を持つ者の力が必要なのだと唱えた。
そうして捜索と保護という名目で他国へ幾度も侵略まがいの行為を繰り返したとされている。
200年ほど前に起こった戦争でこの神聖教国は終焉を迎えたが、その国内で作られた様々な組織は未だにその『虚』を持つものを探し研究しているのだと言う。
『白い部屋』と呼ばれる組織も、その一つなのだろう。
そして、それが求めた人材という事は、つまり――――
「この子が、虚属性獲得者だという、確証はあるのか?本当に奴隷として欲しくて買われたという可能性は無いのか?」
アークライはクレアに問う。
「無いな、仮にも教団から派生した一組織だ。彼ら『D』は人身売買を糾弾しているのは知っているだろう?彼らは既にいくつも奴隷の競売会を文字通り壊滅させている。そんな彼らが、わざわざ自分達の考えに背くような行為をすると思うか?」
「確かに考えづらいな。だが、『D』にも色々派閥はある、過激派ならば―――」
そう続けようとするアークライの言葉を遮るようにしてクレアは否定する。
「無いな、アークライ、それは私がよく知っている。もし過激派と呼ばれる派閥が動くならば、例え、この国であろうと奴隷の競売会などに参加せず、彼らご自慢の聖教騎士団もしくはかの十柱の誰かがやってきて壊滅させている筈だ。それが、わざわざ己の意を曲げるような事をしてまで奴隷を買うなどありえない。それもわざわざ競売会に出る前の奴隷をだ。」
「――――競売会に出る前?どういう事だ?」
「そうだ、我ら帝国騎士団としても大変遺憾ではあるのだが、奴隷というのはそれ用の競売会で競りを行い、通常売られるものだ。それが競りに出される3日前にこのミアを競売にかけようとしていた奴隷商に『白い部屋』から競売にかける前に1000万ユピで彼女を売ってくれないか?と交渉が入ったらしい。」
遺憾とクレアが評したのは今代の皇帝は既に勅令として、奴隷制度の撤廃を命じたからである。
それ以降、帝国騎士団を始めとする各国家機関は奴隷競売会の取締を行っているが、それまで行われてきた奴隷制度の撤廃は帝国内の富民層からの反発も強く思うように検挙ができていない状況なのだという。
アークライは悪友が憎々しげにこの現状を見て「奴隷制度の撤廃なんて形だけでなんの意味も成してない代物だ。」と言っていたのを思い出した。
「この際に、『白い部屋』は法外な値段をこのミア・クイックに付け、奴隷商から買い取ったそうだ。お陰で奴隷商は大儲け、そこらあたしでそれを自慢するものだから、今回我々にその尻尾を掴まれる事になり、それから色々と情報を得ることが出来たのだが…まあ、これはいい。さて、アークライここで注目するべき点はどこかわかるだろう?」
そう問うクレアに対して、アークライは答える。
「まあ、競売会に出る前にこの子を買うというのも性急だよな。値段が1000万っていうのもとんでもだ…俺の知るかぎりじゃ奴隷なんていいところ20万から、質の良いとされるものでもついて40万が関の山だ。普通に競売に参加したってそれだけの予算があれば、確実に10分の1未満の資金で彼女を買えただろう、つまりは奴らは何より早く手に入れる必要があった…もしくは、この子を競売会に出させたくなかったと言ったところか…。まあ、普通に考えると後者だよな。」
そう考察を口にするアークライにクレアは頷く。
「そうなる、つまり、彼らには彼女を見せたくない理由があったという事だ。もし、彼女が虚属性獲得者であり『あの虚』に比類する程の力を持つのだとすれば、各国が彼女を求めて、最悪世界的な戦争へと発展する可能性もある。それほどの存在であるとするならば、彼らが出来る限りひと目に付かないようにそう取り計らったと考える事も出来る。それに彼女はすぐに虚属性の研究機関である『白い部屋』へと送られたそうだ。状況証拠だけではあるが、これらから彼女が虚属性獲得者である可能性が高いと言っていい。そんな訳で我々は彼女の存在を知ってから、なんとかして彼女の保護が出来ないかと考えてきた。」
アークライはそう聞いて話の本題を掴んだ。
そして、呆れて溜息を吐く。
