第37話ぶちかます

本日の一品:ヤマトカマスの一夜干し


小カマスは鱗だけ引いて塩水に漬けておく。

半時間ほど漬けておいたらそのまま干す。


焼きながら身を毟って食べるのがよい。ぬる燗がとてもよく合う。




本文


 私はイライラしていませんよ。


 今回は水カマス、小カマスとして入荷されることが多いヤマトカマスの話題をしてみたいと思う。よく干物等で使われる大きなカマスは赤カマス、他にも毒を持つ鬼カマスとかなんやら色々いるけど関東の魚屋であれば赤カマスと水カマスだけ覚えておけば問題ありません。

 実際にカマスと一緒くたにされて売られておりますし、お客さんのほうでも気にしておりませんでしょう。食べ方は変わらないですし。


 カマスの食べ方としてみれば一番有名なのが干物、大きな物を開いて潮風で身を締めてから焼き上げるあれはとても良いものでございます。焼きたてで脂がジュワジュワしている部分をむしり取って飯と一緒にかき込む、塩気の効いた白身と飯の甘みが混合して織り成す口福はとても良いものであります。好みで大根おろしだの酢橘等を添えて戴いても宜しい物でございます。

 他にも塩焼きと言うお客さまもいらっしゃいましてよく鰓腸を取ってくれと注文が来るのでございます。この場合ですと身が柔らかいので一回塩で締めるくらいの気持ちのほうが美味しいかと・・・・・・あまり聞きませんのが煮魚、美味しいと思うのですけど身が柔らかいので解けてしまうのでありましょう。

 鮮度がよろしければ刺身にしても美味ですし、昆布〆にしても良いものであります。刺身にする時は皮付きのまま三枚におろして小骨を抜いてから焼き霜にしても宜しいですし、皮をはいでも宜しいのであります。よくカマスの刺身を作りますと「えっ!」と驚かれることが多いのであります。偶に加えておくと客様のウケを取れるので魚種の少ない時には重宝いたします。

 個人的には天麩羅フライ等にしていただくというものは良い物でございます。昨日なんぞは小カマスの良い物が手に入りましたのでフライ用の開きにしてばら売りと洒落こみました。金曜日ですしね(執筆日2013.5.18Sat)・・・・・・・・・・・・・はい、ダジャレです。説明は致しませんよ。フライにすると柔らかい身が衣によって保護されてふんわりと仕上がるのであります。外側のかりっとした衣に中はふんわりとしていて一口齧る毎に汁が口のん中を蹂躙するのでございます。好みで味をつけても宜しいのですけどまずは一口目はそのまま食べてもらいたい物でございます。


 そんなカマスの小さいのを仕入れた時、よくこれ見つけてきた名とか思ったりしたのは秘密であります。カマスは足が速い魚で小さい物なんか下魚扱いもしくは地元消費の素材だと思っていたのですから、お客さんも物珍しげに一つ二つ手に取る程度なのでございます。

 まぁ、カマスとなれば小さくとも塩焼きなんだろうなとあたりをつけて下処理済みの物をちょろちょろと購入されていくので隠れた売れ筋商品になりそうだと心に留めておくのでございます。実際に何度か入荷しているうちにお客様が付いてきてくださいまして

「今日は小さいカマスはないの?」

 等と問い合わせが来るのでございます。大きな物ですと500円越えとかあるのに対しまして小さなものだと一匹100円しない場合がありますのでそう言った意味ではお財布にも優しいのかもしれません。

「いえいえ、一人一匹つけないと喧嘩になるんですよ。二つ切り分けた時なんかは頭側をとるのがだれだとか・・・・・・・・・」

「うちの主人が糖尿もちでね、大きなカマス一匹だと全部食べてしまって食べすぎてしまうんで・・・・・・・・」

 いろいろあるようで・・・・・・・・・


 そんな中でも暇なときにカマスを開いておいておきますと、干物にするんだとかフライにするんだとか中々悪くない反応を示すのでございます。そこの店の近辺では下処理済みの魚を取り扱う店が少なく調理依頼したくても店員が見つけづらい構造の店が多いので不満を持つ客の取り込みをしているのが店舗経営戦略なのでございます。

 だからと言いましても一匹50円の魚を喜んで調理いたしますというのはこっちの負担を考えてもらいたいのであります。通常の業務に加えましてお客さんの調理依頼に応じないといけませんので動きが取れなくなるのでございます。そして一人が注文すると釣られてくるのがよくある話で10人待ちで30分という結果になるのは仕方がないことだと思います。それで待ち時間が長いと言われましても・・・・・・・・・・私の身は一つでありますので無理な物は無理としか言いようがございません。


 あまりにも注文が多いので最初に調理済みの物だけにしておけば

「丸を置かないとお客さんにアピールできないでしょう。」

 と煩いのが・・・・・・・・・・どうせ購入されるのが処理済みの物ばかりなんですけどね。その日もあまりに調理依頼が多すぎた物でございますから・・・・・・・・・・

 下処理済みの物を積み上げたのでございます。


「さぁさぁ、カマス開きたてだよ!塩焼きにしてもよし!干物にしてもよし!フライなんかも美味しいよ!さぁさぁ、お客さんにとっても楽な調理済みのカマスはいかがかな?」


 混み始めるタイミングで用意するとなかなか釣られてお買い上げになられるお客さまもいらっしゃるもので売れ行きは上々なのであります。

「ここの店はいろいろ作ってあって楽だわ。」

 だの 

「手間がないわ。」

 という声がございますが本音は

「私が調理依頼を受けていると一々作業の手を止めなくてはいけないは注文の要領得ない客の為にチャンスロス(売り逃し)をしたくないわで邪魔されたくないから最初に餌を与えておけ!」

 なのですが(笑)


 まぁ、お客様のほうでも理解なされているようで

「さぁ、楽だよ楽だよ!手軽だよ!」

 等と売り込むと

「にーちゃんが楽なんでしょ!」

 とませっ返されてしまうのは笑い話としておきましょう。事実ですから否定は致しませんけどね。


「其処は嘘でもよいからお客様の為を思って・・・・・・・と言うべき部分でしょう?」

このやり取りは笑い話とか冗談として取られておりますので問題はないです。本音交じりとしても実害はないですしね。


 そんなこんなで流れていく商品、私が上がる間際に

「にーちゃん、カマスの開きもう一枚ない?」

 売り切れです。其処までは私の手に負えません。そのお客様はカマスを戻されまして他の商品をお求めになりました。さすがにね、30枚は最初のうちならば兎も角最後の方になってだと・・・・・・・・・なくなりますって。店でもやるつもりだったんですかねぇ?小さなスナックとかでもうちで注文されることが多いですし・・・・・・・・・

 包丁のないお宅が多くなっているとはいえ飲食店で刺身のさくを切ってくれとか色々あるのも笑い話として取っておくべきなのでございましょうか?疑問である。

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