第35話ばちかい

本日の一品:マグロのヅケ


ヅケたれを作る

醤油2に対して日本酒1(煮切る)好みで味醂を0.5を混ぜておいておく。

つけるマグロはあらかじめ作っておいてからたれに漬けこむ。

20分ほどで引き上げる。濃い味、水の抜けた味が好みならば一晩漬けておく。


他の魚でやっても美味、飯によく合う。茶漬けなんかも最高。




本文

 また懲りずマグロの話題である。題名については良く客が漏らす呟きと掛けている。今回はメバチマグロについて騙ろう。たぶん日本で流通しているマグロ類の中で一番流通しているのではないかと思われるマグロなのだが(間違っていたらごめん)、本マグロとかインドマグロが高級品であるという認識の下で二流品だと勘違いされているものである。


 ある客は言った旨そうなマグロだと


 私は答える。「塩釜のメバチマグロです。」と


 「ばちかい・・・・・・・・・・」


 ため息交じりに戻す客、客よそれは間違いだ。声を大にして言いたい。本当にうまいメバチマグロを食べてみろ!下手な本マグロより美味だぞ!と

 とは言った物のメバチマグロのおいしさとはどこにあるのだろうか?

 ダルマ(メバチマグロの幼魚)はカツオっぽくて脂っ気もない。旨みも薄い気がするのは我見であるがそれはそれで取れた魚に感謝して食べていかねばならないだろう。

 中鉢(大体20キロ前後から)は普通にマグロと言えるのだろうが同等の重さの本マグロやインドマグロに比べてみると脂っ気にかける節がある。逆に脂が苦手と言われる方にはこちらの方が良いという声もちらほら・・・・・・・・使用用途の差で選ばれるのが宜しかろう。

 大鉢(30から40キロ以上)となると脂と味が格段と増してくる。特に南東北の太平洋側で秋から冬に獲れるマグロは脂ものって下手な本マグロよりおいしい物も多々見られる。この辺位になれば口の中でほどける脂とかマグロ特有の酸味を感じさせる旨みが出てくるのである。

 でも不思議と同じ大鉢でも南の方で取れる物にはこれほどの脂が出てこないのである。寒さでもまれるから脂がのるのだろうかとも考えられるのだがその辺の考察をすると沖縄の人間より北海道の者の方が肥満しているとか・・・・・・・ はい、これ以上考察すると今いる職場での人間関係と言うか私の安全が怖いことになりそうなのでやめておきましょう。ですからそこで構えている小出刃を首筋にあてるのはやめてください。そこの出刃研いで手入れしているのは私なんですよ。人の血が付いたら手入れが大変じゃないですか!



 話が逸れました。本当にうまいマグロと言うことで秋口のメバチマグロ、天高く馬肥ゆるなんて言いますが馬だけではなくて魚にも当てはまるのでございましょう。マグロ然りカツオ然りサバ然り・・・・・・・・サバ科しかいないじゃないか!と言う突込みは置いといて、一時期務めていた店で魚屋の握りなる物を作っていた時の事でも

 あれは一昔前でしょうか、私が魚を扱い始めた時の事。回転したての店にて寿司を握るのであります。最もシャリ玉は機械で出てくるのでネタを乗っけるだけなのでありますが、その寿司ネタと言う物は冷凍物を使うと時間が経つにつれて筋のあたりを中心にねじれてくるのであるのです。特にマグロとか筋の強い大型魚類等はその傾向が強いのであります。となると生ネタを中心にして握りを作ることになるのですが生のマグロと言う物はねっとりした舌触りが特徴でそれを寿司ネタにするとなれば切りくずが大変でありましたな。切っていくうちに肉が刃にこびりついて、拭いていかないとすぐに切れ味が悪くなるのであります。どこぞの人切が何人か切れば切れ味が云々と言う話をしていたのは正しい事であります。寿司ネタを10キロも切れば切れ味が落ちてくるし、一日に数本包丁を使いつぶしながら切りまくっていた記憶があります。

 客の方でも生ネタを中心に使っていた物であるから、多少高くても食いつきが良いのですよ。特にマグロに関しては予定数量が10くらいで計画を立てていても30とか・・・・・・・面倒くさいのでマグロだけの単品を作っておいておくと知らない間に消えている。勿論他のネタも人気があるのは多いですよ、エビとかイクラとか・・・・・・・・・・マグロの単品は生のメバチマグロを利用しているしその当時はトロは冷凍の本マグロだったので時間が経つにつれて縒れたり縮んだりするので値段が高くてもあまり人気はなかったですな。実際の話として値段的にも倍くらい違うというのが客側の本音でございましょうが。

 しかし、生のマグロと言うのは当たり外れが大きい物でございまして開けた途端に匂いが出てき始めたりとか(たぶん内臓の未消化物が腐敗した臭いが移ったものと思われる)脂っ気が全然ないとか(魚体サイズの差)中々上手く行かないのであります。

 そんな中でも魚屋の寿司と言う物は色々と洒落のきいた魚を投入することによって一定の顧客をつかんでいましたのは私も記憶しています。因みに私がやったことではありませんよ、その当時の私は下っ端であって一癖も二癖もある爺婆連中の間で右往左往していただけでありますから。その中でも売場の製造数だの先読みだのをして売り上げをコントロールして遊んでいたのは否定いたしませんが。