「はあ、それで?俺にその『白い部屋』からこの子の奪取を依頼したいという訳か?勘弁してくれよ、クレア…仮にも教団の一組織なんだろ、これは…?そんなのを一介の交渉屋が敵に回すのは無謀というよりは自殺行為だ。正直、勘弁願いたいね。」
もしそれが出来ると目の前の人物が本当に信じているとするならば、過大評価も甚だしい…。
そういうニュアンスを含めて、アークライは言う。
それにクレアは意外そうにして、
「なんだ、君は馬鹿か?君ごときが教団を相手に出来る訳がないじゃないか…君なんかが『白い部屋』に立ち向かうなんて、それは蟻が象に挑むようなものだ。君みたいな弱者が立ち向かえる相手じゃないのだよ、特に断罪者なんかと出くわしたらその時点で君は一瞬で挽肉にされるぞ?」
そう何を当たり前の事をと言った。
その一言にアークライの表情が凍る。
その後、アークライはこめかみをピクピクさせながら、
「…なんか…いま、心底コケにされた気がするんだが…。」
「いや、事実だ、君は自分の事を過大評価してないか?私の中では君ほど、自分の事を正確に評価している人間もいないとは思っていたのだが、ふむ…時間や環境というのは悲しいものだな…私の尊敬したアークライ・ケイネスはもう過去の人のようだ。だが、心配ないそれぐらいで私と君の友情は終わりにはさせないさ。」
冗談の欠片もなく真顔でそう言うクレア。
「久しぶりにお前に殺意を覚えたよ…。」
先ほど胸中で思っていたことを人に言われるとこうも腹が立つものなのか…。
「何故だ。」
真に受け、真剣に考えこむクレア。
恐らくは彼女の脳裏では今、何故、今自分は死ねとまで言われなければならかったのだろう?等といった思案が駆け巡っているのだろう。
アークライはそれに呆れ、もうどうでもよくなって…。
「いいよ、お前って昔から、そういう奴だよな、はぁ、変わってねぇなぁー。」
クレア・ローゼンは昔から歯に衣着せぬ物言いをする人間だった。
そのせいで騎士団内の交友関係は良いとは言えず孤立することも多かった。
それで事件にまで発展して一悶着あったぐらいだ。
基本的にそういった性格はその内、刺を抜かれる要領で組織内で変わっていくものなのだが、クレアの場合は今もアークライと出会った頃から変わりない。
ある意味ではクレアのブレの無さにアークライは感動に近い感情を覚えた。
「だが、今回の仕事に関しては断るぞ、お前もわかってるみたいだが、俺が教団相手に立ちまわるなんて無理だ、無理。たかだか一介のそれもフリーの交渉屋がやれる範疇を超えている。大体、どうやってその『白い部屋』とかに侵入しろっていうんだ…。」
そんな発言を受けて、クレアは少し悩むような素振りを見せたあと、真顔で言う。
「――――は?どこの誰が『白い部屋』から、ミア・クイックを奪還しろと言いましたか、このアンポンタン。」
…
………
……………
…………………もう嫌だ、こいつと会話するの…
そんな事を思い、アークライは少し涙ぐんだ目を擦る。
ここまでボロボロにメンタル破壊されるのは何時以来だろうか…。
義理の娘とはいえ、しっかり母親の娘やってるよ…お前…。
「どこいったんだ…どこいったんだよ、これまでの長い長い教団の話とか、それの為の前フリじゃないの?」
「そうだ、前フリだ。これまでの話を含めてな…。」
アークライは長ぇよと内心愚痴った。
そんな事も知らずにクレアは続けた。
「さて、この『白い部屋』に買われたミア・クイックだが、我々がその存在を知ったのは彼女が買われた1月後でな、先に説明したがミア・クイックを売った奴隷商を捕まえた際にこの情報を入手した。それから、団長の命令で彼女と『白い部屋』の情報を調べた。結果な、『白い部屋』ではミア・クイックに虚の所持者であることを確かめる為に様々な実験を繰り返していたそうだ。」
「実験?それは、明るみに出ると不味いタイプのものか?」
アークライの疑問にクレアは頷く。
「そうだ、『白い部屋』という組織は成り立ちこそ人類の虚を研究する機関ではあるのだが、どうもその設立者は純粋な『D』の信者ではなかったらしい。ある種、資金繰りや研究をしっかりとしたバックボーンの元に行う為に『D』を利用したといったような機関だそうだ。」
