異世界から勇者を召喚する合理的な理由

成亜

第1話、そして最終話

「ようこそおいで下さいました、異世界の勇者様」


「………………は?」


あまりにテンプレートな導入で、つい間の抜けた声が出てしまった。


兎にも角にも、俺はこの異世界へと召喚されてしまったらしい。別にトラックに跳ねられた記憶は無いし、多分トラックの方が飛んでる。荷台のジャガイモでもブチまけてたらベストだ。どっかの学園都市じゃないからあり得ないけど。尚、鉄柱に貫かれた記憶も自殺した憶えも無いことは明記しておく。



どうやら目の前にいた人物は王女らしく、また隣にいた宮廷魔導士と合わせて色々と説明された。

人族と、その生活を脅かす魔物、それらを統率する魔王、不利に転じた戦局、実行された禁断の勇者召喚、自分に与えられた加護――


「なるほど、そりゃなろう系で一括りにされるわな」


つい、思った事が漏れた。


「な、ナローケー……? それはどういう意味かね、好意的な文面とは思えないのだが」


王女は首をかしげるのみで、質問をしたのは宮廷魔導士の方だ。


「んー、細かい説明は抜きにして、思ったことを率直に言いますと――それ、現地人に加護盛った方がローコストじゃないですか?」


そもそも、わざわざ異世界からド素人を捕まえて来る合理的な理由がない。

この世界のことを微塵も知らず、戦闘経験すらも無い人間にいくら加護盛ったって限界がある。ついでにとんでもない事故物件掴まされるリスクを考えると、そこらの手練れを取っ捕まえた方が良い。

戦闘経験が無いことに意味があるとかいうならば、捨て子でもいいから子供を連れてきて育てるべきだ。召喚に使う魔力リソースが勿体無い。


というか、召喚したらそれって勇者と呼べるのか? とかいう疑問も無いではないが、別件なので喋らないでおく。


「そういう訳で、何処の馬の骨とも知れない異世界人を召喚するより、この世界の住人が英雄になった方がローコスト・ローリスク・ハイリターンだと思うんですがね」


「い、いやしかし……これは伝承にも残っていることで」


「なら、なんで禁断の、なんですかね。禁じる理由も薄い。なんなら、ポンポン召喚して戦わせた方がいいはず。なのになんで禁じられてしまうのか――」


「それは、異世界から過剰な影響を受けないようにする為だ。貴殿の言う通り、膨大な魔力を使う分迂闊に実行できないのもある」


「影響ねぇ……勇者なんていう一個人に、一国の軍事力を遥かに超えるような戦力を持たせてしまうのも中々に危ういことです。それこそ、人々に多大な影響を及ぼす。その時点で数の差なんて些細な問題じゃないですか? 間隔も開くことですし」


「あ、あの〜……」


ここで、暫く黙ったままだった王女が口を開いた。


「それ、今ここで話す必要ありますか?」


「…………」

「…………」


ある種の鶴の一声でその場はお開きとなり、その晩はご馳走が並んだのだった。

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