#35 エピローグ

 それからの記憶は曖昧だ。


 プリステスと半月バンイェは何とか生き延び、今も貧民街にいるという。

 蜘蛛アレニェは両肩を失いつつも生きてはいたようで、機巧人形マキナ・ドールとともに港湾街に停泊していた船に乗り込み、北方へと戻ったようだ。そのあとの行方は分からない。

 

 俺はクラリスとともに街に戻り、しばらくして裏社会に戻った。

 クラリスは、俺に表の世界で生きていけ、と言ってはいたが、それはもう俺には不可能だ。法や倫理を幾度となく破り捨てた人間には表の世界は居心地が悪すぎる。そこで生きていくことは俺にはできない。


 時々シエルのことを思い出す。

 俺には今もまだ、あの少女が死を選んだ理由が分からない。

 目的を失ったからか?

 それとも、エミールを失ったからか?

 いや、その2つは同義だ。

 だが、俺はそうではないと思うのだ。


 彼女は死を選んだ。それは果たして誤った選択だったのだろうか。むしろ、彼女は言っていたではないか。死を選ぶ自由もあるのだと。彼女にとって、あの瞬間こそ初めて機巧人形マキナ・ドールではなく人として生きられた瞬間だったのではないだろうか。


 わからないまま、時は過ぎる。

 今日もまた、俺は街の裏側を這いずり回る。

 でも、俺はもう野良犬じゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰と野良犬のラプソディ 鯛あたる @tai_ataru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