「嫌な話だな…。」
その実験には恐らくは非人道的なモノもあったのだとアークライは推察する。
『D』教団は基本的には来るものを拒まずといったような方針を掲げている。
過去に悪事を働いた者でも平等にその教えに則った償いをすることで罪を清める事が出来る。
アークライからしてみれば、ふざけたものだと思う所ではあるがそのような教えがあった。
ゆえに利用されやすい。
悪意を持って教団に近づいた者も教団は拒まず受け入れる。
結果、内部にはその教えを遵守する敬虔なる信徒と、その教団自体の力を利用しようと近づく者がいるというわけだ。
つまり、『D』教団といっても一筋縄で行くような宗派ではなく、それこそ木の根のように数多に分かれている。
かの神聖教国が兇行に及んだのも、そういった多様化によるモノだという見方は強い。
聞く限りでは、『白い部屋』もそういった教団の力を利用するために教団の信徒となったものが作り上げた機関なのだろう。
その手の輩に共通しているのは目的の為に頭のネジが飛んでいるような奴らが多いということだ。
倫理観といったものを何処かに忘れ、自らの欲求を満たす事だけにその全てを使う。
それでいて、その狂気を隠すのが上手いのだから困ったモノだ。
そんなものを過去にアークライは一度、その目で見て経験している。
それをふと思い出し、アークライは右手を強く握りしめる。
握り締める右手に痛みは帰って来ない…。
「『白い部屋』がミア・クイックを捕らえていた研究施設は帝国国内にあったのを我々は発見した。元より色々非合法な施設でな、我々はその位置を確認した後、彼女の保護の為に検挙を名目に突入の機会を伺った。」
「―――結果は?」
「制圧には成功したよ、ただ色々面倒事があった。突入の決行を予定した日、それがLU3004年127の日だ。」
アークライはすぐにその日が何を意味するのか察する。
いや、その日が何の日なのか、この帝国に住む人間は向こう5年は忘れられないだろう。
「ルスカの天災か…お前らも運が無いというかなんというか…。」
「いや、逆にチャンスではあったのだがな…危険ではあったが、その日ならば、奴らも天災への対処で手一杯だっただろう?事実、指揮を取っていた団長は少数精鋭で突入を計画し、実行した。」
「はは、あの人らしい。」
人が予測出来ない事をするというのが策なのだと、そうアークライに教えた老婆の顔を思い出す。
無論、それが形になるのはそれを教えた人物があまりに規格外な人間であったからこそでもあるだが…。
「だが、突入を前にしてな、我々は研究施設が別のことで慌てふためいている事に気づいた。最初は天災でどこかの施設に問題が起こったのかと思っていたのだが、どうも斥候として送り込んだ者からの報告ではそうでは無かったらしい。」
「というと?」
そう問いながらもアークライは今までの話からなんとなく、その答えを察する。
「ミア・クイックが天災にかこつけて脱走をしたらしい。」
「お前たちは気づかなかったのか?」
「大雨で何せ視界が悪かったからな、雨具がなければ目を開けていることすら出来ないほどの大雨だ。そんな中で全てを見ろというのは無理なものだ。」
「まあ、仕方ないな…。」
あの天災はアークライも甚大な被害を被った。
視界が雨で塗りつぶされ、雷がそこら中に降りしきったあの日。
今暮らしているこの部屋も2階であるにも関わらず、一時期は水が床を湖にしていた程だ。
排水作業にも手間取って同居人である少女と共に5日かけて排水したものだった。
「施設を制圧した我々は彼らの研究資料を押収し確認したよ、ミア・クイックは確かに虚属性獲得者であるようだ。それに彼女はそこでかなり酷い目に合わされていたらしいよ。」
「それに関しての詳細はいい、聞くだけで胸糞が悪くなりそうだ。」
「だろうな、君は特にそうだろう。」
「まあ、大体は了解した、それで、何処の誰に今度はこのミアって娘が捕まったんだ?」
核心へと話を進める。