 話が逸れました。寿司の売り上げはマグロで決まるなんて大げさなとは思われますがマグロ好きな客にとって本日のマグロの良し悪しが購入の基準であったのは否定できません。

 自分で目利き出来る客に聞いてくる客、それぞれでございましょう。中々こだわった客になりますと

「にーちゃんマグロの握り6貫、皮ぎしの脂と腹身、赤身の芯をにかんづつでつくってくれや!」

 等と言ってくるのもおるのですよ。どこのすし屋だと突っ込みを入れたくなるのですが材料自体はありますので作りますよ。勿論作りますよ。客のわがままは金になるのならば応えるのが私のやり方なのでありますから。逆に金にならなければやらないと言い切ったら

「貧乏人は注文する権利すらないのか!」

 とお叱りを受けてしまったのは笑い話であります。因みに貧乏人でも注文する権利はございますよ。それに見合うお代を頂ければ私どもは見かけで差別は致しません。そのお叱りはただのひがみ根性でありますので聞き流すと致しまして、件の注文をされましたお客様。

「にーちゃん、今日はびんちょうのトロとホンマのトロとメバチの皮ぎしでたのまぁ!」

とこだわりのあるご注文をされるのでございます。因みにその当時所属していた店にはマグロ尽くしと言われるマグロ類の盛り合わせがあったのですが個性を主張したいお年頃(60代)なのか単に食道楽なのか?取り敢えずよくあるスーパーでする注文ではございませんが・・・・・・・・・・

 勿論、材料があって金払いの良いお客様なのでお造り致しますよ。ネタの仕込み私、握り私、値付け宅配私・・・・・・・材料の発注まで私という私尽くしで作られた握りでございます。そして出来ましたのが


「ホンマでーす。びんちょうでーす。みなみま・・・・(ぼくしっ!)」

 と前々話当たりで繰り広げられたやり取りをする羽目となるのですが。お客さんには受けましたよ。おひねりはいただけませんでしたが・・・・・・・・残念。


 後日、件のお客さんは若い衆を連れて買いに来てくださいました。

「お客さん、今日は石巻のバチの良いのがあるよ。」

と説明すると若い達が

「バチかい?」

「おぅ、にーちゃん。うちのオジキにバチなんて勧めてんじゃねぇよ!」

 と凄まれましたが

「ばかもんがぁ!彼は旨い魚を知っているんだ。半端晒してんじゃねぇ!」

 と件のお客様が殴るのであります。あのぅ。、店内で暴力沙汰は・・・・・・・

「だってよ、オジキ、バチなんて当たり前のもんじゃないですか。」

 反論する若いのにお客さんは

「ならば食ってみてみろ!にーちゃん、おすすめのバチと本マグロを一人前づつ握ってくれや!」

「少々お待ちを。」

 数分後、件のお客様の前に二つの握りが・・・・・・・・・

「まず、食ってみろ。」

 若いのに突きつけられる寿司。ああ、因みに会計後でイートーンコーナー(休憩所)であります。

「バチマグロなんて・・・・・・・・・・むぐっ!・・・・・・・・・・・うめぇ!」

 続いて本マグロを食べていたのですが、その日の本マグロはスペイン産天然。不味くはないのですがその日のメバチに比べると一歩劣ります。

「・・・・・・・・・・こっちもうまいけど、生の旨さに比べると・・・・・・・・・・ でもよぅ、にーちゃんの店でどうして生の本マグロとかおかねーんだ?大間とかよぅ?」

「大間のマグロなんて置いたらグラムいくらで売ればいいんだって話になりますよ。高すぎて客層に合わないです!まぁ、こっちは私からの好意と言うことで・・・・・・・・・・」

 実際大間の本マグロなんて生で置いても仕入でキロ一万とか超えることがありますしね。となれば売値はグラム3000円とか・・・・・・・・・買えるかっ!希少価値もあって限られた問屋さんで占有しているしさらに高くなるというかいちげんさんでは無理でしょう。数字を語ることはできませんのでその辺は濁してとどめ代わりにマグロのスキ身メバチマグロを軍艦にして味見代わりに提供したら

「普通の赤身でこれだけ旨ければスキ身はもっとうまいんだよなぁ・・・・・」

 正確には赤身の芯と皮ぎしの部分の二色盛りですが、そこまで細かい事は言いません。と手を伸ばし始めた若いの達の前には非情な・・・・・・・・・・・

「なぁ、お前ら。わしが買った寿司だよな。ワシが食うのが筋だろう。」

 哀れ也若いの達・・・・・・力関係からか逆らえないのは下っ端の運命、旨そうだったのでつい作ってしまったスキ身は件のお客さんの胃袋へと消えていくのでありました。


 その日は宴会らしく、寿司の盛り合わせをたっぷりをお買い上げになられて帰られたのでございます。スキ身を取られて可哀想な若い衆の為にスキ身の軍艦を忍び込ませたのはお約束。その席で当たるかどうかは知りませんけど・・・・・・・・・・・

 その後、件のお客様とその付き人っぽい若いの達の姿は度々見かけるのでございます。


 注)件のお客様とそのお連れの方は建築業の親方と職人達であります。決してヤの付く自由業の方々ではありません。見た目そうなんですけどね。


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