つまりはそういう事なのだろう。
ルスカの天災の日、『白い部屋』の研究施設からミア・クイックは脱走した。
だが、彼女はおそらくまた誰かに捕まってしまったのだ。
それも恐らくは騎士団が手を出せないような人物に…。
だからこそ、クレアはアークライにミア・クイックの奪取を依頼しにきているという事だ。
「流石だな、アークライ。話が早くて助かる。」
クレアは感心するようにしてそれを肯定する。
「誰でもわかるだろ、大体遠回りすぎなんだよ。もう少しコンパクトに話せないのかね、お前は…。」
そう呆れたように言うアークライ。
「いや、ここまで話をしたら、君ならもう断れないだろう。」
「はい?」
そこまで来てはっと気づく。
アークライはそれの存在を知っているからすんなりと受け止めたが、よくよく考えてみれば虚属性獲得者にしろ、『白い部屋』にしろ、機密に類する情報であり、本来一般人に話していい内容ではない。
それが今、公然とクレア・ローゼンの口から出ているという現状、この意味を考える。
結論はすぐに出た。
「…ハメやがったな…。」
「すまないな、君に今回の依頼をする際、普通に申し込んでも断られるだろうと思ってな…少しずるい事をした。それに私だって一蓮托生なんだぞ?」
アークライは呼吸を抑えて感覚を研ぎ澄ませる。
部屋の扉の向こうに人の気配を感じた。
今回、クレアから話されたそれは国家機密に類する情報である。
さて、それを知った人間はどうなるのか?
当然ながら口をつぐませる必要が出てくる。
良くてどこかの帝国機関への就職、悪ければ投獄までは想像に難くない。
「それが友人にする事かよ…。」
「心配しなくても、断ったところで、そこまで悪くなることはない。その辺りは養母ははが取り計らってくれている。ただ、2月の間は身柄を拘束させて貰う事になる。こちらとしても体裁を整えなければならないのでな。」
「それでお前はどうなる?」
「それも私はローゼンの娘だからな。まあ、機密漏洩で禁固刑1年ぐらいで済めばいいか…。」
そう言いながら少し目が泳がせるクレア。
相変わらず嘘の下手な奴だとアークライは思った。
機密を漏らしたクレア・ローゼン自身もただでは済まないだろう。
むしろ責任はクレアの方が重大と言えた。
一蓮托生とはつまりそういう事だ。
おそらく、これはカレン・ローゼンの入れ知恵だろう。
あの老婆はこうすればアークライが良心の呵責に苛まれ断れない事を知っている。
「わかったよ、引き受けるよ。それに今、この家は俺だけが住んでるわけじゃないんだ、ちょっとそいつを1人にしてしまうのは気が引ける…。」
「すまないな。」
クレアは少し罰が悪そうな顔をした後、
「しかし、もう一人住んでいるというのは初耳だな、誰もいるような気配は無いが…。」
「あとで紹介するよ。それで、このミアって娘はどんな奴に捕まったんだよ。」
そのアークライの問に対し、クレアは封筒の中から、新しい写真を取り出し、アークライに渡した。
そこには無精髭を生やした短髪の男が写っている。
目につくのは全ての指にはめている宝石の指輪だろうか、それだけで富民層の人間だというのはアークライもすぐに察した。
そして騎士団が手を出せない理由も理解する。
「名を、リカルド・ミラーバスという。ミラーバス家の嫡子だな。」
「それは、それは、また酷く萎えさせる名前な事で…。」
アークライは心底、嫌だと顔に出して言う。
それにクレアはまったくだと苦笑した。
ミラーバスといえば、代々帝国の政を行なっている六家の内の一つだ。
そしてその中でも殊更に評判が悪い。
下層への抑圧、重税を課し、自らの私服を肥やすような政策を幾度も立案している。
奴隷制度の撤廃に最後まで反対したのもこのミラーバス家だ。
それでいて、富民層や貴族が住まう上層には利益を催すように政策を組み立てるのだから、上層からの評価は高い。
その裕福さを盾に様々な所へ賄賂を送っているという噂もある程だ。
「このリカルドはな、毎年、自らの支持者を集めて、完全招待制のオークションを行なっている、支持者へ催す余興としてな。いわゆる非合法ブラックオークションという奴だな。1日で金5000は軽く飛んでいくのだそうだよ。」
「そこの品目に?」
「ああ、彼女らしきものがあった。見たこともない魔法を扱える奴隷だそうだ。先に掲示された容姿も非常に似通っている。リカルドは今回の目玉商品として彼女を掲げているよ。彼はそれをあのルスカの天災の日に手に入れたと言っている。」
なるほど、状況証拠だけではあるが可能性はかなり高そうだ。
「へぇー。ならば、騎士団が検挙しにいけばいいじゃないか?非合法なんだろう?何の為の警察権だよ。」
「耳が痛い所だが、我々は所詮は国の機関だからね、六家と対立するとなると、それ相応の準備が必要になる。彼らが言い逃れ出来ない程の証拠を含めて掲示できるようにしないとね。だから、一番良いのは現場を抑えることだが、このオークションは完全招待制だ。つまり参加権として魔痕の登録が必要になる。もし魔痕が登録されていない人物がここに入ろうとすれば、オークションを行われる場所に張られた結界に弾かれてしまう。だから、我々はその非合法オークションの会場には近づくことすら出来ないんだよ。それに我々は団員全ての顔と魔力波長を彼らのデータベースに登録されてしまっている。近寄れば感知されてしまうという訳だ。国家機関の弱みだね、まったく。」
「なるほど、それで俺が選ばれたという訳か…。」
「虚属性獲得者への理解があり、なおかつ、データベースには乗っていない人物。それでいて腕の立つ人間でなければならない。何より君はその特異な体質もある。アークライ、君以外適任者がいないのが、実情だ。」
「とはいえ、完全招待制のオークションなんだろう?それにどうやって潜入するんだ?何の用意もなく行けと言われたって、たかだか5日で用意するのは無理だぜ?」
潜入用に偽物のパスを手に入れるにしても手続きが必要になる。
そんな入手度ランクAAの代物を手に入れようとするならば、時間も資金も相当量のものがかかるだろう。
それを5日でやれといわれても物理的に無理がある。
「その点は抜かり無いよ、確実に潜入出来る方法をこちらで用意した。」
「無茶苦茶な方法じゃなければ良いんだがな…。」
「それはお楽しみだよ。」
そうクレアが笑う。
「それで俺がやるのは、このミアって子の奪取だけでいいのか?」
「いや、あと一つ、結界の破壊をしてもらいたい。」
「破壊?」
「そうだ、オークション会場に張られている結界は内部からの破壊は容易なタイプでな、結界の要となっているものを破壊すれば、すぐに解ける筈そうだ。そうすれば我々も増援として君の仕事のフォローをすることは出来る。君の逃走ルートの確保もその際に行う。」
「了解した。んじゃ、まぁー細部煮詰めるか…マナ、起きてるか?」
そう言ってアークライが地面をとんとんと足踏みした。
するとアークライの影が揺れ、その後、影の中からぬらりと1人の少女が現れる。
「んにゃ…アーちん、呼んだ~。」
眠そうな目を擦りながら少女はだるそうに言う。
「誰だ!」
そういってクレアは剣の柄に手をかけ、抜く。
その動作は一瞬で行われ、その矛先を少女に向けた。
「あわわわ、なんでいきなり、このスタイルが結構良さ気でも貧乳なお姉ーさんに、マナは殺されかかっているのですか!!!」
眠気が覚めたようにして、慌てる少女。
「これは誰だ?アークライ、答えてくれ…。」
クレアが鬼気迫るようにしてアークライを睨みつける。
当然だろう、今ここで行われていたのは本来なら口外無用の話だ。
それをクレアの知らない第三者がいる部屋で話していた事になる。
「さっき、言っただろ、同居人がいるって、それがこいつ。」
そういって、アークライはその少女の首を後ろから掴んで持ち上げた。
「あのーアーちん、ちょっと首が締まってるのって気のせいかなー、なんか気のせいかなー?マナはこんなにアーちんに尽くしているのになんで、こんな扱いが雑なんだろう…。」
そう抗議する少女マナ。
クレアは未だ警戒を解かずにマナを睨んでいる。
「一応、周囲に聞き耳を立てている人間がいないかどうか確認してから話を始めたつもりだったが、私の警戒が甘かったか?」
アークライは笑う。
「そうでもないさ、こいつの隠遁術はかなり特殊でな、今まで俺の知る限りこいつが影に隠れている時、こいつの気配を察する事が出来た奴なんていやしない。」
「とはいえ困ったことになったな、今回の話は君のみに聴かせる物として必要以上に踏み込んだ所まで話をしたのだが…同居人がいるとは言っていたのは覚えているが外出中なのだと勘違いしていたよ…。」
「心配はいらないさ。それに今、俺はこいつと組んで仕事をしている、つまりは俺に仕事を依頼するということはこいつに依頼をするということでもある訳だ。だから別にお前は間違った事はしてはいないよ…。それにこいつ、割とバカそうな顔してるけど、顔の割には口は硬いよ。」
「むぅー、誰が馬鹿面だ!!」
そういって暴れてぽかぽかとアークライを叩く少女。
クレアはその時、マナと言われる少女の身体に違和感を抱いた。
視線をマナを中心に左右上下とさせた後、それが何を原因としている違和感なのか気づいた。
「尻尾?耳も…まさか獣人…?」
クレアが驚きに目を見開く。
ズボンから外に出ている毛むくじゃらの尻尾、それに頭に大きくある人ではない獣の耳。
それはマナが獣人である事を示していた。
「そうだ。まあ、とりあえずその剣、下げてやってくれないか、こいつさっきから暴れて敵わん。」
そう言われ、クレアは剣を下ろし、鞘に収めた。
それを確認した後、アークライはマナから手を離す。
「ふぅー助かったー、それでアーちん、このおっぱい無さ気なお姉―さん誰なのさ?」
「依頼人だよ、次の仕事の…。」
「えー、このお姉さんあんまりお金持ってるようには見えないよー。」
そういうマナの頭にアークライは左手でチョップを放つ。
「あいて!!!」
マナはアークライを涙目混じりで睨んだ。
それをそ知らぬ顔で受け流し、
「お前の目ってほんと節穴なのな…ちょっと黙ってろ。」
「そ、そんな…マナから喋る事を奪ったら、いったい何が残るっていうのさ。」
「知らん。」
そんな二人のやり取りをクレアは睨むように見つめながら
「それで、そこの獣人のお嬢さんとはどういう関係はなんだ?少なくともお前が騎士団を抜けた時はそんなものを連れていた記憶は無かったが…。」
「え、お姉さん昔アーちんと知り合いだったの、もしかして昔の彼女とか、もしくは2号さんとかそういう事!!!」
アークライはマナの頭に再びチョップした。
マナは涙を目に浮かべながら、憎らしそうにアークライを見つめる。
「だから、黙れ、次アホな事抜かすと右でやるぞ。」
「あい…。」
アークライの言葉にマナは項垂れる。
そんな二人のやり取りにクレアは溜息を吐いた。
「まあ、もう起こってしまった事は今更どうにも出来ない。でも今回、オークションに送り込めるのは君一人だ。彼女を連れて行くのは―――」
「その辺りは大丈夫、さっきの見てたろ?こいつは影に潜り込める。それで一緒に潜入は出来るさ。」
「偽装魔法における監査も厳重におこなわれている。確かに先ほどの技は私も気づかなかったし、凄いものだとは思うが、彼女がいかに強力な隠形の魔法使いであったとしても、それを掻い潜れるとは思わないな。」
「ああ、その辺りは心配いらない。こいつの隠遁は魔法じゃない。」
クレアは少し驚いた後、魔法じゃないという言葉を噛み締めるように考え、
「まさか遺物か?」
「――――企業秘密だよ、その辺りはな。」
そう答えるアークライにクレアは納得がいったと頷いた。
「なるほど、理解した。しかし、君は本当に面倒ごとに巻き込まれる体質のようだね。」
「その面倒事を連れてきた奴がいうんじゃねーよ。」
「なるほど、それは痛いところを突かれた。」
「それで、さっきから気になってたんだが、実際問題としてどうやって侵入するんだ?俺にはそれだけ色々な結界が張ってあるのならばさっぱりなんだが…。」
「ああ、それはね。」
クレアはにこりと笑った。
-year 3004 Day 149 END-
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